外国人の年金脱退一時金報道「2022年度裁定者の4人に1人が再入国許可」社会保障審議会年金部会で期待される議論

外国人の人権を守ることが、日本国の財政を守ることになる

外国人の年金脱退一時金報道:2022年度裁定者の4人に1人が再入国許可

帰国した外国人の年金脱退一時金、条件見直し検討 より長期の加入へ:朝日新聞デジタル 高絢実2024年11月11日 20時40分

現行制度では、再入国許可を得て出国した場合でも、脱退一時金の受給が可能。ただ、いったん受給すると、保険料の支払期間がゼロに戻ってしまう。外国人が日本に再入国し、保険料を支払っても、期間が10年に満たなくなる事態も想定される。2022年度に脱退一時金の支給が決定した人の4人に1人が再入国許可を得ていた

外国人の年金脱退一時金に関して、2022年度に脱退一時金の支給が決定した人の4人に1人が再入国許可を得ていたという報道がありました。

直近10年間の裁定件数が72万件なので、単純計算をすると18万人が再入国していたことになります。

第13回社会保障審議会年金部会 厚生労働省年金局 2019年10月30日

もちろんこの18万人(仮)の全員が日本に永住以上の定着をするわけではないですが、そうなった場合には多くは低年金になると予想されるので、この問題を提起してきた人らが危惧していたことが益々現実味を帯びてきたと言えるものです。

おさらい:外国人の年金脱退一時金問題と出国・受給歴の追跡が困難だった問題

  • 外国人でも年金保険料の納付義務があるが、年金受給資格者(10年の加入期間)となるまでに帰国した場合に掛け捨てとなる不公平を解消するための制度が脱退一時金
  • 脱退一時金支給の裁定件数は直近の10年間では72万件(コロナ禍前の2019年は10万件以上)で制度発足当初の単年度6000件を考えると大幅に増加している
  • 本来の趣旨に反し日本人の雇用主と社労士等が結託してボーナス感覚で請求させている例がある
  • 脱退一時金を利用した者が永住資格を有する外国人や元外国人の帰化日本人として定年を迎えた場合に無年金・低年金状態となり、生活保護を受給せざるを得なくなるケースがあり、このままでは今後膨大な数になると予想される
  • 生活保護の費用は自治体が4分の1負担なので、自治体財政の問題でもある

外国人の脱退一時金制度にかんするおさらい。

また、本問題を調査するにつれて、以下のような実態、自治体と日本政府の情報管理・共有の問題も存在することが明らかになりました。

  1. 脱退一時金の支給は帰国が条件であるにも関わらず、帰国せずに再度就労する者が後を絶たず、それを奨励しているケースが実際に存在する
  2. 自治体と各制度の所管官庁の縦割り行政によって出国や年金番号の追跡が不可能だった(今後はマイナンバーによる紐づけなどが期待される

再入国許可後、入国の有効期間内は脱退一時金は不支給の方向との報道の注意点

帰国した外国人の年金脱退一時金、条件見直し検討 より長期の加入へ:朝日新聞デジタル 高絢実2024年11月11日 20時40分

厚労省は、再入国許可を得て出国した場合、入国の有効期間内において、脱退一時金を支給しない制度に改める方針。年金と脱退一時金のいずれも支給されないケースが考えられるため、必要な経過措置も検討する。

一方、厚労省は、脱退一時金の支給額も増やす方針だ。算出のもととなる保険料の支払期間について、上限を現行の5年から8年に引き上げる。これにより支給額が上がる。日本で暮らす外国人の滞在期間の長期化や、育成就労制度の創設による長期滞在の外国人の増加を考慮した。

再入国の外国人、年金受け取りやすく 厚労省 – 日本経済新聞 2024年11月12日 0:45

厚生労働省は日本に再入国する外国人が将来年金を受け取りやすいよう制度を見直す。年金保険料を納め、10年間の年金受給資格を満たさず帰国する外国人について、今までは脱退一時金を払っていた。今後は再入国の資格がある場合、一時金を出さず、そのかわり保険料を払った時期を年金の加入期間に組み入れるようにする

