ホンダ&日産提携問題の本当の課題は何か?そして落合陽一氏の会社の話も…

要点まとめ

日産の経営危機をきっかけに、自動車業界の真の課題である「自動運転技術への投資不足」と、それに伴う戦略の再考が重要視されている。短期的にはハイブリッド技術を活かしつつ、長期的にはEV化と自動運転への対応が急務。さらに、社会全体での協力体制や、効率的な経営環境の構築が日本の自動車業界の将来を左右する。

自動車業界に興味を持ってある程度ニュースを見ていた人からすると「イマサラ」感があった日産の経営危機ですが、結構世の中的には予想外にショックが大きかったのが意外だったというか、「このままでいいのか日本!?」みたいな機運が高まってきているのを感じています。

「このままでいいのか?」っていう機運が高まること自体はすごく良いことだと思いますが、ただなんか「何を真剣に考えるべきで、課題がどこにあるのか?」をちゃんと考えないと、ただ感情的に罵り合いをしてるだけで「意味のある議論」は皆無みたいなことになりかねませんよね。

というわけで、今回は日産&ホンダの経営統合に至った自動車業界の流れのざっくりした解説と、そこで「何を真剣に考えるべきなのか」についての掘り下げを行います。

今回、日産の件が話題になってからSNSを見ていると「あまりにも基本的な情報から間違ってる」話が多いので、この記事では専門的な細部のことは多少丸めてしまいつつ、大きな全体感を捉えられるように書いていくのでご了承ください。

一言でまとめると、「日本企業の課題はEV(電気自動車)じゃなくて自動運転とかの投資の方!!」ってことです。

「今まさに重要な話」なのでぜひ年末年始のお時間ある時に読んでいただければと思います。

一個前の記事で書いた「汚職大国中国ならではの意思決定の一貫性」に対してどうやって対抗するのか?という話も、特にEV(電気自動車)関連の問題もあって直接的に関係している部分なので、ご一緒にお読みいただければと。

「マジモンの汚職大国」=中国の”本気”が見られる名著の紹介と、それに日本はどう対抗すべきか?という話。|倉本圭造
今年の年末年始に時間がある時に読むのにすごいオススメな本を紹介したいんですが・・・ この本↓、単純にめっちゃ面白い上に、中国という国の実像についてものすごく考えさせられるし、その上で日本はどうやってこの「困った巨人」と付き合ったり対抗したり競争したりしていけばいいのか・・・について本気で考えるためにものすごく重要な情...

で、さらに、タイトルの落合陽一氏の話って何???って感じなんですが、日産とホンダに限らず日本の自動車業界の今後みたいな話をする時に、落合陽一氏の会社ピクシーダストテクノロジーズがナスダック上場するも即上場廃止にしちゃって云々・・・といったトラブルにまつわる「今の日本の経営環境のどこが問題なのか」という共通の課題が浮かび上がってくるという話を最後にちょこっとだけ追加したいと思っています。

1. 日産の苦境は、”EV化”の流れに乗り遅れたからではない

まずこれ、すごく大きな誤解なんですが、日産が苦境に陥ったのは世界のEV化についていけて無い日本自動車メーカーの失策ゆえ・・・ではない、というところが注意が必要です。

むしろ日産は日本メーカーの中で最もEV化に熱心だった企業と言っても過言ではなく、逆にいうとそこでトヨタやホンダが持ってるハイブリッドがあまり強くない(一応あるけど色んな主力車種には幅広く展開できてない)事が、「今の」日産の苦境の一因になっている

巷では「EVは終わった」とか逆に「世界は一気にEVに向かう」とか両極端なことを言われていますが、これはどちらも間違いで・・・

単純に言うと、「コロナ前後」ぐらいの時の日本メーカーがノンビリ構えていた時代に比べると圧倒的に世界のEV化は加速して、日本メーカーも「ヤバい」と思って挽回しようとしてはいる。

