この度公表されたキリスト信者への国際カトリック援助団体「チャーチ・イン・ニード」(Aid to the Church in Need=A=ACN)の最新報告書によると、世界的にキリスト信者への迫害が強まっている。1947年に設立されたACNの報告書は2年毎に公表される。今回は2022年から2024年の期間、18カ国のキリスト信者の状況を対象に報告(48頁)している。
キリスト信者の状況が悪化している地域はアフリカだ。ACN事務局長のレジーナ・リンチ氏は「イスラム教徒の暴力の震源地が中東からアフリカに移動している」と述べ、多くのキリスト信者が移住している。アフリカ以外でも中国やイランのキリスト教徒は「国家の敵」と見なされている。インドでは、国家および非国家主体が「キリスト教徒やその他の少数派を抑圧するための武器として法律をますます利用している」という。一方、キリスト信者を取り巻く環境が改善されている国としてベトナムが挙げられている。
ここでは「国別報告」の項目から中国と北朝鮮両国のキリスト信者の状況に関する報告を紹介する。
中国編
「中国当局は全ての宗教団体に対する統制を強化し、未登録の礼拝所、宗教指導者、宗教活動への取り締まりを強めている。聖職者は中国共産党(CCP)に忠誠を誓い、違法な宗教活動に抵抗する義務がある。推定によると、宗教的信念のために数千人が拘束されている」と「中国の項目」で記述している。
中国共産党は積極的に無神論を推進し、未成年者がいかなる宗教も実践することを控えるよう勧告し、中国共産党とその青年組織に所属する2億8100万人のメンバーは宗教活動への参加を禁止されている。認められている宗教はカトリック、プロテスタント、イスラム教、仏教、道教の5つのみ。これらの宗教の信者は、国家公認の「愛国団体」の保護下で宗教を実践しなければならない。この5宗教に属する団体(例えば地域の教会)は登録することで、公的な礼拝を行う許可を得ることができる。聖書の所持自体は違法ではないが、聖書の印刷および流通は当局によって制限されている。未認可の聖書の出版物は禁じられている。
全ての宗教団体は、中国共産党による「宗教の中国化」、すなわち社会文化を中国風に形成する努力を支持することが義務付けられており、宗教団体には信者に愛国的な教育を提供することが求められている。政府の方針に従うことを拒否する教会指導者や信者は、しばしば嫌がらせを受けたり、拘束されたりする。ちなみに、中国共産党は香港に対する支配を強化し、国家安全法を制定した。この法律は、香港における「宗教の自由」の将来に対する懸念を引き起こしている(「習近平主席の狙いは『宗教の中国化』」2020年6月12日参考)
<特記事項>
2023年9月・・2005年に策定された「宗教活動場所管理に関する措置」の改正が施行され、宗教活動場所に対し、中国共産党の指導を支持し、宗教の「中国化」を推進する義務を課した。この措置では、説教が「社会主義の基本価値観」を反映し、「伝統的な中国文化」と統合される必要があると定められている。
2024年1月・・中国の治安部隊は、2023年12月中旬から2024年1月初めにかけて、温州の司教であるペーター・シャオ・ジューミンを複数回拘束した。同司教は中国カトリック愛国会への参加を拒否し、自身の教区での司祭の異動や教区の分割といった中国共産党が指示した変更に抗議した。
2024年3月・・「宗教の自由」に関する専門家は、香港の新国家安全法(香港基本法第23条の実施)が、告解の秘義の守秘義務に深刻な影響を与える可能性を懸念している。香港執行会議のロニー・トン氏が、国家安全に関する犯罪を告解で聞いたにもかかわらず報告しない司祭が起訴される可能性を示唆している。この法律により、国家反逆を知りながら報告しなかった場合、最大14年の懲役刑が科される。これに対し、香港カトリック教区は声明を発表し、この法律は「告解の守秘義務を変更しない」と述べている。
2024年4月・・内モンゴル自治区の裁判所は、当局に登録されていないプロテスタント系家庭教会のために聖書を販売したとして、キリスト教徒のバン・ヤンホンに5年の懲役刑を言い渡した。
北朝鮮編
北朝鮮は全体主義体制として機能しており、第二次世界大戦終結後から3世代にわたって統治している金一族の個人崇拝に大きく影響されている。唯一認められた「宗教」は「主体思想」で、これは国家の創設者である金日成によって作られたマルクス主義的な「自主性」のイデオロギーだ。現在、キリスト教は国家の支配や金一族の優位性に対する重大な脅威とみなされている。そのため、キリスト教徒は秘密裏に活動することを余儀なくされている。北朝鮮におけるキリスト教徒の実際の人数を把握するのは非常に困難だが、推定では人口の約0.38%、つまり約9万8000人と見られる。
<特記事項>
2023年4月・・南平安道のトンアム村で当局が5人のキリスト教徒を宗教活動のため逮捕し、数十冊の聖書を押収した。このキリスト教徒たちは信仰を放棄せず、聖書の出所を明かすことを拒否した。
2023年5月・・聖書を所持していたとして、2歳の子供を含む一家全員が終身刑を宣告された。
2023年5月・・収容所に拘束されていたキリスト教徒が、密かに祈りを捧げていたところを発見され、看守により瀕死の暴行を受けた。この攻撃で重傷を負ったにもかかわらず、この男性は毎日祈りを続け、信仰への献身のために定期的に棍棒で殴られ、蹴られている。
2024年4月・・2023年に中国から北朝鮮に再び送り返された200人以上の帰還者のうち、中国滞在中にキリスト教徒と接触したことが確認された者は、収容所に送られた。聖書を読んだり、キリスト教の教えに触れたりしたとされる帰還者は全員、強制労働刑を宣告された。
2024年5月・・2024年版の米国国際宗教自由委員会(USCIRF)の報告書は、北朝鮮における宗教の自由の状況を受け、北朝鮮を再び「特に懸念される国」(CPC:Country of Particular Concern)として指定するよう、米国国務省に勧告した。
北朝鮮のキリスト教徒は極度の迫害に直面している。キリスト教徒であることや、キリスト教や聖書に関心を示しただけでも、ほぼ確実に国家の敵とみなされる。キリスト教を実践しているところを発見されると、強制収容所に送られ、飢餓や拷問に直面する。政府は厳格な忠誠を強要し、市民に密告者としての役割を求め、子供には親を告発するよう洗脳している。このため、北朝鮮のキリスト教徒は自らの言動に極めて慎重でなければならない。キリスト教徒が逮捕されると、その家族全体が罰を受けることになる(「北のクリスチャンの『祈り方』」2015年9月21日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。