「人為的CO2排出量は大気中CO2濃度変化に影響しない」という論文

知人で在野の研究者である阿藤大氏の論文が、あれこれ紆余曲折の末、遂に公表された。

紆余曲折と言うのは、論文が学術誌に掲載されるまでに、拒否されたり変な言いがかりを付けられたりで、ずいぶん時間がかかったからだ。これは彼に限ったことでなく、いわゆる人為的温暖化説に懐疑的ないし否定的な論文が、いつものように出会っている出来事である。

公式な和訳は別サイトで読めるが、下記のようになっている。

以下、表題と要旨のみ記す。

多変量解析は「大気中CO2増加は人類起源」の理論を棄却する:海表面温度が支配する
(阿藤大、独立した研究者、大阪、日本)

【要旨】

大気中CO2濃度の変動に対する確実な因子の影響度は、明確にはされていない。特に海表面温度(SST)による大気中へのCO2の放出及び吸収の影響度と、人類による化石燃料使用による影響度の徹底的な比較はなされていない。

当研究では、各々の影響度を多変量解析により検討した。世界の著名な気候調査機関およびエネルギー関連機関より、一般公開されているデータを用いた。各年度の大気中CO2増減値を目的変数とする、線形重回帰分析を行った。各年度のSSTと排出量を説明因子とした。

1959年以降において、NASA由来のSSTを用いた回帰モデルが、年間CO2増加値を最も良好に予測した(回帰係数B=2.406、P<0.0002、Model R2=0.663、P<7e-15)。しかしながら、人類の排出量はどの回帰モデルにおいても、決定因子とはならなかった。

更には、英国HADLEYセンター由来のSSTより得られた回帰式により予測した1960年以降の大気中CO2濃度は、実際のCO2濃度と極めて高い相関を示した(ピアソン相関係数 r=0.9995、P<3e-92)。2022年度での誤差は1.45ppmであった。

結論を述べる。当研究は大気中CO2濃度の年間増加値の独立規定因子がSSTである事を、重回帰分析により証明した初めての研究である。そしてそれは強力な予測能を示した。一方、人類のCO2排出は無関係であった。この結果は、大気中CO2が自然現象として変動する事を証明している、人類の活動とは無関係である。

要旨の日本語は、学術論文なので厳密を期すため少し難しい表現になっているが、要するに、大気中CO2濃度変化に強く影響している因子は海洋表面温度(SST)であって、人間活動から排出されるCO2は殆ど効いていない、と言う研究結果である。その例を上の図で示す。

これは本論文のFigure1である。両方の図ともに青の棒グラフが大気中CO2濃度の毎年変化で、平均的には1.5〜2ppmだが、実際には毎年細かな変動が見て取れる。一方、右図のオレンジ線が各年の海表面温度(SST)変化、左図の赤線が人為的CO2発生量の変化である。

一見して明らかなように、大気中CO2濃度変化とSST変化は細かな変化まで相関度が高く、片や人為的CO2排出量の変化は緩やかにしか変動しておらず、SSTの変化との相関性が低い。この様子を、多変量解析と言う統計的な手法で数値化して見せたわけである。

これもまた、世の中に広まっている「人為的温暖化説」を根本から否定する内容だ。何しろ、世の中では「人間が出すCO2が大気中CO2濃度を上げて、それが地球温暖化の原因だ」と言う説が主流なので。論文は、この説前段の「人間が出すCO2が大気中CO2濃度を上げて」がウソだと言っているわけだ。

多くの人は驚くだろうが、実は同じ内容を私は21年4月のエントロピー学会論文で主張していた。その内容を詳しくはアゴラに書いた

データが語る「人為的地球温暖化説」の崩壊
気候関係で有名なブログの一つにClimate4youがある。ブログ名の中の4が”for”の掛詞だろうとは推測できる。運営者のオスロ大学名誉教授Ole Humlum氏は、世界の気候データを収集し整理して世に提供し続けている。 内...

私の主張は、人類起源CO2は自然界で循環している量の5%に満たないので、毎年の大気中CO2濃度変化約2ppmの高々5%、つまり0.1ppm程度しか占めていないだろうと言う内容だった。だから、脱炭素などやっても効き目はない、と。

この主張は、地球上のCO2収支の分析から導いたことだが、今回の阿藤論文は、大気中CO2濃度変化の観測データと人為的排出量やSSTの変動がどの程度相関しているかを調べたもの。つまり実観測データの分析から得られている。全く違うアプローチで、同じ結論が出たわけだ。真実は一つなので、当たり前ではあるのだが。