一方で、2023年前半ぐらいに熱狂されてたような「このまま世界を一気にEVが制覇するぜ!」という感じでもなくなってきており、欧米の各社も野心的なEV化目標を撤回する発表をしていて、そして直近でハイブリッドに強みがある日本車メーカーは次々と過去最高益を出したりしている。

で、「直近で」日本メーカーがあまり電気自動車を出してないのは、生煮えで出しても儲からないから、戦略的に「そこには現時点では出ていかない」感じになってるんですよね。

勿論各社それぞれのチャレンジはしていて、特に車体のプラットフォームの設計ごとEV専用にしないとテスラやBYDには勝てない・・・みたいな話で地道にそういう専用設計を立ち上げて巻き返しを図ろうとしていたりする(これには4−5年とかかかるらしい)。

EV専業で突き抜けたテスラやBYDに現時点で生煮えにガチンコ勝負をしても分が悪いのは明らかで、そこでまっすぐ戦いを挑むことで業績が急激に悪化している欧州メーカーに比べると、ハイブリッドという強みを活かして「ガチンコ勝負」は避けた状態を維持して最高益を連発している日本企業の方がよほど良い状況にある。

テスラやBYDとガチンコ勝負をして利益が減ったら、EV化やその後の自動運転などへの投資もできなくなるわけなんで、現時点で日本メーカーが「ハイブリッドを利用して儲けまくる」事には大変意味がある。

そして、世界の「EV化への転換」が一年でも二年でも遅れたらそれだけ「残存者利得戦略」的に有利な場面は生まれるわけで、日本は長期的視野でEV用の専用設計などを詰めていくのはやりつつ、短期的にはEVでは勝負しない事に合理性は明らかにある。

このあたり、「EVなんか使いものになるかよバーカ!」っていう議論も、「日本企業はEV化に遅れてるからもう駄目だ」もどっちも間違ってるんですね。

こないだホンダの担当者の人がニュースで、

EV化の流れが”どういうスピードで進んだとしても”対応できる態勢を敷きながらシフトしていく

…と言っていたのがまさにそれで、

・テスラやBYDに対して勝ち目のない戦いを強いられている欧州メーカー
・製造ラインがフル稼働してることが前提の前のめりな積極投資を続けており、電気自動車の普及スピードが少し予測と外れる遅さになると結構財務的に厳しくなる可能性もあるテスラやBYD

…に比べると、現時点で日本企業が取りうる選択肢としては、「正解」の道を選んでいるとは言える。

日産はその「日本車メーカーの正解」に乗れてないからこそ苦しくなった、という理解が一応はまず必要です。

今回の提携でも、まずはホンダのハイブリッド技術を利用して日産が「アメリカで」ちゃんと売れる車をとりあえず揃えるってことが直近で重要な提携アイデアになってるという話を聞きました(でも日産も一応ハイブリッド持ってはいるんで、こういう事が本当に必要なのかどうか、ただの噂レベルの話かも)。

ちなみに東南アジアなどの市場占有率が高い市場において、EVを望む顧客にとりあえず売るためのツナギのEV車種がなくていいのか、みたいな個別の問題はありますし、トヨタなどは色々と緻密に対策を始めてる分野だと思いますが、まあ話が複雑になるので割愛します。

2. 問題は自動運転その他の先進技術の方!!!

じゃあ日本車メーカーに問題ないのか、っていうと問題は大アリで、

その先にやってくる自動運転その他の先進技術の方で、ちゃんと時代の変化に応じた投資が行われているのか?

