8日の英国の10年債利回りは0.6%近くまで低下し過去最低を更新した。これは8月4日にイングランド銀行が利下げや量的緩和を含む包括緩和を決定したためである。
4日のイングランド銀行の金融政策委員会(Monetary Policy Committee; MPC)では、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。利下げの効果を強固なものとするための金融機関向け低利融資制度を含めてパッケージされた、いわゆる包括緩和政策を決定したのである。
6月23日の英国の国民投票によりEUからの離脱が決まったことにより、英国経済見通しの悪化が予想された。7月14日のMPCでは追加緩和は見送られたが、EU離脱後の影響をもう少し見極める必要があったためかとみられる。金融緩和は見送られたものの、9人の政策委員のうち、多くが8月の金融緩和の実施を見込んでおり、緩和策の選択肢を協議していた。その結果が8月4日の包括緩和策となった。
カーニー総裁は4日の政策発表後の記者会見で「このパッケージの構成内容はいずれも拡大の余地がある」と発言した。ただし「マイナス金利には感心しない」と語ったように、ECBや日銀などのようにマイナス金利の導入に動く可能性は否定した。
またヘリコプターマネーについてカーニー総裁は、こうした提案に利点があると思えないとし、「英国でそのような思い切った想像が必要になる状況は考えられない」と一蹴した。これが本来の中銀の考え方であろうし、ヘリマネについては日銀の黒田総裁も明確に否定している。
ちなみに日本や米国では中央銀行による国債の直接引き受けは禁じられており、ECBも同様であるが、イングランド銀行はそのような規定はない。
さらにカーニー総裁は、英国のEU離脱を巡り、イングランド銀は衝撃を和らげることはできるが経済への影響を完全に相殺することはできず、「長期繁栄の真の決定的要因となる判断」を下す責任は政府にあるとの見方を示した(WSJ)。
このあたりの念押しは非常に重要である。どこかの中央銀行では金融政策だけであたかもデフレ脱却が可能であるかのように主張していた気がするが、本来の金融政策とは衝撃を和らげるといった役割であり、金融政策で何かを変えられるといったものではない。せいぜい金融市場のマインドを変化させる程度である。
それはさておき、このタイミングでここまで大胆な包括緩和が英国に必要であったのであろうか。たしかにポンドが大きく下落するなど市場は動揺していた。しかし、ポンド安はむしろ景気にとってはマイナスではないはず。それでも中央銀行としては景気の落ち込みや金融市場の動揺を抑えるためには必要であったとの判断か。
しかし、イングランド銀行も利下げはあと出きても一回(マイナス金利政策は否定している)、量的緩和についても英国債の市場規模は約1兆5000億ポンドとされることで日銀同様にまだ3割とはいっても限界もあろう。追い込まれつつある日銀の金融政策を見ても、今後もし何か起きたときのための「のりしろ」を残しておいた方が良かったようにも思える。現実に9日にイングランド銀行の国債買入で応札額が予定額に届かなかった未達も発生している。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。