過去、似たようなことを言ってたとぼけた総理大臣がいた。鳩山由紀夫と言う。もう既に過去の人であり、自他ともに認める宇宙人なので、今更、鳩山由紀夫を取り上げるのもどうかと思うが、ともかく、石破茂同様、似たようなことを言ってた人がいたのも事実だ。
鳩山由紀夫は経済圏としての東アジア共同体構想であり、今回、石破茂は欧州のNATOのような軍事的互恵関係の枠組みを構想しているように聞こえる。
鳩山由紀夫の東アジア共同体構想は、友愛の精神のもと、アジア諸国が皆で幸福になりましょうという、綺麗事に彩られた構想で、その核となるのが、
日本製品がアジア諸国で普及しても、日本でアジア諸国からの輸入が増えても、それだけで相互理解が実現することはありません。「人と人との触れ合い」を通じてはじめて、我々は真にわかりあえます。その技術、道具を互いに学びあうことも大切です。こうして我々は、様々な協力を始めることができるのです。
という、いかにも美辞麗句を並び立てただけの言葉の羅列に過ぎない。
経済発展を遂げていた中国の台頭を踏まえた時、デフレ不況に喘いでいた日本にとって、中国経済は不可欠であると同時に、日本の技術を中国サマに無条件で提供しようと言う風にも聞こえる。
これに猛反発したのが時の自民党政権だった。それは当然だろう。何を好き好んで日本が世界でプレゼンスを獲得するための経済の柱となる革新的技術を、中国サマの為に提供しなければいけないのか?しかも、中国共産党は1990年代以降より進めてきた経済発展の裏で、国策として様々な謀略に関して警戒感を強め始めた矢先、美辞麗句に彩られた鳩山由紀夫の言い回しは、日本を中国に売り渡すかのような聞こえ方をしたのも当然だ。
加えて、これも当時から指摘されていたことであるが、尖閣諸島に関する鳩山由紀夫の見解はほとんどの日本人の考え方とは真逆のものだった。
近隣諸国と経済的連携を踏まえながら、相互に発展を図るのは、国家としては理想形であると思うが、一方、軍事力を背景に他国の主権を侵害するような行為に対して、一定の警戒感を持つのは、個別的自衛権の範疇で当然であり、その意味で、あたかも自国の国益を害するような発言を現役の総理大臣、或いは元職の総理大臣が行うことは、国民に対する一種の裏切りとも言えないだろうか。
理想は理想として大切にすればいいが、一方、その理想ばかりが先行することで国民に不安感を及ぼすような総理大臣が、果たして、国家と国民のリーダーと呼べるのだろうか。その疑問は拭えない。
日本は戦後、GHQの管理を経て現在の主権国家たる日本のあるべき防衛の形を模索してきた。その帰結として、現在の日米安保の在り方が見出されてきた。
石破茂は、現行の日米安保を覆すものでもなく、自衛隊の修練も含めた地域に関して、アメリカに協力を求める、つまり安保条約と日米地位協定は別物であって、日本がアメリカに基地提供し協力しているように、相互主義でアメリカにも自衛隊に対して協力してもらうのは当然だ、との認識のようだ。これも、一見、尤もらしい言い分に聞こえるが、そもそも、日米地位協定という非常に高度な外交問題に関して、アメリカに事前協議を行った上で発言しているのか、大いに疑問だ。
仮に日本のそれが相互主義、或いは互恵関係の一環だと言うなら、実質的に国連決議の中身にも抵触する問題であり、国際的にも最高度に位置する日米安保上の問題にも発展しかねない。
それに加えて、アジア版NATOの創設に中国の加盟を否定するものではないかのような発言があったとなれば、アメリカとの同盟関係に亀裂を生じかねない。
総裁選を経て総理大臣に就任し、10月1日の組閣には、森山自民党幹事長の意見が大いに取り入れられたと言われている。今回の組閣に関して、安倍派、二階派外しを露骨に行ったこと、また、総裁選本選において麻生派を出し抜いてキングメーカー菅元総理の働きを重視したことが、自民党内の融和を欠いた人事となったことを懸念する識者は多い。
幸いにして、再三、触れているように、現状で野党の支持率が低下している中において、総選挙をやったとして、自民党は議席を減らしたとしても、野党が政権を奪取する可能性は限りなく低い。であれば、減らせた議席数にもよるが、新総裁の責任論を追求するまでには至らないだろう。
ましてや、鳥取選挙区で絶大な支持率を誇る石破総理は、万が一にも小選挙区で議席を落とすことはない。つまり石破茂がアジア版NATOなどという妄想を抱き、自民党総裁選で打ち出したのは、自分が総裁になれば、という大前提で自ら理想としてきた安全保障のあり方を言葉に表したが故だ。
地方の有権者は、石破茂が尤もらしい顔で、なんだか小難しい外交の話、安全保障の話をすれば、石破は日本国と国民の安全保障を本気で考えていると勘違いするのも分からないではない。
少なくとも、ここ20年くらいの日米安全保障の現状を見てきた人間には、石破茂の言うアジア版NATOの幼稚な理論、安倍元総理が苦労してようやく形にしてきた「自由で開かれたインド太平洋」構想、岸田前総理がこぎつけた「インド太平洋経済経済枠組み(IPEF)」の努力を霧散させるほど、幼稚な理論なのだ。
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以降、
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。