日本経済新聞の名物連載と言えば「私の履歴書」です。それぞれの業界で卓越した実績を上げた人たちが登場し、1ヵ月間の連載で自分の歩みを振り返る人気の記事です。
ただ、たたき上げの政治家や創業社長には思わず読まされるものが多いのですが、官僚とサラリーマン社長は話が面白くないことが多いのです。
これは、苦労して当選した政治家やゼロから事業を立ちあげた創業社長は、自らの手で道なき道を切り開き波瀾万丈を歩んできたからだと思います。
例えば、ニトリの似鳥さんやヤマト運輸の小倉さんの話は書籍化されて何度も読ませていただきました
一方で有名大学を卒業して官庁や大手企業に入り、組織の力学で出世した人の話は、決まったレールの上を上手に走っただけ。頭は良く仕事はできるのかもしれませんが、型にはまっていて人間的な魅力を感じないのです。
そんな中、今月連載をしている伊藤忠商事の岡藤さん(写真)の話は、何か心惹かれるものがあります。
有名大学を卒業し、財閥系とは言いませんが大手商社で仕事をしている人ですから、いつものパターンであれば、つまらない自慢話に終わるものです。
その理由はどこにあるのでしょうか?
新入社員で空気を読まずに役員の批判をして、使えない社員だとレッテルを貼られる
営業の仕事に回してもらえず、取引先でもメモだけを取れと干されてしまう
20代に仕事がうまくいかず思い悩んでいた当時の心情を包み隠さず、正直に語っている。謙遜している部分もあるのかもしれませんが、関西弁のやりとりもあってか人間味を感じる文章です。恰好をつけておらず、お人柄が行間に滲み出ています。
そして、毎回の連載が、連続ドラマのように翌日を期待させる形で終わっています。読み手をちゃんと考えて自己満足に終わっていない。これはかなりの文才です。
読んでいて感じたのは、サラリーマンの出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれないということです。
岡藤さんは、おそらくクレディセゾンの林野さんやセブン&アイの鈴木敏文さんのような、サラリーマンなのにオーナーになったつもりで全身全霊で仕事をしているスーパーサラリーマンなのです。
まだ始まって半分も終わっていませんが、どんなどんでん返しがあるのか。これから毎日が楽しみです。
編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。