神は単なる「第一原因」の存在ではなく、森羅万象、天宙の創造主であると信じている。イエス・キリストは「神は愛だ」という。その神が自身の似姿で人間を創造したというのだ。ということは、創造された人間もその神の神性を相続しているはずだ。天宙を創造した「神の知恵」ばかりか、全ての人を愛することができる「神の愛」も継承していることになる。
ここで問題が生じる。当方の姿が神の似姿とすれば、どうして当方は神のような知恵を有していないのか。この世的に表現すれば、大天才の親のもとにどうして当方のような少々バカな存在が生まれてきたかだ。この問題は深刻だが、ひょっとしたらこれまで未解決の諸問題を説く鍵となるかもしれない。
人間はその生涯でその能力の3%をも使わず亡くなるという。すなわち97%の能力は使われずに墓場に入るというのだ。なんといった無駄使いだろうか。もし全ての能力をフル回転できれば、当方は大天才となり、宇宙創造の謎も分かるかもしれない。「人間は全て狼」とみる英国の哲学者トマス・ホッブズ(1588年~1679年)の人間観は「3%の世界観」から飛び出した悲観論であって、「97%の世界」から起因する考えではない。
当方は宇宙に強い関心がある。「海」より大きいのは「空」だ。「空」より大きいのは「宇宙」だが、その無限大の宇宙より大きいのは人間の「心」だ。だから、人間は小宇宙と言われる。人体を研究し、その機能メカニズムを探究する学者はその緻密な世界に言葉を失うといわれる。宇宙がサイコロを転がして作られたものではないように、人間の人体の中に全ての宇宙の設計が刻み込まれているというのだ。
当方は20日、MRI検査(磁気共鳴画像)を受けた。頭部と腰椎のMRI検査だ。診察ベッドに横たわり、30分余り狭いカプセルの中に入る。定期的に様々な音が流れてくる。かなり大きな音だ。だから、カプセルに入る前にはヘッドホンを付ける。閉所恐怖症の患者ならば狭い場所に30分余り閉じ込められたらパニックになる。だから、カプセルに入る前に医師は患者に質問する。検査中、何かが起きた場合のために、患者は小さなブザーを握っている。不安になったり、怖くなった場合、そのブザーを押せば医師は即、検査を中止して、患者をカプセルから引き寄せる、というわけだ。
当方は「生まれて初めて頭の中を検査する」ということから少々興奮した。ひょっとしたら当方の頭の中に未使用の「97%の世界」が画像に浮かび上がるのではないかと考えたからだ。肺の機能を見るレントゲン検査ではない。検査の結果は後日分かる予定だ。医師からは当方の頭部の画像を記録したコンパクトディスク(CD)をもらった。
ところで、新たな問題がでてくる。なぜ当方はその能力を3%しか利用できないのか、という現実的な問題だ。聖書の世界では、人類始祖が神の戒めを破ったために、「エデンの園」から追放された結果、人間は神が与えた知恵を利用できないような状況に陥ったというのだ。簡単にいえば、「堕落した」というのだ。旧約聖書の「創世記」では、「人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせられた」(創世記第3章24節)と表現されている。
なぜ神の似姿の人間がその能力の3%しか利用できず、無知の世界に陥ってしまったのかについて、上記の創世記の説明では不十分だが、「97%の能力」の未使用という状況下に生きている人間の現実はある。すなわち、人間は本来願っている世界からはほど遠いところで生きているという実感だ。だから人類はこれまで無知から知に至るために様々な努力を繰り返してきたわけだ。
いずれにしても、これまで利用できなかったことは残念だが、「97%の世界」は人類に希望がまだあることを意味する。換言すれば、人間の尊厳回復にも通じる。「ホップズの世界」から決別し、本来の希望溢れる心強い世界観が生まれてくるからだ。人間同士が愛し、助けあって生きていく世界が生まれてくるノウハウが「97%の世界」に刻み込まれていると信じるからだ。
参考までに、現代の神経科学は、「脳は安静時であってもほぼ全体が何らかの形で活動しており、使われていない部分はない」と主張し、脳神経の未使用な部分の存在については「単なる神話」に過ぎないと否定的だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。