トランプ大統領が復活する。8年前にクリントン氏の勝利を予測していた多くの人に驚きを引き起こしたトランプ大統領。このブログでも取り上げたことがあるが、私は8年前の選挙当日、メキシコシティーで元駐日メキシコ大使と夕食を共にしていた。メキシコ外務省の幹部の一人であった彼に、「夕食をしていても大丈夫か?」と尋ねたところ、「ヒラリーで決まりだから大丈夫」と答えた。
食事中に目を通していた選挙速報を眺めつつ、段々と顔が険しくなってきた彼の表情を今でも鮮明に覚えている。今回、二人の候補が拮抗していると報道されていたが、「隠れトランプ派」が潜んでいるので、私はトランプ勝利を予測していたが、あまりにも早い決着には驚いた。ガラスの天井は依然として強固だ。
この結果に、世界中に種々の不安が広がっているが、米国の科学の世界は早速反応した。Nature誌には、「‘We need to be ready for a new world’:scientists globally react to Trump election win」と「Trump’s US election win: researchers must stay strong and united」という二つの記事が掲載されていた。Science誌にも「Trump won. Is NIH in for a major shake-up?」というタイトルの記事が掲載された。
国際的な最大の懸念は温暖化対策である。前回、地球温暖化を全否定したトランプ大統領なので、今回も同じ行動をする可能性が高い。そして、要職に就くと予想されているケネディ氏は、ワクチン反対派である。健康保健対策にも大混乱を引き起こしかねない。
米国がコロナウイルス流行に迅速に対応できなかった理由の一つとして、米国CDC(疾病予防管理センター)予算の17%削減があげられている。米国が世界中に張り巡らせていた感染症監視ネットワーク予算が大きく削られたため、情報収集が後手に回った。米国CDCには10,000人の常勤職員がおり、2020年度の予算は約77億ドル(現在のレートで1兆円超)である。
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コロナウイルス感染症流行時のトランプ大統領とNIH所長とのバトルは記憶に新しい。今回は上下院ともに共和党優位となる公算が高い(上院は共和党過半数で確定、下院は現時点で共和党優位)ので、トランプ大統領の権限が非常に大きくなり、科学政策にも彼の意向が反映されることになる。彼のイエスマンだけが科学行政を牛耳るととんでもないことになりかねない。
トランプ大統領が、現在、科学の重要性をどの程度認識しているかは定かではないが、もし、科学を軽視すれば地球規模での温暖化対策は難しくなる。そして、中国が科学分野で圧倒的な優位に立つ可能性が高くなる。日本が米国と協力して科学分野を推進することになれば、日本としては失地挽回につながるのだが?今の混乱した政治状況でもそのような発想ができる政治家が出てきてほしいと願うばかりだ。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。