小林製薬は赤いトマトに見えるのか? --- 中村 哲也

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「トマトが赤くなると医者が青くなる」という西欧のことわざがあるという話をよく聞く。トマトは健康によい食べ物で、これを食べれば医者いらずになるということのようだ。

江戸後期の風習を記した書物にも「橙や蜜柑の実の黄色を呈する頃に至れば、医師の顔色青くなるといふは江戸時代の悪口なり」とあるようだ。柑橘類も健康に良い食べ物ということだろう。

増大する日本の国民医療費を思えば、医者いらずとなる取組みは、日本において積極的に進めるべきことだ。その一例が、セルフメディケーションで、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とWHOが定義しているらしい。

トマトや柑橘類は薬(medicine)ではないが、医食同源(薬食同源)や薬膳という言葉もあることから、健康に良い食事を摂るよう努めることは、広義のセルフメディケーションと言える。

さて、小林製薬は、体の不調を感じる人に向けた様々な商品を開発、販売している。独特なネーミングを持つこれら商品を利用することにより、医療機関のお世話にならずに、体の不調を解消した人も多いのではないだろうか。広義のセルフメディケーションを進めていた企業と言えるだろう。

もちろん、今回の紅麹が、健康被害を生じさせていたとするなら、それは大問題であるが、総じて国民医療費の抑制に貢献していたことは否定されるものではないだろう。

医は仁術と考える医師にとって、小林製薬は患者を減らす良きパートナーなのだろうが、医は算術と考える医師からは、売上を抑制している企業であり、煙たい存在、赤いトマトに見えるかもしれない。

ここで気になるのが、江戸時代と異なり、現代日本の医師は、強大な政治力を有していることだ。

今の厚生労働大臣の父である武見太郎氏は、昭和32年から25年間日本医師会会長を務めケンカ太郎と呼ばれた。なかでも、昭和36年の医師会、歯科医師会の全国一斉休診が有名だ。

この経過について、「日本医師会通史」(日本医師会HPに掲載)には、

日本医師会は、政府・自民党の認識を改めさせるため、2月に全国一斉休診を敢行し、さらに再度の全国一斉休診と引き続いての保険医総辞退を通告した。自民党三役との会談が重ねられた結果、「診療報酬単価の10%を上回る引き上げ」や「制限診療の緩和」が合意されたので、日本医師会は一斉休診と保険医総辞退の態勢を解いた。

と記されている(なお、この「日本医師会通史」を読むと、随所にこうした“自画自賛?”の記述があるので、ご興味のある方は、ご覧になるとよいかと思う)。

トマトが赤くなっても、現代日本の医師は、簡単には青くならないのかもしれない。

中村 哲也
団体職員(建設分野)