セブンイレブン買収の攻防 私見:伊藤氏の無謀で後ろ向きなMBO

セブンイレブンを巡る買収攻防がそろそろ山場を迎えると思います。ご承知の通りカナダのアリマンタシォン クシュタール社が仕掛けた買収提案は、買収提案額の引き上げ後、セブンの代表取締役副社長の伊藤順朗氏と持ち株会社の伊藤興業が実質的なMBOを提案。現状、この2つのオファーについて駆け引きが行われている状況です。

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本件は既に本ブログで何度かトピにあげているので「またか」と思われるかもしれません。ただ、私は事業家としてこのような大きなディールの時はそれがどのように展開するのか極めて高い関心があり、自分がその場にいたらどうするだろうという想像を巡らせ、最新のビジネス交渉の駆け引きを頭に描くようにしています。そうすることで自分が仮にその1万分の1の小さなディールに出くわしたとしても「こうかな」「あぁかな」と考えるネタになるのです。

私はこのディールについて既にカナダ社に分がある、と申し上げています。第三者的な公平な目からすればカナダ社と取引するほうが正しいように見えます。

伊藤家は言うまでもなくイトーヨーカ堂の創業者、故伊藤雅俊氏のファミリーであり、伊藤興業はファミリー企業であり、持ち株会社です。伊藤雅俊氏は鈴木敏文氏と出会い、鈴木氏が主導して作り上げたのがセブンイレブンの事業であり、書物を読む限り伊藤氏と鈴木氏は性格的に水と油に近い感じもします。その鈴木氏もセブンから降り、伊藤氏は23年に亡くなります。息子さんの伊藤順朗氏が現在、セブンの重役となり、伊藤家の存在感が鈴木氏がいなくなったことで相対的にアップしたということになります。

ここでカナダ社から買収提案を受けた伊藤氏としては個人の想いとしてこれを外国のライバル企業に取られるわけにはいかないと考えたのでしょう。これが伊藤氏のMBOに踏み切る最大の動機です。つまり私から見れば会社を所有物と捉え、その所有権を手放さないことを第一義と考えているように見え後ろ向きのMBOに映るのです。

伊藤興業は10月10日時点でセブンの8.2%の株主、持ち株数は2億1200万株です。同社の株価が概ね2500円なのでこれを掛け合わせると5300億円になります。伊藤興業の資産が他にあるかどうかはともかく、これが主たる資産だとしましょう。今回伊藤氏が目指すMBOでは様々な諸費用を入れると必要資金は想像以上に膨らみ、10兆円程度になるかもしれません。買収資金以外に1-2兆円ぐらいは様々な費用で消えるからです。とすれば5300億円の担保で約20倍の資金を集めなくてはいけないのです。現在、伊藤忠商事などにも声をかけて買収新会社に加わるよう依頼していますが、この買収実現可能でしょうか?

かなり困難だと思います。どうやるかと言えば買収先資産を担保にするレバレッジドバイアウトの手法を使います。但し、問題はセブンの現在の時価総額が6兆6千億円しかないのです。つまり伊藤氏が必要とする10兆円と6兆6千億円の差額、3兆4千億円のギャップを埋める理屈が成り立たないのです。

それとこの試算はあくまでも担保価値として現在の株価x持ち株数を100%で計算していますが、実際に資金調達する場合、担保の掛け率が出ます。私の知る限り実態としては3-5割引きだろうと思います。ということは一般的な資金調達としてはほぼ成り立たないのです。

そこで突如現れた報道が「セブン創業家、米ファンドに参加打診 買収資金確保狙う」(日経)であります。つまり伊藤忠や日本のメガバンクらのシンジケーションローンだけでは足りないのでアメリカのファンドにも声をかけるという訳です。さて、ここで思い出してもらいたいのが同じようなことをしてドツボにはまった東芝です。同社が非上場化を避けるために様々なファンドに声をかけ、資金調達をした結果、東芝は解体的出直しを余儀なくさせられ、消極的な意味での非上場となりました。

この攻防、一歩、引いてみた方が良いと思います。2つの会社がセブンに恋焦がれています。ではどちらと一緒になるのが幸せになるのか、そう、単純にわれわれが経験したのと同じ、結婚相手の最終選択肢をどうするのか、という見方にしてみると面白いと思います。

結婚する時、相手に期待するのは何でしょうか?容姿は結婚するまでの話です。その後期待するのは二人三脚と成長、また家族の関係でしょう。セブンイレブンが3大コンビニチェーンの中で出遅れ感が出ている理由は私は経営陣にあるとみています。2社の激しい追い上げの中、新たな戦略が描けない上に百貨店事業売却でほんのわずかの売却代金をもらい、次にはスーパーマーケット事業などのリストラに手をかけており、得手ではないことをやらされている間にライバル社との差別化が出来ない状態なのです。とすれば私から見れば伊藤家と結婚する気持ちは持ちえないのです。

もう一つ、伊藤家は立派な資産をお持ちです。しかし、今回の買い物はいかにも無謀です。仮に海外ファンドを呼び込めたとしましょう。伊藤興業は担保に取られ、経営責任者としてうまくいかなければ最終的に伊藤氏は素っ裸にされるリスクが高いのです。海外ファンドはおいしそうなところを全部抜き、あぁうまかったと去って行きます。それでもいいのかな、というのが私が海外で切った張ったをやってきた中で思うところです。

そもそもセブンはなぜ買収提案をカナダ社からもらったのでしょうか?それはセブンの経営の脇が甘かった、そして事業価値が十分ではなかったことに尽きるのです。とすればその経営者がMBOというのは私からすればお門違いだと思います。伊藤氏の経営手腕はいまだ未知数であります。

パートナーを取り込めば物理的には伊藤家による買収は不可能ではないかもしれません。が、それはセブンのステークホールダーにとっても日本全体にとってもあまり喜ばしい判断ではないと思います。私ならライバル2社に絶好のチャンスがやってきたと考えてしまいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月25日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。