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The White Houseより
顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
アメリカのドナルド・トランプ大統領について日本の主要メディアや識者はどこまで間違った情報を垂れ流し続けるのか。トランプ・石破両氏の初の日米首脳会談では朝日新聞などが甲高い叫び声ふうに喧伝してきた「トランプからの圧力、要求、非難」はツユほども出なかった。代わりにトランプ大統領が強調したのは日米同盟の堅持の重要性、日本への信頼と友好だった。
そもそもトランプ氏の選挙での圧勝さえも錯誤した日本側の主要メディアと識者たち、重要な同盟国の政治情勢の誤認をどこまで続けるのか。
石破茂首相とドナルド・トランプ大統領の2月7日のワシントンでの首脳会談は日米同盟の堅持や日米友好を合意し合う形で、きわめて円満に終始した。とくに顕著だったのはトランプ大統領の日本への友好、理解、賛辞と中国などの現状変更勢力に対抗する日米の強固な連帯だった。この日米連帯はトランプ大統領側から提示され、石破首相も同意した「日米関係の黄金時代」という標語に象徴された。
ところがこの会談の事前には日本側ではトランプ大統領が日本に対して防衛費のさらなる増額の要求、日米貿易不均衡の日本側の是正としての市場開放、日本を標的とする新たな関税措置など、要求や圧力をぶつけてくる、という予測が多かった。その姿勢を不当だとか、横暴だとかする批判が絶えなかった。
そうしたトランプ批判の先頭に立ったのは朝日新聞だといえる。そもそも朝日新聞はアメリカの大統領選挙戦中からトランプ非難、民主党のカマラ・ハリス賞賛の論調が顕著だった。だからトランプ氏の圧勝という現実の選挙結果も予測を大きく外す結果となり、その結果には慌てたように、新たな批判を込めてトランプ叩き報道を続けてきた。
朝日新聞の今回の日米首脳会談に関する予測の錯誤はその会談の直前の記事でも明白だった。朝日新聞2月8日付朝刊の大きな記事は「トランプ氏 2期目の要求は」という見出しで、ワシントン発、清宮涼、榊原謙という両記者によって書かれていた。前文には以下の記述があった。
「トランプ大統領は1期目で、安全保障と通商問題をリンクさせ、日本に圧力をかけた。再び様々な要求をすることが懸念される」
そして記事の末尾には以下の記述があった。
「トランプ大統領は相手の足元を見ながらの交渉スタイルに今後4年間、日本は再び悩まされることになりそうだ」
だが実際の日米首脳会談ではトランプ大統領は石破首相に対し、なんの要求もせず、圧力もかけなかった。その逆に日本との連帯、日本の重視、共同防衛の増強、尖閣諸島の防衛など、協力、友好、団結のみを強調した。そして日本への礼賛を惜しまなかった。
日米安保条約に関しては「日米同盟はインド太平洋の安全保障の礎である」とも宣言した。礎(いしずえ)とは英語ではCornerstoneという言葉である。日米同盟こそがアメリカのアジア全体での礎石、土台なのだという意味だった。そして繰り返すが、トランプ大統領は日本に防衛費の増額を求めるというような言葉は一切、口にしなかった。つまり朝日新聞の予測とはまったく異なる対応だったのだ。
朝日新聞はこの記事でも、また他の最近の記事でもトランプ大統領が1期目に日本に対して多数、多様な要求をぶつけてきたと書き続ける。
しかし実際にはトランプ氏は2016年の選挙キャンペーン中にこそ、日本について日米同盟の片務性への批判などを述べたが、実際に大統領に就任してからの4年間は防衛でも貿易でも公式の場で日本に要求や圧力、抗議、批判と呼べる言辞を発したことはないのである。全面的な信頼を寄せた安倍晋三氏が日本の首相だったことも大きかったが、トランプ大統領はそもそも1期目から日本との絆を最重視していたのだ。その姿勢は2期目も変わらないといえる。
朝日新聞はその1期目のトランプ大統領の対日姿勢に関しても大きな誤報をしていた。2017年2月10日のトランプ・安倍首脳会談ではトランプ大統領が自動車や為替の問題を持ち出して、日本を批判し、譲歩を迫ってくるという報道をさんざんにしていたのだ。だがそんな批判や提起はなかった。まさに歴史は繰り返す、の誤報だった。
朝日新聞の同年2月11日の朝刊第1面には「車貿易や為替 焦点」という大きな見出しの記事が載った。本文の冒頭は以下のようだった。
「(日米首脳会談で)トランプ氏は自動車貿易を重要課題とする構えで、二国間の貿易協定や為替政策に言及する可能性もある。通商・金融分野をめぐり、どのようなやりとりが交わされるかが焦点となりそうだ」
その前日の2月10日夕刊は、もっと明確だった。間違った予測を見出しにした記事だった。
「自動車、重要議題に」
こんな見出しの記事の本文は冒頭で以下のように述べていた。
「トランプ米大統領が10日の安倍晋三首相との日米首脳会談で、自動車貿易をめぐる協議を重要議題に位置づけていることがわかった」
しかし現実の日米首脳会談では自動車問題も為替問題も出なかったのだ。この事実は朝日新聞も首脳会談直後の2月12日付朝刊の記事ではっきりと認めていた。
「トランプ氏が問題視していた日本の自動車貿易や為替政策も取り上げられなかった」
朝日新聞のトランプ報道にはこんな前歴もあるのだ。これはやはり誤報と呼ぶしかないだろう。その同じ誤りを8年後にまた繰り返しているのだ。誤りというよりも意図的なゆがめと見た方が妥当かもしれない。
アメリカのトランプ支持層はトランプ氏に対してとにかく憎しみや嫌悪の感情に流され、客観的な政治判断のできない人たちの風潮を「反トランプ錯乱症」(TDS)と呼んでいる。トランプ氏の言動や政策はとにかく悪いのだと決めつけるような朝日新聞の論調もそんな錯乱症といえるのかもしれない。
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古森 義久(Komori Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2025年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。