ヤハタ、ヤワタ、ハチマン:「八幡」地名譚

突然ですが問題です。

滋賀県近江八幡市
福岡県八幡西区
京都府八幡市

それぞれなんと読むでしょう。


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お分かりになりましたか?

正解は

「しがけんおうみはちまんし」
「ふくおかけんやはたにしく」
「きょうとふやわたし」

です。

近江八幡の旧八幡(はちまん)郵便局。

「八幡」の読み方がすべて違います。駅名でも九州の八幡駅は「やはた」、愛知県豊川市の八幡駅は「やわた」、静岡県浜松市の八幡駅は「はちまん」と読みます。サムネイルに登場している岐阜県郡上八幡町は「ぐじょうはちまん」。

自治体名に限らず町名や字として「八幡」の地名は全国至る所にあります。わたしが住む静岡市にも駿河区に「八幡」があり、こちらは「やはた」。八幡山という山があるからついた地名でこちらは「やはたやま」なんですが、八幡山の由来になった山の上にある神社は「八幡神社(はちまんじんじゃ)」。

頭がこんがらがりそうです。

静岡市の八幡は「やはた」。

そもそも「八幡」って何のこと?と思う方も多いと思います。

八幡神は古来日本で信仰される神で武道の神として崇められる応神天皇の御霊とされています。神の寄り付く数多く(「八」は「多くの」の意味を有する)の旗(拠り所)という意味を持つそうです。応神天皇のほか、比売(ひめ)神や応神天皇の母、神功皇后を合わせて八幡三神と呼び、彼女らを祀る神社も存在します。

全国に八幡社、八幡宮と呼ばれる神社が多くありますが、その総本山は大分県の宇佐八幡宮であり、源氏の氏神となったことで武家からの信仰を集め、全国に広まっていきました。八幡信仰の神社は44000社あり、全国で最も多くなっています。

鎌倉の鶴岡八幡宮も源氏の氏神として創建されました。

神社の名前は「はちまん」であることが多いですが、元来は「やはた」と訓読されていたものが、仏教と神道が融合したことにより音読化して「はちまん」と読まれることが一般化していったようです。

八幡(やはた)西区黒崎の案内板。

やわた」については「こんにちは」の「は」が「わ」と読むようにハ行転呼によって誕生した読みとなります。

福岡県八幡西区及び八幡東区は北九州市となる以前は「八幡市」でこちらは本来「やはたし」と読みますが、「やわた」と「やはた」の読み方が混在していたそうです。これは海外とのやり取りの中で「やはた」が「やわた」と誤解されて広がったことが原因といわれています。

八幡製鐵所(現日本製鐵)の読み方は国内では「やはた」ですが、海外での正式名称は「YAWATA IRON&STEEL」と使い分けがされていたそうです。フランス語だとHは読まず「やーた」になってしまうので「W」にした方が正しく読んでもらえるということもあるようです。

京都府八幡市は昭和29年の町制施行時から「やわた」であり、愛媛県八幡浜市も明治時代に成立したときから「やわたはま」です。

さて、これまで3つの読み方を紹介してきた「八幡」。もうひとつ、「ばはん」という読み方があり、この読みだとまったく意味が変わり「海賊」の意味になります。

かつて日本が朝鮮沖などで行っていた海賊行為を倭寇といいますが、倭寇は八幡宮の幟を立てていたことから「八幡船」と呼ばれており、それが「ばはんせん」と呼ばれていました。江戸期には密輸行為を「八幡(ばはん)」と呼んでいたそうです。神の名が密輸行為の異名となってしまうなんて、なんとも不本意なことですね。。。地名においては八幡を「ばはん」と呼ぶところはないようです。

全国に散らばる「やはた」「やわた」「はちまん」。特定の地方で読みが異なるというわけでもなく、同じ地方でも読み方が異なっている珍しいケースだと思います。

みなさんのお近くの「八幡」は何と読むでしょうか?


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。