ロシア、ウクライナ原発施設へ攻撃か

気温35度前後の猛暑や熱帯夜が嘘のように、暴風雨、洪水の襲来後、気候は一挙に秋模様となってきた。秋分の22日の朝はウィーンでは気温が急速に下がって10度以下となり、やや寒いぐらいだ。もうすぐ厳しい冬がやってくるな、と思っていた時、キーウから「ロシアが原子力施設への攻撃を計画している」とニュースが流れてきた。ウクライナ側はウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)にロシアの計画を通知済みという。ロシア側の狙いは明らかだ。厳しい冬の訪れを前に、ウクライナのエネルギー供給網を破壊し、エネルギー危機をもたらすことにあるはずだ。

第68回年次総会で冒頭演説するグロッシ事務局長(2024年9月16日、IAEA公式サイトから)

ロシア軍が2022年2月、ウクライナに侵攻してから、3度目の冬を迎える。気温がマイナスとなる厳冬の到来を控え、キーウ側はエネルギー供給網の安全を最重要課題としている。その矢先、ロシアはウクライナにある原発施設への攻撃を計画しているというのだ。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナの原子力発電所が戦闘で大きな被害を受けずに済んだことは幸運だったが、戦闘が続く限り、これからも幸運が続くという保証はない。原発がミサイル攻撃を受けた場合、どのような被害が生じるか分からない。少なくとも、欧州全土に放射線被害が拡散することが予想される。欧州では1986年4月26日、ウクライナでチェルノブイリ原発事故が発生し、欧州全土に大きな被害を与えたことはまだ記憶に新しい。

ところで、ウクライナには、4つの原子力発電所があり、合計で15基の原子炉があるが、欧州最大の原発サポリージャ原発は、ロシア軍が占領して以来、安全性を理由に稼働を完全に停止している。そのほか、リウネ原発(原子炉4基、VVER-440型が2基、VVER-1000型が2基)、南ウクライナ原発(原子炉3基、VVER-1000型)、フメリニツキー原発(原子炉2基、VVER-1000型)だ。3つの原発はウクライナ全体の電力供給の約50%を担っている。

サポリージャ原発 Wikipediaより

ロシアはウクライナ侵攻の一環として、南ウクライナのザポリージャ近郊にあるヨーロッパ最大の原子力発電所を占領している。この発電所には6基の原子炉があり、合計出力は6ギガワットに達するが、安全性を考慮して完全に停止している。発電所周辺では、度々砲撃やドローン攻撃が確認されている。ウクライナ側による数回の奪還試みも失敗している

IAEAの8月17日の「ウクライナ報告」によると、サポリージャ原発(ZNPP)の原子力安全状況は、無人機による攻撃で発電所敷地の周囲の道路が被弾したことを受けて悪化している。IAEAのグロッシ事務局長によると、「IAEAのサポリージャ支援・援助ミッション(ISAMZ)チームは、無人機が運んだ爆発物が発電所の保護区域のすぐ外で爆発したとZNPPから報告を受け取った」という。爆発地点は、重要な冷却水スプリンクラー池の近くで、発電所に電力を供給する唯一の残存750キロボルト(㎸)送電線であるドニプロフスカ送電線から約100メートルの場所だったという。

ロシアが冬を前に原子力施設へのミサイル攻撃を計画していることに対し、ウクライナのアンドリー・スィビハ外相はX(旧ツイッター)に「原子力発電所や、原子力の安全運転に重要な変電所の配電施設への攻撃計画だ」と書き、原発周辺での戦闘行為は世界的な影響を及ぼす可能性があると警告している。

ウクライナ側の発表によれば、今年3月以降、発電容量が9ギガワット以上の発電所が損傷または破壊された。このため、ウクライナ国内では度々、数時間にわたる停電が発生している。ウクライナで現存操業中の3つの原子力発電所の合計出力は約7.8ギガワットだ。

IAEAのグロッシ事務局長は16日、年次総会の冒頭演説で「ウクライナの原子力発電所に安定した電力供給を提供するために不可欠な電力変電所の監視に力を注いでいる。原子力の安全を維持するために非常に重要だからだ」と説明している。

なお、ウクライナ軍が8月6日以来、ロシア領土内に越境攻撃を開始し、クルスク州に進攻中だ。同州にはクルスク原発(NPP)がある。ウクライナの反攻撃が始まった後、IAEAはクルスク原発への戦闘の影響について警告し、当事者に最大限の抑制を呼びかけてきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。