もっとも、SSTが大気中CO2濃度変化に効くというのは、ある意味当然の話だ。一般に、液体に対する気体の溶解度は、温度が上がると下がる、つまり温度が上がると液体から気体が追い出されるから(ヘリウムのように、溶解度が温度でほぼ変わらない気体も中にはあるが)。だから海水温が上がると接している大気の温度も上がり、同時に溶けていたCO2が大気中に出て濃度を上げる。

つまり海水温→気温→CO2濃度の変化が順に起きる。故にこれらは時間的なズレを伴いながら綺麗に相関する。科学的には何の不思議もない。実際、気温→CO2濃度変化が相関するとの指摘は、かなり以前からあった。

この論文は、英語圏では注目されて論争のタネになるはずだ。日本でもいずれ注目されるはずだが、そのきっかけとしてアゴラに紹介して世に知らしめようと思う。偉そうに「脱炭素」を唱えている人々に冷や水を浴びせかけるためだ。あんたらの試みは何の効力もないんだよ、と。

以前にも書いたように、信頼すべき科学的データと推論は全て、人為的温暖化説を否定する方向に向かっている。これを覆す事実は、私の知る限り出てきていない。

そもそも、大気中CO2が地球大気を温めて温暖化が起こると言う仮説は、2021年にノーベル物理学賞を受けた真鍋淑郎博士ら4人のモデラー(気候モデルを作成し、それをコンピューターモデルに変換する技術者)によって1960〜80年代に作られた。

その過程は気候研究者・木本協司氏が「地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ」(2020年宝島社刊)の中の「科学者たちの仮説と反駁の120年史 CO2温暖化説はどうして誕生したのか?」と言う章に詳述されている。

やや専門的な内容だが、この説がどのようにして生まれたかを非常に分かりやすく説明している。そして、真鍋基本論文で用いられた「気温減率(=高度とともに気温が低下する割合)は一定」という仮定が、実際には大きな計算誤差を生むことが何人もの研究者に指摘されていたにも拘わらず、IPCCがこれを採用し、科学的には証明されていないCO2温暖化説が世界的に広まるきっかけになったと述べている。

故に、この説は観測データを基に築かれたものではなく、コンピューター計算モデルで作られた仮説に過ぎず、何一つ「証明」など行われてはいないと言うのが事実なのである。

なお、木本氏はアゴラにも「日本を覆う「脱炭素」の誤りについて」との論説を発表されており、詳しい図解があって非常に分かりやすい。これも是非多くの方々にお読みいただきたい。

日本を覆う「脱炭素」の誤りについて
1. IPCC設立の経緯 IPCCのCO2温暖化説の基礎は、Princeton大学の真鍋淑郎が1次元モデル(1967)と3次元モデル(1975)で提唱しましたが、1979年にMITの優れた気象学者R. Newell が理論的に否定しま...

実は私自身、ずいぶん時間をかけて「CO2が温暖化の真の原因であるのかどうかを知るための努力」をしたが、その具体的内容は、主に論文でこの説をデータ的に証明したものはないかを探す作業だった。

しかしそれは徒労に終わった。今思えば当たり前の話だ。実データで証明されていない仮説なのだから。これで漸く謎が解けた。CO2温暖化説を擁護する本(例えば鬼頭昭雄「異常気象と地球温暖化 ー未来に何が待っているか」岩波新書1538、その他)をいくら読んでも、なぜその科学的根拠が明確に示されず、漠然とした概念図で説明されているのかが。

しかし世の中には「今世紀末には3〜5℃もの気温上昇が起きる」と言った「予測」が何やら正しい御宣託であるかのように広まっている。その根拠が極めて薄弱であるにも拘わらずだ。

根拠薄弱と言う理由は、これらの予測はすべてコンピューター・シミュレーションの結果であり、この方法は現実に多くの問題を抱えているからだ。

大きく分けても、1)気候モデルそのものの問題、2)計算手法・方法に関わる問題、3)この種の計算自体に関わる数学的な問題があり、いずれも高度に専門的な問題なのでマスコミ等にも出てこないが、温暖化予測というのは世の多くの人々が考えているより、遙かに不確実なものであることは知っておいて良い。

その辺の事情は、中村元隆「気候科学者の告白 地球温暖化は未検証の仮説」に詳しい。気候研究界の内部事情が良く分かる。私はこの本から教えられたことが多かった。この本も、必読書と言うべきだろう。

気候モデルのコンピューター・シミュレーションが役立っている例は、天気予報である。あれこそ、気候モデルを三次元偏微分方程式で表し、コンピューター・シミュレーションで計算して表現したものである。TVの天気予報で、気圧配置などが刻々と動く様子が出てくるが、あれが計算結果の一つである。

