大谷「50-50」で日本のプロ野球人気が下がる一方の危機

日本ははぐらかし野球を止めよ

米大リーグ・ドジャーズの大谷翔平(30)がやりました。メジャー史上初の「50本塁打、50盗塁」の快挙です。仕上げは3連続本塁打ですから、米国の野球ファンは狂喜しました。日本ハム出身ですから、日本でもメディアは、新聞紙上、いまだかつてない大展開で沸きあがりました。

テレビ、新聞を見ていて、スポーツメディア、球界関係者は大谷に狂喜するばかりで、日本のプロ野球の将来に微塵も危機感をあらわにしていません。大谷の身体の能力、運動神経が超人的であることに加え、米大リーグという舞台があったからこそ、信じがたい記録が生まれました。

大谷翔平選手インスタグラムより

ここで必要なのは、「日本野球はどうなるのだ。ますます一流選手の米国脱出が増え、日本の野球は衰えるのではないか」という危機感です。

新記録達成を伝えるNHKのニュースは、大谷がトップニュースです。巨人軍の親会社の読売新聞は、20日の夕刊で1面トップ、社会面もトップで「大谷/空前の走打」、翌21日朝刊はスポーツ面トップ「打者一本/大記録」、社会面「不世出のショー」。社説まで動員しています。

朝日新聞はさすがに一面トップでなく、左肩で「50-50、大リーグ史上初」、スポーツ面では「伝説の日」という持ち上げようで、号外まで出しました。毎日は1面に3段相当の囲み記事、スポーツ面は「未知の領域に突き進む」でした。

球団経営もする読売新聞は最大級の扱いで、社説は「今後誰も破れないのではないか。歴史的快挙である」。私は大谷を超人的な英雄扱いをすればするほど、大谷ばかりに目が向けられ、日本のプロ野球は大リーグの二軍扱いを受けるに違いない。

ですから、読売新聞がこんなに大騒ぎをするのは、編集方針に甘さがあり、もっと掘り下げた書き方をすべきでした。大谷の「50本」に対し、セ・リーグの本塁打トップの村上(ヤクルト)は30本、2位の岡本(巨人)26本です。パ・リーグも、トップクラスが32本、2位が23本です。

球場の広さは、日米の差はほとんどありません。センター方向は日米ともに400フィート(約120メートル)です。ホームラン数に大差がでてくるのは、大リーグでは強打者にも投手は真向勝負で臨み、「ホームランか三振か」です。大谷は159三振、ホームランを量産しているジャッジは164三振で、本塁打の3倍です。つまり投手も必死の投球で三振を狙い、打者は本塁打を狙う。

日本は強打者に対し、投手はストライクゾーンすれすれか、外したところを狙う。だから本塁打がなかなかでない。試合がダラダラ長く、緊張感がない。日本も、米国のように先発投手の投球数制限(約100球)を設けたらよい。いままでのようにボール球を投げていたら、勝利数を稼げない。

日本野球は監督、コーチ、捕手が「間を取る」ことを好み、試合が長引く。これも米国のように、次の投球までの時間(秒数)を決めたらどうでしょう。大リーグでは、ベースのサイズも大きくし、盗塁を出やすくしている。

米国はスポーツ国で、フットボール、バスケット、バスケット、ホッケーがあり、個人技として、ゴルフ、テニスなどがあります。売上規模、ファンの数を競いあっているから、ファンが狂喜するようなルール改正を果敢にするのでしょう。ビジネスとして割り切っている。

大谷の「42-42」、「50—50」で狂喜し、英雄視する紙面ばかりを作るのは、日本のメディアの幼いところです。大リーグに脱出して、日本にいた時以上の成績を残す選手は少なくない。恐らくメジャー行きに備えて、国内では力を温存し、出し惜しみをしているとみる。だからますますつまらなくなる。そういう問題提起をしてみたらどうなのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。