ドイツ民間ニュース専門放送局NTVによると、イランはロシア製最新戦闘機スホイSUー35を購入したという。同情報はイラン革命防衛隊(IRGC)関係者が27日、同国の国営通信社「学生ニュースネットワーク」に語ったものだ。ただし、同戦闘機が既にイランに輸送済みか否かについては、明らかにされていない。数カ月前からイランがロシア製戦闘機を購入するのではないか、といった情報が流れていた。イランの代表者がSU-35戦闘機の購入を正式に認めたのは初めてだ。
イランのぺゼシュキアン大統領は17日、モスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領とクレムリン宮殿で首脳会談を行ったばかりだ。両国首脳会談ではロシアとイラン両国間で「包括的戦略パートナーシップ条約」の署名が行われた。イランのIRNA通信は「この文書は協力、特にテヘランとモスクワの経済関係に新たな機会を開くものとなる」、「テヘランとモスクワは、新たな文書の形で二国間協力を拡大する決意を強調した」と報じたが、同パートナーシップがロシアとの軍事的協力を明記したものではないと強調していた。
イランのロシア製戦闘機購入の話は既に2022年末、イスラエルのテレビ局が西側情報機関筋として報じてきた。それによると、ロシアはイランに複数の戦闘機を供給する計画があるというのだ。具体的には、モスクワはエジプト向けに製造された24機のSU-35をイランに提供する予定だというものだ。そして昨年11月、イランのニュース通信社タスニムが「テヘラン政府がロシア製戦闘機の購入契約を締結した」と報じていた。
イラン空軍は近代的な軍用機を保有していない。大多数の戦闘機は、1979年のイスラム革命前に製造された米国製のF-4やF-5などの古い機体で、それに数機のロシア製機が含まれている程度だ。
ちなみに、イランのライシ大統領(当時)とアブドラヒアン外相が搭乗したヘリコプターが2024年5月19日、天候の悪化で墜落し、大統領と外相が事故死するという惨事が起きたばかりだ。欧米諸国の対イラン制裁もあってイランの航空機、旅客機は部品が手に入らないこともあって安全飛行に支障があるといわれてきた。
SU-35は、ロシアのスホーイ社によって開発された多目的の超音速戦闘機で、スホーイのSu-27(フランカー)を基にした改良型であり、優れた機動性と強力なレーダーシステム、先進的な武装を持っている。この機体はより強力なエンジン(AL-41F1Sエンジン)や、新型のレーダー、アビオニクス(航空機の電子機器群)を搭載している。また、操縦性を向上させるために、スラストベクティング(推力偏向)技術を採用し、超音速で飛行しながら、非常に高い機動性を誇る。2011年からはロシア空軍に大量配備された。
ロシアとイランの関係は緊密だ。シリア内戦ではイランは2011年に、ロシアは2015年に、アサド政権を軍事支援するために戦争に関与してきた。対ウクライナ戦争では、イランはロシアに自国製の無人機や弾道ミサイルなどを送っていることはよく知られている。両国間は既に軍事同盟だ。今月17日の条約署名式後開かれた記者会見で、プーチン大統領は「この包括的戦略パートナーシップ条約の作成には長い時間を要したが、この作業が完了したことを大変うれしい」と述べている。
なお、イランの核開発を阻止したいイスラエル側にとってイランのSUー35戦闘機購入情報は警戒を要する。イラン側は同国の核関連施設をイスラエル空軍の攻撃から守りたい。特に、トランプ大統領が就任し、イスラエルへの軍事支援を強化することが明らかだけに、イラン側はロシア製戦闘機の購入という軍事情報を敢えてメディアに流すことで。イスラエル側へデモンストレーションした感じだ。
参考までに、イスラエル空軍は米国製のF-22やF-35戦闘機を保有している。特にF-35はイスラエル空軍の主力戦闘機の1つであり、イスラエルはF-35の「アドバンスド・ステルス・ファイター」を購入している。SU-35に対しては、F-35がその優れたステルス性と電子戦能力で対抗することが可能だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。