ドナルド・トランプ大統領伝記物語⑤:新型コロナで失速

拙著『アメリカ大統領史100の真実と嘘』(扶桑社新書)に少し手を加えた「ドナルド・トランプ大統領伝記物語」のとりあえずの最終回は、4年目にあたる2020年の出来事である。

就任直後から議論されていたロシア介入疑惑については、モラー特別検察官が2019年4月に捜査報告書を公表し、「トランプ氏が訴追されなかったことは、同氏の潔白が証明されたことと同義ではない」とする曖昧な結論となった。

弾劾については、中間選挙までは下院で共和党が優勢であったため進展がなかったが、中間選挙での民主党勝利によって発議が可能となった。しかし、共和党優勢の上院で三分の二を獲得する見込みは当初からなかった。

それにもかかわらず、下院は「大統領が自身の個人的・政治的利益を米国の利益よりも優先し、米大統領選挙の健全性を損なおうと試み、米国の国家安全保障を脅かした」として、トランプ大統領を職権乱用と議会妨害で弾劾訴追する決議案を賛成多数で可決した(2019年12月)。しかし、上院本会議では共和党多数のため、無罪となった(2020年2月)。

一般教書演説を行うトランプ大統領(当時)NHKより

その前日には、トランプ大統領が一般教書演説を行い「偉大なるアメリカの復活」をアピールしたが、ペロシ下院議長が演説終了後に原稿を破り捨てる事件も発生した。

中東では、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が米軍の空爆によって殺害され、緊張が高まった。しかし、新型コロナ問題の影響もあって一時的に鎮静化し、アフガニスタンではトランプ政権がタリバンと接近した。

一方、トランプ大統領がパートナーとしてきたサウジアラビアのムハンマド皇太子は、前年のジャマル・カショギ氏暗殺事件で評判を落とし、イエメン情勢への深入りやロシアとの対立で原油価格が大暴落し、アメリカの石油産業に大きな影響を与えた。

新型コロナウイルスに対しては、中国からの渡航者の入国禁止措置命令を1月に署名するなど一定の対応を取ったが、ヨーロッパ並みの流行を避けることはできなかった。さらに、責任の所在を巡り、中国およびWHOとの対立が深まった。

ミネソタ州ミネアポリスでは、警官が黒人男性を殺害したジョージ・フロイド事件が発生し、それに対する抗議デモが新型コロナによる閉塞状態にあった人々の心に火を付け、全国的な暴動に発展した。この運動は、南北戦争時の南軍関係者への顕彰を根絶させるための銅像撤去や、『風と共に去りぬ』のような作品を含む古い人種的偏見や過去の時代の賛美を排除する動きと結びついた。

経済は任期中を通じて好調で高株価に沸いたが、新型コロナ問題の影響で停滞した。