オーストリア南部ケルンテン州のフィラッハで15日、23歳のシリア人がナイフで路上の通行人を襲撃し、1人の14歳の男性を殺害、5人に重軽傷を負わす事件が起きた。ナイフで通行人を襲撃する容疑者を目撃した42歳の男性が自分の車を容疑者にぶつけ、犯行をストップ。駆け付けた警察官が容疑者を逮捕した。コラム欄で報告済みだ。
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テロ事件の犠牲者を追悼する人々とロウソク、2025年02月16日、オーストリア国営放送の中継からスクリーンショット
カルナー内相は16日、フィラッハで記者会見を開き、「容疑者はイスラム過激テロ組織『イスラム国』(IS)シンパで、犯行は宗教的動機に基づくテロだ」と説明した。家宅捜査された容疑者の家にはISの旗があったという。犯行は単独と見られている。
捜査が進むにつれて浮かび上がってきた事実は、平凡なシリア出身の青年がオンラインを通じて短期間でイスラム過激派思想に洗脳され、テロ行為を行ったということだ。オーストリアの捜査当局は「TikTokなどのソーシャルネットワークを通じて数週間、数カ月で普通のイスラム教の若者が過激化することには驚かざるを得ない」と述べている。
実際、フィラッハの容疑者はTikTokのプラットフォームを通じて短期間で過激化している。容疑者の携帯電話にはISのプロパガンダ資料が残っていた。ISに忠誠を宣言するビデオが録音され、端末に保存されていたが、まだ送信していなかった。「犯行3日前にナイフを購入し、襲撃を決意したようだ」という。
ところで、TikTokはアルゴリズムが非常に強化されたプラットフォームだ。TikTokにはISのプログラムがある。TikTokでは目立たない動画からISのプロパガンダに非常に迅速に移行でき、過激なコンテンツが飛び出してくる。多くのインフルエンサーが登場し、イスラム教の教えを感情的にアピールする。
英国の「キング・カレッジ・ロンドン」で教鞭を取るテロ専門家ペーター・ノイマン教授はオーストリア国営放送とのインタビューで、「ハマスのイスラエルへの奇襲テロ事件以後、オンラインを通じて急速に過激化する若者が増えてきた」という。10年前、刑務所に入ったイスラム教の若者がそこで過激派のイスラム教徒と出会い、過激主義の道を歩みだしたり、イスラム寺院で欧米社会への憎悪を説教する伝道師から影響を受けるといったケースが多かった。オンラインでの過激化は、比較的短期間に残忍な行為につながる可能性がある」という。
ガザでの戦争により、多くの人がこの問題に興味を持ち出しているので、テロリストや過激派がこの話題を悪用している。インフルエンサーは、特に若者を感情的にし、道具化し、最終的に「フィルターバブル」という現象の世界に陥らせる。
「フィルターバブル現象」とは、自分の見たい情報以外をインターネットで見ることができなくなり、自分の観点に合わない情報から隔離され、同じ意見を持つ人間同士で群れ集まるようになることだ。インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断するため、自分が見たい情報しか見なくなる状況にいつの間にか陥るわけだ。
IT専門家によると、「フィルターバブル」に陥ることはこれまで以上に簡単だという。「最近の若者がプラットフォームをノンストップで利用しているのを見れば、フィルターバブル現象がどれほど起きやすいか想像できる」という。
ノイマン教授は「過激化が加速しているので、治安当局も迅速に対応しなければならない」という。具体的には、オンラインで過激なコンテンツを発信するインフルエンサーを追放し、プラットフォームの閉鎖などが考えられる。
オーストリアのカルナー内相はシリア人やアフガニスタン人の亡命希望者の一斉検査、メッセンジャー監視などを検討しているが、個人情報の保護、人権擁護といったハードルがあるため、実行するには乗り越えなければならない問題があるのが現状だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。