こっち↑にこそ真剣に危機感持った方がいいと思います。

なんか「日本車メーカーに批判的な人たち」が、ハイブリッド関連の「明らかに日本メーカーにとって合理的な戦略」ごと否定してEVの事ばかり批判するので、余計にこの「本当の課題」が覆い隠されてしまっている面があるのではないでしょうか。

テスラやBYDとは成り立ちが違うんで、「ハイブリッドからの段階的シフト」自体は圧倒的に合理性がある選択なんですよ。

その部分の「合理性」まで無理押しに破壊しようとする論調が強くなりすぎると自動車メーカー側の姿勢も防衛的になっちゃって、本当に重要な自動運転関連の技術ギャップに対してどう取り組んでいくのか?という課題に対する動きが鈍くなりがちな面がある

だからこそ、

「全部さっさとEVにしろ!」vs「いやハイブリッド時代を経る方が重要だ」

…みたいな論争はさっさと終わりにして、

どうやってテスラやBYDやグーグルのwaymoみたいなのに自動運転技術で対抗していくのか?に議論を徹底的に集中するべき

…だと思います。

「状況を見つつEV化にヌルヌルと粘り腰でシフトしていく」のは、技術面というより「自動車メーカーの経営という巨額の固定費がかかる特殊なジャンルの専門知」が必要な分野で、外野が何か言ってても的を得たものになる可能性は少ない。

一方で、「日進月歩の自動運転技術」に対する対抗・・・っていうのは、オールドタイプの自動車業界の「中の人」の知見だけでなく、グローバルな先進事例を参照して機動的に巨額投資を行っていく事が必要な超重要なチャレンジとしてある。

ここの分野について、日本企業の動きがどうも鈍いように思うのは結構前から気になっていて、散発的に色んな投資をしてみてるけど、「やってみてるだけ」みたいな感じなんじゃないかという懸念があるんですよね。

グーグルのwaymoみたいに巨額投資してとにかくいっぱい走らせてデータ取ったりしてるのにどうやって対抗するつもりなのか、あるいはテスラみたいに「既に売ってる自社の車」からどんどんデータを取り込んでAIを鍛えまくるみたいな事をやってる感じがしない。

たまに「実証実験」のニュース流れるけど、その動画を見てるだけでも、そこで実現してる技術がどうもかなり米国・中国勢に劣後してるんじゃないかという印象がある。

特に、chatGPT型のAIが従来の自然言語処理技術(NLP)を全く一気に全部時代遅れにしてしまったような変化と同じようなものが、自動運転でも起きつつあるはずなんですよね。

今までの運転アシスト的な「高速道路のレーンチェンジをうまくやってくれる」みたいな単機能でソフトウェアをどうこうする世界じゃなくなって、莫大なデータを処理してAIが「人間の脳と同じ方法で運転技術自体を習得しちゃう」みたいな方式がスタンダードになってきている。

多分、日本メーカーもわかってるし、それへの対応を始めてはいると思うんですが、この分野の投資額が全然全く呆れるほど足りていない感じがする。

こないだホンダが一兆円もの自社株買いを発表しましたが、なんかそんなこと今してる場合なの?っていうのがすごい疑問なんですよね。(”現時点では危機どころかめっちゃ儲かってる”事を意味してるニュースではありますが)

「ROE経営が大事なんです!」もいいけどさ、ちゃんと必要な投資を自分でやる「お金使う才能」がないのは致命的なんじゃないでしょうか。

一兆円なんて、本格的にAI開発競争するなら一瞬で溶けてなくなるような額で、「今このタイミング」で無駄に放出しちゃっていいの?っていうのがすごい疑問。

株主側から見ても「今このタイミングで必要な投資」を決定して、それで自動運転技術で堂々とテスラや中国勢やwaymoに並ぶ会社になってくれたほうが、たった一兆円の自社株買いでちょこっと株価上がるとかよりよほど意味があるはずです。

その点、「ROE経営」みたいな教科書的なルールに官僚的に従うのではなく、延々と配当を行わずに今まで巨額投資をし続けてきたアマゾンのような精神を見習うべきタイミングが「今」ここにあるんじゃないんでしょうか?

