予想通り、トランプ次期米国大統領が保健福祉省(Department of Health and Human Services: HHS)長官に、ロバート・ケネディJr.氏を指名した。それを受けて11月15日のScience誌に「Prospect of RFK Jr. as head of HHS panics many in medical science community」というタイトルの記事が出ていた。
ワクチン否定派の人物がHHS長官になったことを「地球が水平だと信じている人をNASA(航空宇宙局)のトップに据えた」ようなものだとのコメントが掲載されていた。「言い得て妙」な例えだ。
ただし、ケネディ氏は中絶の権利を認めているので、保守派からの反対の声があり、議会ですんなりと承認を得ることができるかどうかは不明だ。
ケネディ氏はワクチンについて検証を行うと明言しているし、トランプ氏はXへの投稿で「米国は長い間、食品企業複合体と製薬企業に毒されてきた。彼らは欺瞞と偽情報を垂れ流してきた」とコメントしている。どの口が偽情報を批判しているのかと思うが、これが言論の自由なのか?
ケネディ氏の関心は慢性疾患(肥満・糖尿病など)やがん、2歳未満の子供の病気を減らすことであるので、米国の置かれている状況を考えると至極まっとうなことを述べている。
トランプ氏はFDA(医薬食品局)、CDC(疾病予防管理センター)、NIH(国立衛生研究所)や農業省の再編を指示しているそうなので、イーロン・マスク氏の動きと連動する形で、米国の医学分野・農業分野で大混乱が起こる可能性がある。政府の関与・規制を小さくして、市場の自由を尊重する「小さな政府」を目指せば、不安定な社会が生まれるかもしれない。
大臣クラスの指名を見ていても、トランプ第2次政権は何が起こるか予測不能だ。われわれの受験教育は学んだことを経験として、そこから答えを導き出すことには秀でているが、経験のない試練に対して対応するには弱い。知識に基づく対応には強いが、知恵を絞り、新しいことへの挑戦に対しては極めて脆弱なので、イノベーティブな発想が浮かんでこないのかもしれない。だから、硬直化したわれわれの世代やその少し下の世代ではなく、若者の自由な発想を生かす仕組みが必要だ。
今のように既得権益を守ろうとする勢力が強くなると、挑戦者の気持ちは萎えて、世の中から活気が失われる。江戸時代から明治時代に移ったころや、太平洋戦争の大敗後、日本全体に日本が植民地化されることや日本そのものの喪失に対する危機意識が高く、若者が立ち上がった。
44歳で初代内閣総理大臣になった伊藤博文は明治維新の時には27歳であった。国を守り、国民を守ると言うと、右翼的な考えだと非難する人が少なくないが、国の将来を憂い、国を救いたいと必死になる若者が育ってきてほしいと願っている。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。