朝日新聞・日経新聞では「再入国許可を得て出国した場合には、入国の有効期間内において、脱退一時金を支給しない制度に改め、その間の保険料支払い時期を年金の加入期間に組み入れる」という方針が報道されています。

この方向性は第13回社会保障審議会年金部会にて小林洋一委員が提案したものと類似しています。

なお、この報道は14日までの両紙の紙面では私の見落としでなければ不存在でした。

「支給額も増やす」という表現がありますが、現行の一時金支給額の算定期間は5年が上限なので、8年に引き上げることで支給額が自動的に上がるだけです。

朝日新聞がなぜ無駄な繰り返しの記述をしているか?

文章を読まない人たち、いや、怒りに塗れたい人たちを暴れさせたいんでしょう。

「外国人が年金を受け取り易くする制度改善」=「自治体・国家財政のリスク低減」

さらに、「外国人が年金を受け取りやすくする制度改正」という字面だけでは明後日の方向に脊髄反射する人が居ると思われます。

さて、「自治体財政・国家財政のリスクを減らす制度改正」と書けばどうでしょうか?

確かに、外国人目線からすれば、現状は雇用先による脱退一時金請求の勧奨や脱退一時金請求代行者によって目先の利益を半ば強制的に受け取ることになっているものを、将来の年金として維持させることとなるため、当該外国人の老後の生活状況を安定化させることになります。

外国人が「年金を」受け取りやすくするということは、つまりは安易な脱退一時金の支給を受けることがなくなるということです。

すると、当該外国人は自立した生活を送ることになるので生活保護を受給するような家計にはなりにくい状況が生まれます。これは、当該外国人が困窮することによって日本の国家行政に迷惑をかけないことに繋がります。

だからこそ、「自治体財政・国家財政のリスクを減らす制度改正」なんです。

この問題に在っては、外国人の人権を守ることが、日本国の財政を守ることになる

視点の切り替わり・誰にとっての効果なのか?という違いによって表現・記述・字面が変わるだけであって、制度が改善され現実が先に進むという意味では同じことです。

厚労省の社会保障審議会年金部会で11月15日に脱退一時金に関して審議、YouTubeライブ配信も

第20回社会保障審議会年金部会の開催について|厚生労働省

令和6年11月15日(金)14:00~16:00に開催される社会保障審議会年金部会において、脱退一時金に関して審議されます。YouTubeでライブ配信も予定しています。

過去に脱退一時金に関して議論されたものとして以下

社会保障審議会(年金部会)|厚生労働省

第3回社会保障審議会年金部会 議事録|厚生労働省

第13回社会保障審議会年金部会 議事録|厚生労働省

さて、制度改正の方向性として考えられるのは、朝日等の報道に現われたものだけではない、と思いたいです。

例えば、「永住者」(特別永住者とは別)の資格の者が脱退一時金を受け取ることに関して。永住者の数が右肩上がりであること、この者らが脱退一時金問題の中心的な集団であること、日本国籍への帰化の前段階の者が含まれることから、決して無視できない要素です。

稲田朋美議員の質疑に対する岸田総理大臣の答弁によれば、永住者も脱退一時金を受給できるのですが(特別永住者とは別)、永住外国人は日本に永住することが前提ですから、年金を解約して母国に帰るということを前提とした脱退一時金の支給は矛盾しているという指摘が為されています。

この指摘が年金部会でも行われていたことは総理も承知しているとしていますが、制度趣旨からは、永住者は脱退一時金支給の請求はできないとしたり、永住資格の許可に当たって脱退一時金の請求履歴、要は年金の積み立て状況を生計要件の考慮要素に組み込む、といったことをするべきという方向性もあり得ることになります。

現在の言論空間は「〇〇万円の壁」で席巻されてる感がありますが、この問題もそろそろ注目されて良いのかもしれません。これまで粛々と調査・陳情などが進められてきた理由は、以下で書かれています。

【改善が確定】外国人の生活保護の激増要因になりうる、脱退一時金。単年度のうち4人に1人が再入国していた。 | 小坪しんやのHP|行橋市議会議員


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。