3. オールジャパン(笑)でやる事も必要かも

なんかこの「オールジャパン」って言葉が揶揄されるネタみたいになっちゃってる時代ではありますが、自動運転しようと思ったら「社会の側の協力」が必要なので、そこで今必要な投資ができるように、社会全体でのバックアップが必要なタイミングではないかと思います。

自動運転のニーズとかガチで今後の人手不足社会日本ではあっちこちにあるので!!!

そこでオールドメディアとかも巻き込んで「自動運転の時代が来ました!」って盛り上げて、地方部の事例からどんどん「実際にやる」をやっていかないと・・・既に無人タクシーが普通に走ってるアメリカや中国に勝てるわけがない。

でもここで、アメリカでも無人タクシーが暴動で焼き討ちされたりしてる例もあるんで、いかに「一般の社会との親和感を維持したまま実現できるか」が重要ではあるんですよね。

なんか、「巨大IT企業が何者にも邪魔されずにバタバタと全てをなぎ倒してディスラプトする」形じゃないと先進技術など実現できない・・・と最近の事例だと思っちゃうんですが・・・

でも、2007年にiPhoneが発売されるよりも8年も前に普通に携帯でインターネット接続ができた神秘の国が極東にあったことを思い出しましょう。

「そういうタイプのイノベーション」をむしろ日本はちゃんと地道にやることが大事なように個人的には感じてます。

「ちらほらとやってみた」レベルの実証実験にとどまらず、いかに「中国やアメリカに対抗できるレベルにするか」については、「オールジャパン」のサポートと、あと真剣に考え尽くされた巨額投資が「今このタイミングで」まじで必要だと思います。

繰り返すようですが、「EV化の遅れ」なんて別にそれほど大した問題じゃなくて、むしろ日本企業は現時点でかなりうまくやってる部分でもあるんですよ。

そうじゃなくて、”AI化”で根底的に技術が変わっちゃうタイミングの自動運転技術において、「今ちゃんと巨額投資をして追いつけるか」みたいなのはものすごい重要だと思います。

「無意味な論争」してないで、「ピンポイントで必要な」方向に知恵を持ち寄れるようにする事が必要なタイミングなんですよ。

4. あとは”マネシタ電器”方式も大事かも(笑)

とはいえ、今の日本企業のトップの人ってちょっと「ガンガン拡大期」でなく「リストラ均衡期」みたいな仕事をしてきた人も多くて、「巨額にお金を使う」ってことに慣れてない部分もあるのかもと思うんですよね。

「新しい技術選定をして巨額を使う」ってなかなか難しくて、本当に有望な技術と「荒唐無稽なトンデモ」って見た目はすごい似てて、なかなかそこで確信を持って一つを選んで巨額を突っ込む決断はしづらい。

本当はここで独自の技術の方向をリスクを取って決断できたらそれが一番良いけど、それができずにズルズルと少額の「やってるフリ」投資しかできないようであれば、逆にいっそ徹底して「マネシタ電器方式」でやるのがいいように思います(笑)

「マネシタ電器」っていうのは、昭和の時期に今のパナソニックが”松下”電器だったころ、ソニーが「モルモット」となって色んな先進技術を形にし、それに対して松下は後追いで徹底的に「マネ」をして、あとは経営力と地道な販売力で勝負をする・・・みたいな戦略を取っていた頃の話ですね。

AIの進展は日進月歩すぎて、しかもものすごいスピードで進歩しているから、「一年前の超超最先端」を今なら結構普通にそこら辺のアマチュアでも再現できちゃったりする時がある。

先進技術の囲い込みに対してオープンソース化で対抗するムーブメントも起き続けるので、「先行する技術競争」をちゃんと冷静な眼で見ながら、「ある程度方式が固まってきた」時点で巨額投資を行ってドンと追いつこうとするのもそれほど無理なことではない「空隙」が生まれうると思います。

