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ricochet64/iStock
やっぱり来た……。
2月21日付けの日経記事「EU、自動車関税引き下げを示唆」を見て、そう感じた。
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短い記事だから引用しちゃう(日経さんごめんなさい)。
【ワシントン=八十島綾平】欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のセフコビッチ欧州委員(貿易担当)は19日、EUが輸入自動車にかける10%の関税について「(あり方を)検討する用意がある」と述べ、引き下げを示唆した。ラトニック米商務長官らと同日から通商担当閣僚級の協議に入ると表明した。
訪問先の米首都ワシントンで講演した。米国は自動車に2.5%の関税をかけているが、EUの関税は現状10%のためトランプ大統領は「不公平だ」としていた。
「EU、自動車関税引き下げを示唆」日本経済新聞2月21日付け国際2面
この記事は短いけど、今後の世界自由貿易体制にとって、分水嶺的な意味合いを持つかもしれない重大なニュースだ。
「自動車関税引き下げを示唆した」と言うが、それはMFNベース、つまり米国だけでなく全世界に対して一律に引き下げるつもりなのか、それとも引き下げ対象は米国だけか?という点がキモだ(この記事、ブラッセル発じゃなくワシントン発なのが気になる)。
自動車についていつも保護主義的な姿勢を採り、先進国のくせに10%の関税を維持してきた欧州が、前者のように全世界に対して一律に関税を引き下げることは想像しにくい。
もし後者ならGATT協定第1条(最恵国待遇原則)違反になる(末尾注)。
いまや「WTO脱退国」然と振る舞うトランプの米国だけでなく、これまでWTO体制を守る側の先頭に立ってきた欧州までが明白なWTO協定違反に踏み込めば、保護貿易を戒めてきた箍(たが)は完全に外れる。
後はどこの国がMFN違反で特定国を狙い撃ちするが如く関税を引き上げてもお構いなしになる(厳密に言うと、米国がそれで被害を被りそうになったら、トランプが暴力で止めさせるだろう。つまり力の強い者だけが己の利害を守れる弱肉強食の世界がやって来る)。
という訳で、欧州が示唆してこれから米国と交渉に入る自動車関税引き下げがどういうものになるかは、分水嶺的な意義を持つ。もしMFN違反、米国オンリーの引き下げであれば、「WTO体制崩壊記念日」を制定した方がよい。
後書き:…と書いたが、永年WTOで飯を食ってきた手練れのブラッセル通商官僚は、実態はMFN違反だけど、違反があからさまにならないような偽装、化粧を施すだろう。けど、そのテクニックも他の国が参考にするから、結果は同じ、罪の重さも変わらないぞ、ブラッセル、聞いてるか!?
注:一般的最恵国待遇(GATT第1条第1項)
GATT第1条第1項は、関税、輸出入規則、輸入品に対する内国税及び内国規則について、WTO加盟国が他の加盟国の同種の産品に最恵国待遇を供与することを定めている。すなわち 加盟国は、同種の産品については、他のすべての加盟国に対して、他の国の産品に与えている 最も有利な待遇と同等の待遇を与えなくてはならない。
同種の産品であるにもかかわらず、輸入相手国によって異なった関税率を定める等、明白に 特定国に対する差別を行っていれば、当然に GATT第1条第1項違反である。
編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2025年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。