ドイツで来年2月23日、連邦議会の早期選挙が実施されることになった。そのために、ショルツ首相は12月16日、自身の信任投票を議会に要請し、予定通りに信任が否決されたならば、連邦議会は解散される。そして60日以内に総選挙が実施されることになったわけだ。
ショルツ連立政権は2021年12月、社会民主党(SPD)、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党から成るドイツ初の3党連立政権だった。ただ、政治信条の相違から政権内を対立を繰り返してきた。そして今月6日、ショルツ首相がFDP党首のリントナー財務相を解任することで3党連立は崩壊した。その後、少数政権となったショルツ首相が議会にいつ信任投票を要請するかで注目されたが、野党第1党の「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首とSPDの連邦議会院内総務ミュッツェニヒ氏と間で合意し、少数派政権となったショルツ政権が残した重要な法案、2025年連邦予算案などでCDUが支持することを条件でショルツ首相は来月16日に信任投票を議会に要請、連邦議会を解散して総選挙を早期実施することになった。なお、ショルツ首相自身は来年1月に信任投票を要請し、選挙日は3月の予定だったが、早い時期の総選挙を願うメルツ党首ら野党からの圧力もあって、「3月総選挙」から「2月総選挙」の実施で妥協した経緯がある。
連邦議会選挙の日が決定したことを受け、各政党は既に選挙戦モードに入ってきた。102日間の戦いだ。複数の世論調査では「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が断トツで32~33%の支持率、それを追って野党第2党で極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)が17%、SPDの16%、そして「緑の党」9~10%、左翼党から離脱して結成した新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)は7%、FDP5%、左翼党3%となっている。次期首相に最も近いのはCDUのメルツ党首だ。
SPDはまだ正式には誰を次期首相候補にするかを決めていない。独語では「K-Frage?」と呼ばれている問題だ。ショルツ首相自身は依然、再選の期待を失っていないが、SPD内でショルツ首相では選挙で勝利できないといった声が聞かれる。換言すれば、ピストリウス国防相を党筆頭候補者(次期首相候補者)に担ぎ上げる声だ。同国防相は党を超えドイツで最も人気のある政治家だ。その国防相を次期首相候補に担ぎ上げて選挙を戦えば、ひょっとしたら15%以上の大差をつけられているCDU/CSUに勝利できるのはないかというわけだ。
ミュッツェニヒ院内総務はZDFでのインタビューの中で「首相の理想的な候補者について党内で議論がある。結局のところ、党は団結するしか勝利できないことを知っている」と述べ、ショルツ氏で党内が団結するかとの質問に対し、「私はそう確信している」と答えている。
ちなみに、ピストリウス国防相自身はSPDの首相候補になる野心はないとこれまで語ってきた。ピストリウス氏は11日、ベルリンで開催された「南ドイツ新聞」主催の討論会で、「我々には連邦首相がおり、ショルツ氏が首相候補に指名されるだろう。党内に何かを変えたいと思っている人は一人もいない」と述べている。同氏は新連立政権でも国防相の職に留まりたいとの意向を明らかにしている。
ミュッツェニヒ氏は2月23日の投票日まで、国民に「ショルツ首相が持っているもの、つまり能力、経験、誠実さを示すことだ。ショルツ氏は連邦首相候補メルツ氏よりも際立った存在となるだろう。信号機連立を解消したことでショルツ氏はより自由になり、社会民主主義首相なら何が可能かを選挙戦で示すことができる」と確信している。
なお、「緑の党」は今週末の党大会でハベック経済相を首相候補に選出する予定だ。そしてAfDは12月7日、アリス・ヴァイデル党首を次期首相候補者に選出する意向だ。有力政党4党の次期首相候補者(筆頭党候補者)の面々が決まれば、選挙レースはいよいよ熱を帯びてくる。
ショルツ首相は13日、政府声明の中で「3党連立政権は幕を閉じた。この決定は正しかった」と述べる一方、与野党間の激しい批判合戦を意識して、「国を分裂させてはならない。われわれは常に妥協する姿勢を失ってはならない」と警告を発した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。