先週、宮城県の酒蔵を2つ訪問する機会がありました。
1つは仙台近郊にある佐々木酒造さん、そしてもう1つはこれまで何回もお邪魔している気仙沼男山酒造さんです。
どちらも2011年の東日本大震災で被災しています。ただ、佐々木さんは津波で酒蔵が全壊してしまったのに対し、男山酒造さんは津波の被害は受けたものの、建物自体は今も昔のまま残っています。
こちらは大正時代からの木造の建物で、東日本大震災でも倒壊しなかったという優れた構造です。
その気仙沼男山酒造さんでは、柏さん(写真)という杜氏の方が責任者になってから評価が急上昇し、世界中の日本酒のコンクールで受賞が相次いでます。
代表ブランドは蒼天伝で、食事の邪魔をしないスッキリとした味わいのお酒です。
酒造りをしている古い建物には長年の間に様々な菌が付着して、そのバランスによってお酒に独特な味わいが生まれ、お酒の複雑みを高めているように感じました。
一方の佐々木酒造さんは、全壊した建物が近代的な鉄筋コンクリートの建物にリセットされ、衛生管理をしっかりと行って品質管理しています。
蔵に入る前にエアシャワーが設置してあり、室内に異物が入るのを防止するほどの念の入れようです。男山酒造さんがオープンエアなのとは全く異なりました。
果たして、どちらが優れたアプローチなのでしょうか?
余市のワイナリー巡りをしたときにも、これと似たような疑問を持ったことがあります。
日本で最も人気があるワイナリーで、ワインが入手困難なドメーヌタカヒコさんにお邪魔したとき、オーナーの曽我さんが「ワイン造りはおばあちゃんが野沢菜を漬けるのと同じ」と語っていたのを思い出しました。
一見、アーティストが絵を描くような感覚的なアプローチに見えます。
別のワイナリーでは、それとは対照的にフランスで醸造学を学んだオーナーがステンレスタンクを使い、科学的に研究された方法でワイン造りをしていました。
こちらは、科学者が緻密に計算して造っているイメージです。
全く対照的なアプローチに見えましたが、それぞれの個性がワインによくにじみ出ている気がしました。
酒造りはアートが良いのか?サイエンスが良いのか?
お酒でもワインでも、この疑問がいつまでもついて回るようになりました。
そもそも発酵という自然の営みを人間がコントロールしようとするのが簡単なことではなく、アプローチ方法に正解は無いと理解しています。
私は造り手ではなくただ飲むだけですが、造り手の気持ちを想像しながら飲むと、お酒がより味わい深く楽しめるように思います。
編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。