最低賃金1500円の「清算主義」は韓国に学べ

池田 信夫

石破首相は所信表明演説で2020年代に最低賃金1500円という公約を打ち出した。これは岸田前首相が「2030年代なかばまでに」と言っていたのを前倒ししたものだ。今度の総選挙では、最低賃金に関しては与野党の公約が一致したが、それは実現できるのだろうか。

毎年7%以上の賃上げが必要

2024年度の最低賃金の全国平均は1055円。これをあと5年で1500円にするには年率7.3%、合計445円の賃上げが必要で、過去5年の150円をはるかに上回る(図1)。

図1

韓国の最低賃金引き上げの教訓

こんなに急激に賃上げしたら、失業が増える。韓国の文在寅政権は「最低時給1万ウォン」を公約に掲げ、2018年に16.4%、19年に10.9%と大幅な最低賃金の引き上げをおこなった(20年はコロナで中止)。その結果、中小企業の廃業が激増し、設備投資は減った(図2)。

図2

最低賃金の激増で雇用者が減り、短時間雇用者が増えた(図3)。

図3

ただ韓国の成長率は2018年に一時的に下がったが日本を逆転し、コロナ後は上がった(図4)。

島澤諭氏

図4

最賃引き上げの「清算主義」で企業の新陳代謝が進む

ここからいえるのは、最低賃金を急激に上げると一時的には失業率が上がり、投資が減って成長率がマイナスになるが、長期的には成長率は上がるということである。清算主義で古い企業が減り、新しい企業が生まれて生産性が上がるためだ。

韓国は、急速に少子高齢化が進んでいる点は日本と同じだが、グローバル経済の影響を受けやすく、企業の新陳代謝が激しい。文在寅政権の無謀な最低賃金引き上げは、結果的には代謝を促進して成長率の引き上げに貢献した。

韓国は1997年にもアジア金融危機でIMFの資金援助を受け、緊縮財政で成長率がマイナスになったが、その後は財閥が解体され、起業が増えて成長率が上がった。同じ時期に日本も金融危機で成長率が落ちたが、その後の回復は韓国より遅かった。コロナ後の回復も韓国より遅く、GDP格差は今後も開いていくと予想されている。

しかし日本では財界が「中小企業の廃業が増える」と最低賃金1500円に強く反対している。引き上げは低収益の中小企業を廃業させて新陳代謝を進めるために必要なのだが、「地方創生」と称して財政バラマキを倍増する石破首相に、その覚悟があるとは思えない。

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