基本的には、連続の式やナビエ・ストークス式などの多元連立偏微分方程式を、解析的には解けないので、計算機を用いて数値計算で解くのである。計算量が膨大なので、人間が計算過程を追跡することは不可能であり、事実上、計算結果を信じるしかない。何しろ、現代の超高速コンピューターが数時間で計算する内容を人間が手計算で追跡すると、万年オーダーの時間がかかるそうなので。

天気予報の場合、我々が実感するのは、1〜2日後の予報はまずまず当たるが、一週間後はあまりアテにならないことだろう。実際、天気予報の的中確率は、1週間後にはかなり下がってしまう。3ヶ月後の長期予報など、アテにしている人は少ないはずだ。そもそも、3ヶ月前の予報など、誰も覚えていない。つまり現在の天気予報は、限られた地域の、比較的短期の予報でのみ、使用に耐えるレベルなのである。

また台風などでは、発生も進路予測も、まるで当たらないことは誰でも知っているはずだ。「予測」が刻一刻変わると言うことは、実際には何も予測できていないと言う意味であるから。つまり、何年も先の「気候予測」など、殆ど「当たるも八卦当たらぬも八卦」の世界なのである。

それには理由があって、この種の計算過程自体が膨大な反復計算のため、初期のほんの小さな誤差や誤りが次第に蓄積して行き、最終的に「発散」その他、とんでもない計算結果になるというのは、全く珍しくもない事態だからだ。

むろん、計算量が膨大なので、どこで間違えたかなど検証のしようもない。従って、ある条件を入れては計算させて結果を見る、と言う作業を繰り返すことになる。その場合、対策として多く行われるのは「チューニング」つまりモデルに含まれる各種の変数(パラメーター)を「調整」、つまり数字を適当にいじって変え、それらしい結果が出るようにするという行為である。身も蓋もない言い方になるが、それが事実なので仕方がない。

つまり、コンピューター・シミュレーションと言うのは、変数をいじることでどんな結果でも導くことができるので、研究者の数だけ予測例があるのが現実だ。

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実際、以前にも紹介したが、クーンが書いた本「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」には、世界中の19のグループが作った29の異なるモデルによる267種類のシミュレーション結果は全部違っており、しかも過去の温暖化も再現出来ていなかった、と書いてある(その図も載っている)。

真正科学の重要な条件は、再現性(同じ条件で試したら誰でも同じ結果が出ること)や、認証可能性、or 明証性(間違ったら、それが認識できること)であるが、この種のコンピューター・シミュレーションでは明らかにこれらの条件が満たされていない。研究者の数だけ結果があり、しかも計算過程も検証できないのだから。故に、これらは真正な科学とは認めがたい。

つまり、国連事務総長やグレタ嬢の言う「科学」は、主にIPCCの科学者たちが愛用してきたコンピューター・シミュレーションによる予測結果である以上、「似非科学」に過ぎないと私は思う。

またコンピューター・シミュレーションを用いた研究手法にEA(イベント・アトリビューション)がある。新聞などに良く載る「もし温暖化がなかったら生じなかったはずの災害・猛暑」などの主張は、このEAによるものである。「温暖化のために、それが無い時に比べて被害が何倍も増えた」等の主張もその一種だ。

しかし、これらは元々、モデル・シミュレーションに強く依存している。「もし、こうでなかったなら」という仮定と再現は、仮想的世界の中の出来事に過ぎず、これらの結果はすべてシミュレーションによるものなので、上記の困難をそのまま抱えているからである。この事実を隠して、あたかも現実世界の話のように伝えるマスコミの罪は深い。

しかるに、マスコミ、例えば朝日新聞は最近も「朝日地球会議2024」なるものを開催し、「待ったなしの地球沸騰では、異常気象によって自然災害が多発。気候難民が発生し、食料危機も引き起こされています。」などと煽りに煽っている。

そして、議論の全ては、人為的地球温暖化説を前提に行われている。ここに述べたような「異論」が入り込む余地は全く無く、それでいて、今年のメインテーマは「対話でさぐる 共生の未来」となっている。

「私たちは対話を重ねることで共感や理解、協調、希望がうまれ、共生できる持続可能な未来につながっていくと考えます。」

とも書かれている。

しかしここには、全ての前提となっている「人為的CO2温暖化説」への見直しや反省がひとかけらもない。せめて、冒頭に掲げた阿藤論文でも皆で読んだらどうだろうか? 出演者は有名人を始め、ずいぶん多人数なようだが、この中の一人でも科学的真実に目覚めて、異論を述べる人は出てこないものか・・?

これら多数の出演者の全員が、科学的根拠のない「人為的CO2温暖化説」=「現代の神話」の前にひれ伏し、全く効き目のない脱炭素政策を語り、「対話でさぐる 共生の未来」を強調する姿は、私にはどこか不可解で不気味な光景に思われる。