自力で最先端技術選定が「固まる」までの競争に参加するのはもう諦めちゃって、その間は「アーリーアダプター」に普及してから少し苦戦しているEVを尻目にハイブリッドを売りまくって「投資の原資」を真剣に溜め込んでおいて、どこかで

ガチのマネシタ電器戦略

…で追いつく・・・ような決断が必要なのではないでしょうか。

5. ホンハイが買った方が良かったのでは?という話について

台湾の鴻海が買うのでは?っていう憶測が流れていて(実際はそこまで具体化しきってる話ではなかったそうですが)、そっちの方がいいんじゃないの??って思っちゃう人が多いのはわからんでもないんですが・・・

ただ、鴻海に買ってもらったシャープも一時期は良かったけど最近はちょっと業績落ち込んでたりして、「短期的に持ち直す」のは「黒船統治」がいいけど、長期的にちゃんと勝ち筋を見出すには「日本勢でまとまる」ことが必要になる面もあるなと思います(ゴーンも最初は良かったけど長期的に見ると禍根を残した部分も結構ありそうですし)。

鴻海が買うと、とにかく「鴻海側のEV参入のためのネタ」として使われるんで、それが良いか悪いかは微妙なところだと思いますね。

日産は過去のエンジン車のガチファンみたいなのも沢山いるし、今NISMOとか案外良いクルマ出してるんだよ、て言ってるマニアの人のコメントとかも最近見ましたし。

そういう部分での「カルチャーギャップ」を丁寧に扱わないと延々と揉めて余計に成果が出しづらくなったりするかも。

だから、

・ホンダと日産がちゃんと提携して遠慮せず物を言い合って決断するのが最上
・次に鴻海に買ってもらってとにかくEV化に全力で舵を切るのもまあ悪くない可能性はあった
・ホンダと日産がプライド競争でグダグダと対立し、結局時間とお金を浪費するだけで終わるのが最悪

という感じなのかなと思っています。

だから「ちゃんと提携できれば」「当たり前の提携仕事をやりきれれば」可能性は十分あるはずの選択ではあるんですよ。

5. 「田舎連合」vs「首都圏連合」の後者はちゃんと「まともな仕事」ができるようになるか?

繰り返しますが、「ちゃんと当たり前のことをやれば」、それほど悪い選択ではないのではという感じではある。

でもその、日産とホンダとか本当にちゃんと一緒にやれるの?っていうのは確かにすごい不安ではあるんですよね。

「巨額投資」が必要な分野が目白押しな状況の中で、規模を大きくすること自体は間違ってない。

「日産とホンダには全くシナジーがない、追い詰められてヤケクソになって経産省が無理やりくっつけたんだ」

ってカルロス・ゴーンがブルームバーグのインタビューに答えてましたけど、その動画最後の方まで見たら感情的反発は徐々に収まって「長期的にはシナジーもあるだろう」みたいなこと言ってました。

韓国には二大自動車メーカーの現代と起亜ってのがあったんですが、アジア通貨危機の時に起亜が破綻して現代が吸収して一社だけの巨大会社になったんですよね。

結果として、電動化投資とかの基礎部分は共通化しつつも、「目先を変えて売る」という販売面はバラバラにやってうまく行ってる面もあるらしく、そういう統合は「一つの定番」としてある感じではある。

20年前から、グローバル競争をするには日本の大企業は”小さすぎ”てガチの巨額投資競争に参戦できない、って色々批判されてたんですが、20年たって後追いの「改革」が始まりつつある、ということなのかも。

日本の自動車メーカーは、スズキ・マツダ・スバルが徐々にトヨタと関係を深めていく一方で、三菱・日産・ホンダがグループになるってことですね。

なんかこれ「田舎連合」と「首都圏連合」って感じがしますが(笑)

