Uberって労組もないのにどうして会社とガチンコで交渉出来てるの?と思ったときに読む話

最近、Uber Eatsの遅配やキャンセルといったトラブル多発が話題となっています。

【参考リンク】Uber Eatsで年末年始に配送遅延などのトラブル 配達員の報酬は「下げていない」とUber Japan

Uber Eatsで年末年始に配送遅延などのトラブル 配達員の報酬は「下げていない」とUber Japan
 Uber Japanは、フードデリバリーサービス「Uber Eats」で、2024〜25年の年末年始に発生していた商品の配達遅延やキャンセルについて、注文の需要が配達の供給を大きく上回ったことが原因と明かした。配達員の報酬水準は下げていないとしている

Uber側は「年末年始の一時的な需要増によるものだ」と報酬引き下げを否定していますが、実際のデリバリースタッフの声を見るに、なにがしかの引き下げはあったようですね。

【参考リンク】Uber Eatsの配達員の単価が下がり注文してもなかなか届かない事態になっているらしい「19時→19時半→20時と到着が延びた挙句、勝手にキャンセルされた」

Uber Eatsの配達員の単価が下がり注文してもなかなか届かない事態になっているらしい「19時→19時半→20時と到着が延びた挙句、勝手にキャンセルされた」
システムの穴をついてる人もいるみたいですね

これらは事実上のストであり、彼らのネット上のコミュニティはそこらの企業内労組よりよっぽど労組として仕事してるという意見もあります。筆者も同感ですね。

なぜ、Uber Eatsの従業員たちは、正式な労組もないのに会社とガチンコで交渉出来ているんでしょうか。

そして、なぜ同じことを日本企業の労働組合は出来ないまま、会社にやりたい放題されているんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。

Fiers/iStock

労働者にとって“最強の武器”とは何か

Uberのスタッフが会社とガチンコで交渉できる理由は、以下の3点です。

・いつでも競合に転職できるから

フードデリバリーサービスはUber以外にも、出前館やmenuといった企業がしのぎを削っています。
「割に合わない」と思えば、無理にUberに固執する理由はないんですね。

これは労働者にとって非常に大きな武器だと言えます。

 ・経営なんてどうでもいいから

恐らくUber側にはスタッフの報酬を抑制しないといけない事情があるんでしょう。20年後を見据えてもっと設備投資しないといけなかったり、米国本社からもっと利益を上げろと尻を叩かれたり。

でも一労働者からすればそんなことは本来どうでもいい話ですね。そんなことより自分は今すぐこれだけ必要なんだから払うのか払わないのかはっきりしろというのが、本来の労働者の感覚だと思いますね。

 ・プロフェッショナルだから

そして、もっとも心強い点は彼らがプロフェッショナルだからです。

なんて書くと「大げさな」と思う人もいるかもですが、筆者の考えるプロの定義は「自分のスキルを理解し、それを磨く努力をし、安売りはしない人たち」のことです。

プロ野球選手とかゴルゴ13みたいな人たち限定ではなくて、どんな職種にも存在しえるものです。

完全実力主義でデリバリーという業務に特化し、「割に合わない仕事は受けない」というスタンスの彼らは間違いなくプロフェッショナルでしょう。

これらを総合したものが「労働市場の流動性」と言われるものの本質でしょう。そしてその流動性こそが労働者の最強の武器だというのが筆者のスタンスです。

一方で、全く逆のアプローチで処遇の底上げを勝ち取ろうとしたのが我らが日本企業ですね。そしてそのアプローチとは終身雇用制度です。

「定年まで雇わせて、原則賃下げも認めない」というのを規制で実現させようとしたわけです。結果、何が起こったか。

・新卒一括採用という入り口一発勝負
・労使協調なのでヒラ社員が会社の20年後を心配
・プロじゃなく“メンバー”

ここ15年くらいで大手にも中途採用が広まりましたけど、それまでは事実上の新卒一括採用のみ、新卒でコケたりすぐに辞めちゃうと元のレールには戻れない時代でした。

また、日本企業では、株売ったらサヨナラの株主や数年で退任する経営陣よりも、実は労組が長い目で経営を考えています。だって定年まで何十年もお世話になるから。

だから日本企業の労組って絶対にストなんてやらないし無理な賃上げも要求しないんです。あくまでも「経営に差し障らない程度に」慎ましくリクエストするだけですね。

そしてメンバーシップ制なので業務を確定させないまま入社し、会社から与えられる仕事をなんでもこなすゼネラリストは、言うまでもなくプロフェッショナルとは異質なものです(その会社内の人間関係とか社史とかの“プロ”ではあるんでしょうけど)。

中途採用やってる会社は今ならいくらでもあるけど「自分は今の会社のことしかわからないから転職できない」という人は多いでしょう。それはその人がプロではなくメンバーだからです。

さて、そうやって流動性という武器を捨て、終身雇用という一種の規制で守ってもらおうとした結果、望むものは手に入ったんでしょうか。

「失われた30年」なんて言われている点を鑑みるに、ほとんどの人にとって“終身雇用”という武器は期待していたほどの御利益はなかったんじゃないですかね。

以降、

・今の場所にとどまり続けるには人も企業も走り続けるしかない
・ジョブ化と交渉は切っても切れない関係

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Q:「40代ですが急に引き合いが増えて驚いています」
→A:「企業が年功序列という夢からさめただけでしょう」

Q:「管理職昇進の基準というのはどういうものが一般的なんでしょうか?」
→A:「一番重要なのは事業部内の評価でしょう」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年1月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。