石破茂候補の的外れな産経インタビュー

22日の夕刻の『産経』のネット版に、今般の自民党総裁選に立候補し、議員の支持が極めて少ない割に党員票がダントツとの世論調査結果が報じられている石破茂氏に、水内茂幸記者がインタビューした330字ほどの短い独占記事が載った。

石破茂氏インスタグラムより

筆者はその冒頭数行を読み、石破候補を支持する多くの党員の方々にお読みいただくべく、急ぎ本稿を書いた次第である。以下にインタビューでの石破氏の各主張と、それに対する筆者の異論を書く。

① 石破氏は、自民党が「政治とカネ」を巡る問題で失った信頼を取り戻すため、一度はあきらめた総裁選への再挑戦を決意したと強調した。

筆者が本欄に何度も書いた様に、この問題は赤旗と朝日が主導して「裏金問題」としてフレームアップした「不記載問題」なのである。それを岸田総裁が初期対応を誤り、離党勧告や役職停止、挙句は派閥解消までやり、自民党議員、とりわけ旧安倍派議員を、弁解すら出来ない袋小路に追いやったのである。

懺悔なしでの岸田不出馬は「責任の放棄」
岸田の突然の総裁選不出馬会見は、議員不在の盆休みの間隙を突いた。それは6月の拙稿「辞める前に岸田総理が『しなければならない』3つの懺悔」で書いた3つの愚策と同工異曲の思い付きの独断で、会見内容とは裏腹にこの人物が何も判っていないこと...

なぜなら、そもそもこの事案は、東京地検特捜部が100人体制で2ヵ月間捜査に取り組んだものの、結局、高額のキックバック(還流)を受けていた議員数名と派閥の会計責任者しか起訴できなかったという、政治資金で義務付けられた報告書に記載を怠った形式犯に過ぎない。

これは筆者の推測だが、起訴された議員数名は還流金を私した証拠を特捜に握られたのではないか。他の不起訴となった約100人、それは安倍派の萩生田氏以下の約80人や二階派などの者だが、彼らに対する捜査からは政治資金以外への流用と特定し得る、確たる証拠が出なかったのであろう。それは『ReHacQ』なるネット番組の萩生田氏の弁明の様子を見ればかなり明らかだ。

とすれば、金額は多いものの、多くの者は規正法違反の認識のない、即ち犯意のない議員である可能性が極めて高い。であれば、岸田氏は自民党総裁として、前述の実態を正直に述べ、「裏金問題」でもなければ、派閥を解消すべき事案でもない、と強弁し続けるべきだったのだ。

犯意の有無を蔑ろにする岸田自民党の迷走
刑法上の「故意」について『世界大百科事典』(旧版)は大要次のように言及している。 刑法では、過失を処罰する特別な規定のない場合には、故意のないかぎり犯罪は成立しないので、故意の意義が重要な問題になる。刑法上の故意とは、犯罪を犯す意思(犯意...

そういう対応をしておけば、派閥を解消する必要も、また総裁を辞する必要もなかったし、総裁選で「政治と金」が争点になることもなかったろう。二桁の秘書を雇えば5~6千万の金が掛かるから、派閥のパーティーをせずに議員をやれるのは、世襲か大金持ちの御曹司に限られてしまう。それが日本にとって良いことか。ことほど左様に岸田氏はこの問題の対応を誤ったのである。

従って、筆者に言わせれば、「自民党が『政治とカネ』を巡る問題で失った信頼を取り戻すため、一度はあきらめた総裁選への再挑戦を決意した」などという石破氏の言い分は、ピント外れも甚だしいという他ない、烏滸の沙汰なのだ。

② 「アジアにおける集団安全保障」を提唱するが、今回は持論とする憲法9条2項の全面削除は訴えず、9条に自衛隊を明記する自民の「改憲4項目」の実現を目指す。

中国を脅威と見做して抑止力を強化するための「アジア版NATO」など機能し得ないことは、ベトナムが共産主義国であり、また他の東南アジア各国が中国の札束と武力の威嚇で容易に屈伏してしまう経済や軍事の状況であることに鑑みれば、明らかであろう。

筆者はそれよりも、日・韓・台・比・豪の連携を強化し、中国の原潜をこの5カ国を結んだ線から東へ出させない同盟関係を結ぶことが重要と思う。韓国と豪州の軍事協力は既に強固だ。またトランプが大統領になれば、米国が金を出さずに中国を封じ込められるこの案に必ず乗ると思われる。その先には、日本が米国から原潜と核ミサイルの技術供与を受け保有する、「核による拡大抑止」がある。

抑止力として誇示すべき「戦う意志」
19日の「産経新聞」に、2月17・18日に行われた「産経・FNN合同世論調査」の結果が載っていた。筆者は以下の2問に興味を持った。 【問】ロシアのウクライナ侵攻開始から今月で2年となるが、日本を含む西側諸国からの今後のウクライナ支援はどう...

9条2項の削除から安倍さんが提唱した「自衛隊の明記」に妥協したのは情けないが、正しい。但し、明記するのは自衛隊ではなく「国防軍」であるべきだし、同時に「自衛隊法」を改正し、警察権を律するポジティブリストから、軍を律するネガティブリストへの変更が必須である。ポジティブリストに縛られた今の自衛隊が、米軍と共同作戦が行えないことは自明である。

③ 靖国神社への参拝は、天皇陛下がご親拝できる環境が整わない限り、行わない。

この主張が石破氏の考えの浅さを最もあからさまに露呈している。そもそも総理大臣が参拝しない靖国に、天皇陛下が参拝できるはずがないし、総理がその「環境を整」えずに、誰がやるというのか。

中曽根首相が靖国参拝をやめた理由が『自省録』に書いてある。それは中曽根氏と肝胆相照らす仲であり、中国を善導する可能性のあった胡耀邦が、中曽根氏の靖国参拝で攻撃され、失脚することを恐れたからだった。天安門事件が胡耀邦を追悼する集会から発展したことは周知の通りである。

中曽根康弘『自省録』に見る総裁選の今後
不記載問題に慌てて派閥を潰した岸田総裁の「お陰」で9人が乱立し、バトルロイヤルと化した自民党総裁選に小泉進次郎が出るというので、中曽根康弘の『自省録』(新潮文庫)を再読した。冒頭が、進次郎の父純一郎総裁が中曽根に次期選挙への不出馬を...

陛下は75年以来、参拝なさっていない。ならば、総理大臣が率先して靖国に参拝し、陛下参拝の道筋を付けるべきではないのか。中国は例によって囂々の非難を日本に浴びせ、何らかの制裁を科して来るに相違ない。段階的に解禁するらしい海産物も再び全面禁輸にするかも知れない。

それで良いではないか。解禁に釣られてホイホイと輸出すれば、いずれまた経済締めつけの武器に使われることだろう。一方で、先だっては深圳で日本人学校の児童が刺殺された。6月にも蘇州でも日本人学校の児童親子が襲われ、こちらは中国人運転手が犠牲になった。誠に痛ましい限りだ。

北京による言論統制が恣意的に行われ、日本人学校をスパイ視するような書き込みを放っているからこういう事件が起こるのであろう。まさにそういう時だからこそ、岸田氏は意味のない外遊などより、靖国参拝をするべきではないのか。それが次期総理の参拝に繋がり(高市氏は行くと述べている)、延いては天皇陛下の参拝にも道筋が付くというものだ。

この短い記事を読み、石破氏がこれほど考えの浅い人物であったか、と改めて呆れた次第である。