「田舎連合(豊田・浜松・広島・群馬?)」の方はなんだかんだ大丈夫という感じがするんですよね。

トヨタってほんとやっぱちゃんと経営されてる感あるんで・・・

ほんの一例!なんですが、例えば無駄な会議が多いとかいう「あるある」的な不満があった時に、トヨタって「じゃあ会議減らそう。どうやって減らすか考えよう」ってちゃんと誰かが言い出して公式に方針として採択されて動き出す感じがあるんですよね。

でも「首都圏連合」の方は、ホンダも日産も中の人がネットで時々「愚痴」言いまくってるのを見るんですが、「愚痴いう」だけでその先がないっていうか、ああいうの本当に良くないな、という感じがします。

しっかりしろい!流れは自分たちで持ってくるもんだろがよ!by宮城リョータ

良くも悪くも「田舎」はガッチリと協力しあうカルチャーが残ってるが、「都会」の方はなんかバラバラになっちゃって、ただ自分の狭い職分だけに引きこもって愚痴だけ言って、まあまあの給料を現時点ではもらえてるぬるま湯状態で茹だっている・・・みたいな状況が放置されがちな現状があるんじゃないかという感じがする。

ただ、いざ日産が本当に「存続の危機」レベルになることで、ホンダ側がちゃんと「主導権取るぞ」という事が明確になった事自体は良かったんじゃないでしょうか。延々と揉め続けるよりは。

日産の社長さんとか、あとニュースでたまに見る「日産社員のつぶやき」みたいなのの危機感のなさっぷりが本当に大丈夫かな?と思わないでもないんですが・・・

そういう意味では、今回の日産の件で「日本の自動車メーカーヤバいんでは?」というイメージが世間一般に流布して、お尻に火を付ける効果があるとしたらそれは大変重要なことだと思いますね。

「ちゃんとやらなきゃ駄目なタイミング」なのを自覚して、しっかり変わってもらえるようにしていきましょう。

6. 「落合陽一氏の会社」の問題にも繋がる話

で!最後にちょっとだけ、今SNSで話題になってる「落合陽一氏の会社」の問題に触れたいんですが・・・

さっき「田舎連合」の方はまあなんとかなりそうだけど「首都圏連合」の方は、本当にちゃんと「仕事する」モードになれてるのか?っていう疑問にかなり近い印象だったのが、落合陽一氏の会社ピクシーダストテクノロジーズがナスダックに一瞬上場したかと思ったら即廃止になっちゃって・・・という例に近いものを感じるんですよね。

それについて、落合氏自身が大きな動画連載を持っているNewspicksが、かなり詳細に掘り下げたレポートを出していてめっちゃ勉強になりました。

NPレポート | 落合陽一氏のピクシーダスト、1年で上場廃止になった真相 - NewsPicks
落合陽一氏がCEOを務めるピクシーダストテクノロジーズが、2023年の上場から1年余りでNASDAQ上場廃止となった。実は2023年、日本企業に突如としてNASDAQ上場ブームが吹き、それはあっという間に去った。なぜブームは終わったのか。ピクシーを含め徹底取材すると、思いがけない真相を目撃することになった。 ▼前編は...

かなり詳細に取材していて良い記事でした。NP契約されてる方はぜひご覧いただくと良いと思います。

一番核心的な部分の話の手前でペイロールに入っちゃうんだけど、一応無料のYouTube版もあります。

前後編あって、そもそもナスダックって日本の市場よりよほど「上場すること自体は簡単」だけどブランドネームだけはピカピカにあるので、日本で上場できないレベルの会社が無理やりナスダックに上場して大々的に「ナスダック上場しました!」という風にやる風潮があって、徐々にアメリカでも問題視されていたそうです(それが前編の内容ですがこれもすごい面白かったです)。

で、上記リンクは「後編」の方でいよいよピクシーダストテクノロジーズについて色々と詳細に取材されてるんですが・・・

なんか、SNSで落合氏は一部に妙に強烈なアンチの人がいるんで、事の詳細は別としてこの話がめっちゃ炎上してるのを見るんですが、Newspicksの取材した結果を見ると、むしろ問題はコンサル出身のCEOのM氏の問題がすごい大きいような感じでした。

