米国で最大級のハリケーン「ミルトン」が9日夜(現地時間)、米フロリダ州南部に上陸し、多くの家屋が破壊され、死傷者も出た。一方、欧州では9月上旬まで灼熱の日々は続いたが、各地で大洪水が発生し、多数の住居が浸水し、被災地周辺の住人は安全な避難場所に移動するといった事態になった。米国のハリケーンや欧州の大洪水は「環境対策を十分してこなかった人間が作り出した災害だ」と指摘する声が聞かれるなど、地球温暖化、それに伴う気候不順が改めて注目されている。
ところで、環境保護政党を看板に掲げる「緑の党」は多くの国で選挙の度に得票率を落としている。自然災害の多発を受け、環境問題がクローズアップされている中、「緑の党」は国民の支持を失ってきている。本来、環境保護の大切さを強調し、「緑の党」への支持をアピールできるチャンスだが、ドイツやオーストリアの「緑の党」は党歴代最低の得票率といった具合で、選挙の度に有権者の「緑の党」離れが浮かび上がってきているのだ。一見奇妙な現象に「緑の党」関係者も頭を抱えている。
ドイツの場合、「緑の党」はショルツ連立政権に参加しているが、9月に実施された独東部の3州議会選挙ではいずれも惨めな結果だった。テューリンゲン州議会選では得票率3.2%に終わり、議席獲得に必要な得票率5%の壁をクリアできずに州議会で議席を失った。ザクセン州議会選では5.1%と辛うじて5%を超えたが、ブランデンブルク州議会選では再び得票率4.1%で前回比でマイナス6.7%と大きく票を失った。州議会選の党の低迷に責任を取る形で、同党の共同党首、オミット・ノウリポアー氏とリカルダ・ラング氏の両氏が先月25日、辞任した。ノウリポアー氏は「わが党は過去10年間で最も深刻な危機にある」と述べている。
隣国オーストリアでも同様だ。9月29日に実施された国民議会選でネハンマー連立政権のジュニアパートナー「緑の党」は得票率8.3%、議席16議席に留まり、「ネオス」に抜かれて第5党に後退した。ちなみに、オーストリアでは10月13日、フォアアールベルク州議会選が行われたが、「緑の党」はここでも得票率12.5%で前回比でマイナス6.4%と大きく票を失っている。
選挙のたびに票を大きく失うと、「緑の党」関係者でなくても「なぜだろうか」と呟かざるを得なくなる。先述したように、異常な灼熱の日々、その後の100年ぶりの自然災害となった大洪水の発生と、多くの人々が環境問題を考えざるを得ない時にだ。その時、環境保護政党の「緑の党」が選挙では有権者の支持を獲得できないばかりか、党史上最悪の結果に終わっているのだ。オーストリアだけではない。ドイツなど他の欧州諸国でも程度の差こそあれ同じような現象が見られる。
オーストリアは保守党「国民党」と「緑の党」の連立政権だが、ネハンマー国民党党首(首相)は連邦議会選後、新政権交渉では「緑の党との連立はお断りだ」と言っている。ネハンマー首相の場合、「緑の党」嫌いはそれなりの理由がある。「緑の党」のレオノーレ・ゲヴェスラー環境相が6月16日、国民党との話し合いもなく一方的に、「ルクセンブルクで行われるEU環境相会議で自然再生法に賛成票を投じたい」と表明したのだ。「自然再生法」(Nature Restoration Law)は2050年までに気候中立を達成するためのEUの包括的な気候保護パッケージ「グリーンディール」の重要な部分だ。その重要な法案を連邦政府内で承認を受けず、勝手に賛成を表明したことから、ネハンマー首相は「職務乱用だ」と激怒したのだ(「『自然再生法』を巡る環境相の独走?」2024年6月18日参考)。
21世紀に入って環境保護が重要課題であることはほぼ全ての政党が認めるところだ。環境保護問題は「緑の党」の専売特許ではなくなって久しい。中道右派・左派も環境保護政策をその政治目標に掲げていることもあって、「緑の党」は存在感をアピールする必要性を強いられてきた。その結果、その言動が過激化される傾向が見られるのだ。
その代表的な例は「ラスト・ジェネレーション」(最後の世代)と呼ばれる環境保護グループだ。彼らは路上を封鎖したり、美術館の絵画にペンキを浴びせかける、空港内での座り込みなどをして環境保護を訴えてきたが、一般社会からは批判的に受け取られ、活動家の一部は破壊行為、公共秩序の妨害などで逮捕されている。その結果、罰金を支払う金が足りないため、活動を止めざるを得なくなった。
ドイツの「緑の党」はショルツ政権下で脱原発を主導し、昨年4月、脱原発を実現したが、国民の80%は現在、エネルギーコストの高騰をもたらした脱原発に不満を持っているという世論調査結果が出ている。グリーン政策に伴うエネルギー価格の高騰、競争力の低下はドイツの国民経済に大きな負担となってきている。環境保護という大義を掲げる「緑の党」の活動が現実の国民の関心や国民経済と乖離する現象が見られるわけだ。
環境活動家のグレタ・トゥンベリさんは今年に入り、オランダ、デンマーク、そしてベルギーなど各地で警察側の要請を無視して座り込むなどをしで拘束されている。グレタさんは一時期、環境保護運動の世界的なシンボルと見なされ、国連総会でも演説してきたが、グレタさん関連のニュースはここにきて「拘束された」といった類が多くなってきた。グレタさんは環境保護問題だけではなく、最近ではガザ紛争でイスラエル批判にも奔走している。グレタさんの近況は「緑の党」の低迷とどうしても重なってくる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。