「オーストリア統合基金」(OIF)が発行している雑誌が同国に住むウクライナ人のオーストリア社会での統合について特集している。同基金はオーストリア連邦政府が同国に来た外国人、難民、移民たちの統合促進を目的に設立された。2024年秋号「ZUSAMMEN」ではウクライナ人の統合がテーマとなっている。
オーストリアには現在、ウクライナ人の総数は約8万1000人だ。10年前の2014年は約7500人だった。「音楽の都」首都ウィーンには3万6118人が住んでいる。ウクライナ人の約40%がウィーン住んでいることになる。それに次いでニーダーエステライヒ州で1万3157人、シュタイアーマルク州8434人だ。最も少ないのはオーストリア東部のブルゲンランド州で1981人だ。
避難してきたウクライナ人を年齢別でみると、0歳から19歳までは2万5089人(男性1万2315人、女性1万2774人)、20歳から39歳2万3873人(男性6964人、女性1万6909人)、40歳から59歳2万1426人(男性5728人、女性1万5698人)、60歳から79歳9473人(男性2863人、女性6610人)だ。
女性が多く、男性の数が少ないのは、ウクライナ側が国外避難の場合、女性を優先し、男性は国内に留まり、祖国防衛のために奉仕することが義務付けられているからだ。なお、ウクライナでは戦争勃発以来、18歳から60歳までの兵役義務のある男性の国外出国が止められている。
2022年、オーストリアに住むウクライナ人の17%しかドイツ語が話せなかったが、23年には46%、現在は72.4%と過去2年間で4倍に増えている。現地言語(ドイツ語)ができるようになると、国に戻りたいと思うウクライナ人は年々少なくなり、その数は現在3%に過ぎない。2022年はまだ30%だった。
避難民でオーストリアに来たウクライナ人の75%は大学卒業者だ。ウクライナ人の3人に2人はOIFの統合検査で言語力がA2からB1のレベルだ。ドイツ語ができるようになり、仕事が見つかると、オーストリアで住むことを希望し、帰国したいという思いは薄れていく傾向が見られる。
現在、ウクライナ女性の42.6%は就労している。2022年はその数は10%以下だった。2024年現在の就労先をみると、清掃分野23.0%、商売14.1%、健康看護12.3%、教育10.7%、レストランなど9.1%、営業8.9%、社会7.5%、生産分野6.4%、事務仕事5.0%だ。避難民のウクライナ人は自身の本来の能力が発揮できる職場ではなくても早く働きたいという希望が強い。
住居問題では、2024年、3人に2人のウクライナ人は独自の借家に住んでいる。前年の23年では、その割合が48%だった。他者のプライベートの家に住んでいるウクライナ人は2%に過ぎない。
オーストリアでは冷戦時代、旧ソ連・東欧の共産国から約200万人の亡命者が収容された。2015年の中東・北アフリカからの難民殺到時にも多くの難民が同国で収容されてきた。ウクライナ人の場合、彼らは自分たちは難民ではない。避難民だと主張し、アラブ圏からの難民と同列視されることを嫌悪する傾向がある。
ちなみに、ウィーン大学の研究プロジェクトは2022年、ウクライナから避難してきたウクライナ人女性33人と非政府機関(NGO)支援関係者を対象にインタビューをし、ウクライナ人女性が自分自身や他人をどのように認識しているかについて調査した。その結果、ウクライナ人女性には、①都市に住みたいという強い願望、②自分を難民と認識したくない願いがあることが分かった。
ウクライナ人女性の難民の大多数はウィーンに住みたいと考えている。その理由として、より良いインフラ、教育、医療、専門的な機会、特に子供たちのための教育、レジャー、スポーツの機会が多いことなどが挙げられている(「ウクライナ人『私たちは難民ではない』」2022年12月12日参考)。
難民にドイツ語を教えている女性によると、ウクライナ人は教育レベルの高い人が多く、ドイツ語学習でも他の生徒より意欲的だという。
ウィーンに到着したウクライナ人女性たちは「難民」とはかけ離れた自己イメージをもっている。彼女らは、地理的および文化的にオーストリアに近いことを強調し、アラブや北アフリカ出身の難民に対して否定的な態度を示すことがあるという。
インタビューを受けたウクライナの女性たちは、極貧であると言われる他国からの難民と区別し、「自分たちは貧しい人間ではないこと、興味深い職業や私生活の計画を持っていたこと、または戦争が起きなかったら休暇でオーストリアに来ることを計画していたこと」などを強調するという。
季刊誌の特集の中で、駐オーストリアのウクライナ大使ヴァシー・ヒミネツ氏はウクライナからの避難民を受け入れてくれるオーストリア国民に感謝し、「欧州の共通の価値観は良き共存の土台だ」と述べている。
ウクライナ人のオーストリア社会への統合度は他の中東・北アフリカからの難民と比較すると優秀だ。ウクライナは正教圏に属するから、西欧社会のキリスト教社会とは同じ文化圏だ。それだけにウクライナ人のオーストリア社会への統合は、イスラム教圏の中東のシリアやアフガニスタンからの難民よりは容易な面があるだろう。若く、学習欲、労働意欲のある避難民ウクライナ人の存在はホスト国オーストリアにとって恵みともいえる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。