(もちろん、落合氏がどれほど実態として関与しているかは別として、CTO職を持って広告塔にもなってる以上、その会社で起きた問題には全て責任を持つべき・・・というレベルの責任は落合氏にもあると思います)

でもなんか、落合氏個人の問題というより、さらには(ちょっと甘いかもしれませんが)CEOのM氏個人の問題というより、「首都圏の会社環境」がごく一部を除いて「ちゃんと仕事できる状態」になってないんじゃないの?っていうような、なんかそういう機能不全を感じる部分はどうしてもありましたね。

(すいません!後日追記で訂正なのですが、落合氏はCTOでなくCEOで、M氏はCEOでなくCOOだそうです。ならもうちょい説明責任果たしてくれてもいいのでは?という感じありますね。田舎では”共同体”のパワーで実現している倫理を、都会ではこういう”ガバナンスの論理”を厳密化することで乗り越えなくてはいけないのかも)

「地道な課題」に人々の気持ちを集中させて突破するというより、なんかフワフワと各人が「それっぽいイケてる仕事をやってる自分」を感じたくてバラバラに個別の蛸壺の中で動いていて、誰もその蛸壺を壊そうとしない、みたいな。

ピクシーダストテクノロジーズは消音技術に強みがあって、ナスダックに行くみたいな派手なことをせずに、もっと地味で長期的に握れるタイプの資金調達をして、無駄な広告費をかけずに、その一点突破でディープテックを完成させれば、JR東日本とかから100億円とかの取引も可能になる、みたいな話になっていたらしく、でもそこでそういう「地道なこと」に行かずに・・・みたいな難しさがあるんですね。

それと同時に、例えばオシャレ家電的なプロダクトを売るにしても、WEB広告やるならそれ専業のガチな会社があって、それは「コンサル業界」の異常に高額なフィーとは全然違う相場感で動いている世界があるんだけど、なんかそこに、INCJ(悪名高い”政府系ファンド”)とか、アクセンチュアとかマッキンゼーとかが良くない意味で関わってきて、それで「ちゃんとやるべきことができない」形になってしまう。

さっきの「田舎連合」vs「首都圏連合」みたいな話でいうと、そもそもピクシーダストテクノロジーズが愛知県(というか浜松から岐阜までいたる中京エリア)にあったら、

「まだ利益出とらん会社が、なんで東京ミッドタウンみたいなええとこにオフィス構えとるの?もっと公営のインキュベーション施設とか、安上がりなとこにしとかな、余計な金が飛んでくがね!」

「いやいや、あんた、ヘアケアのオシャレ家電売るには、ガチで安くウェブ広告回してくれる会社が必要だがね!なんでそんだけ高額なコンサル頼まにゃあかんの?Mさんの古巣やでって、そりゃあちょっとおかしいんとちがう?」

「ディープテックの独自技術があるいうとるけど、そしたらなんとかJRさんの要求水準クリアしてでっかい契約取るのが一番大事やろうがね!海外展開やら雑貨展開やら、そんなん今いっぺん全部やめて、資金尽きるまでその技術を徹底して磨かにゃあ、どえらい失敗するに決まっとるがね!」

…みたいな方向に行っただろうという事は「中京の会社なら間違いなくこーなる」というレベルの話であり、落合氏やそれに共鳴して参加していた技術者の皆さんも、そっちの方が「楽しい!やったるぜ!」みたいな感じになったのではないかと思います。

なんかそういうところで「ガバナンス」が効いてなくて、「本当の課題に向き合えてない」ところが、全部じゃないけど一部の「首都圏の会社」にはあるんじゃないか?っていう印象はどうしてもありますね。

繰り返すようですが、落合氏本人に責任がないかっていうと、「広告塔になってCTO(←訂正・CEO)もやってるなら、その会社に起きた事の全てに責任を負うべき」というレベルでは責任あると思いますけど、より重要なのは落合氏が一人でなんとかしようと思っても無理、というレベルの課題が今の東京にはあるように感じる部分はあるんですよね。

それがこの、「ちゃんとガバナンス効いてる状態で仕事できてるのか?」という部分で、なにかちょっとオカシクなってる部分があるのでは?っていうところなのではないかと思います。

「日産&ホンダ」の提携も、プランとしてはまあまあ世の中で思われてるほど悪くないはずではあるものの、こういう「各人が蛸壺の中で文句だけ言ってる」みたいな状況を超えて、横断的に協力しあえるのか?っていうこの点だけはすごい不安ありますね。

そういう意味では、「日産ヤバいんでは?」っていう印象が世間に広がってお尻に火がつく事自体は、大変良いことのように思いました(実際の手元資金の額を見ると世評のように「すぐ潰れちゃう!」ってほどヤバいわけでもないようにも思いますが、それはさておき)。

長い記事をここまで読んでいただいてありがとうございました。

ここからは、最近十数年使った炊飯器が壊れまして、新しく買ったんですが、十数年の間に「業界模様」が全然変わってて驚いたという話をします。

全体として、

・東芝・パナソニック・日立・・といった”総合家電メーカー”の存在感減少
・『象印マホービン』・『タイガー魔法瓶』の二大「なにわの中規模メーカー」の存在感が激増
・一時期流行った「オシャレ家電」も徐々に退潮(その分普通の家電もだいぶんオシャレになった)

全体として、「総合家電メーカー」に対抗する平成時代の定番成功パターンであった「オシャレ家電(でも保温できませんみたいな)」ではなく、「地方発でそのプロダクトに真剣に向き合ってる企業」が伸びてるというのは大変健全なことのように思いました。

僕はコンサル業のかたわら、趣味で色んな個人と「文通」しながら人生考えるっていう仕事もしてるんですが(ご興味があればこちらから)、それで繋がってるある「伝統的な電機メーカー」勤務の女性は一度「オシャレ家電炊飯器」を買ってはみたものの、やはりかなりはやく壊れちゃったし、保温できないし、そもそもボタンのところの文字盤の塗装とかがすぐ消えてきちゃって「うちのメーカーじゃありえん」って笑ってましたw

なんかそういう「平成時代の徒花」的な、「あまりに昭和型に古い体質の家電メーカーに対抗するための徹底したオシャレ路線」みたいなものが、一巡してトレンドから外れてきてるのを感じるんですよね(で、普通の家電がそもそも結構オシャレ感あるものになってきた)。

この「古くてダサいけど質実剛健」vs「新しくてオシャレだけどどこか軽薄」みたいな平成時代風の対立構図が徐々に無効化してきて、「普通にオシャレだけど実はすごく真剣にやってるから質も伴ってる」みたいなゾーンが新しく生まれつつあるんじゃないか?って感じるんですね。

そういう「変化」は社会全体で起きていて、例えば「本当に美味しいコーヒー店」が、昔みたいに「こだわってます!」風じゃなくてかなり見た目もオシャレ風で軽々しく淹れてそうな店の方が美味しいことが増えてるのでは?という話とか、最近マニュアル車の運転でヒールアンドトゥの練習してるんだけど、解説動画をYouTubeで漁ってると「超うまい人」は一番ヘラヘラしてる感じがする・・・みたいな話も含めて、今日本社会に起きている「新しい変化」について考察する記事が以下に続きます。

(お知らせ)2025年2月7日に新刊出ます。過去一番の「ほんとうに全力を尽くして良い本を作れた」と感じています!販促上少し良い効果があるらしいので、ぜひアマゾンで予約していただけると嬉しいです。よろしくお願いします!

つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。


編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2024年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。