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企業の減価償却費に相当する固定資本減耗について国際比較してみます。
1. 企業の固定資本減耗
前回は、企業の投資である総固定資本形成について人口1人あたりのドル換算値と対GDP比で国際比較してみました。
今回は、減価償却費に相当する固定資本減耗について同様に国際比較してみます。
固定資本減耗は、機械・設備や施設など固定資産の劣化などによる減価分となります。
固定資産残高が多いほど固定資本減耗も増え、企業経営としては負担が増えることになります。

図1 総固定資本形成・固定資本減耗・純固定資本形成 日本 非金融法人企業
国民経済計算より
図1は日本企業の総固定資本形成、固定資本減耗とその正味の純固定資本形成の推移です。
日本企業の総固定資本形成はアップダウンしつつ停滞傾向が続きましたが、固定資本減耗は緩やかに増え続けています。
1994年に急激に増えているのは、SNA2008への改定によるもので、これまでカウントしていない項目が増えたか、評価方法の変更などの影響によるものと思われます。
1993年以前は、現在の評価方法からすると、いくぶんか低く見積もっていた事になりそうです。
2. 1人あたり固定資本減耗の推移
まずは企業の固定資本減耗の国際比較として、人口1人あたりのドル換算値を見てみましょう。
企業の1人あたり固定資本減耗 = 企業の固定資本減耗 ÷ 人口

図2 1人あり固定資本減耗 非金融法人企業 名目 為替レート換算
OECD Data Explorerより
図2は企業の1人あたり固定資本減耗(為替レート換算値)の推移です。
前回の総固定資本形成同様に、固定資本減耗も日本の水準が突出した状況が続いたようです。
日本が横ばい傾向なのに対して、他国は増加傾向となっていてその差は縮まっています。
2022年はアメリカが日本を上回っていますが、日本の水準はまだ高い方となっています。
当然ですが、投資が多い国ほど固定資本減耗の水準も高いという事になります。
3. 1人あたり固定資本減耗の国際比較
つづいて、企業の1人あたり固定資本減耗について国際比較してみましょう。

図3 1人あたり固定資本減耗 非金融法人企業 名目 為替レート換算 2022年
OECD Data Explorerより
図3は企業の1人あたり固定資本減耗(為替レート換算値)について、2022年の国際比較です。
日本は5,703ドルでOECD36か国中10番目の水準、G7ではアメリカに次いで2番目です。
急激な経済拡大中のアイルランドは、固定資本減耗の水準も極端に高いようです。
スイス、ノルウェー、ルクセンブルク、デンマークなど経済水準が高く人口の少ない国が上位を占めます。
4. 固定資本減耗 対GDP比の推移
つづいて、各国の経済規模に対する減耗の水準として、対GDP比について計算してみます。
企業の固定資本減耗 対GDP比 = 企業の固定資本減耗 ÷ GDP x 100

図4 固定資本減耗 対GDP比 非金融法人企業
OECD Data Explorerより
図4が企業の固定資本減耗 対GDP比の推移です。
日本(青)は非常に高い水準が続いている事になります。
1994年の改定時に一段高くなっていますが、裏を返せばそれ以前の水準は本来さらに高かったのかもしれません。
他の主要先進国は7~10%くらいですが、日本は10%以上でやや上昇傾向です。
韓国も上昇傾向となっていて、近年では日本に近い水準となっています。
企業経営をしているとわかりますが、固定資産の減価償却費は非常に大きな負担です。
日本企業は前回見たように投資(総固定資本形成)が多いですが、その分だけ固定資本減耗も多いという事になります。
つまり、それだけ付加価値を稼がなければ、利益が圧迫され、人件費圧縮への動機が強まりますね。
失われた30年は、人件費が上がらなかった事と強く関係していると思いますが、その背景には企業の投資規模が相対的に過剰だったという側面もあるのかもしれません。
5. 固定資本減耗 対GDP比の国際比較
最後に、企業の固定資本減耗 対GDP比について国際比較してみましょう。

図5 固定資本減耗 対GDP比 非金融法人企業 2022年
OECD Data Explorerより
図5が企業の固定資本減耗 対GDP比について2022年の国際比較です。
1位のアイルランドは20%を超えていますが、日本は16.7%でOECD36か国中2位の水準となります。
稼ぎ出す付加価値であるGDPのうち、企業部門の固定資本減耗がこれだけの割合を占めているという事になります。
固定資本減耗はGDP分配面の1要素ですので、GDPから固定資本減耗を除いた所得が、それぞれ家計、企業、政府に分配されます。
固定資本減耗の割合が高いという事は、それだけ分配が目減りする事を意味しますね。
他のG7各国は10%前後で、日本よりもかなり低い水準という事がわかります。
特にイギリスとアメリカは8%程度で、先進国の中でも下位です。
GDPに対して、企業の投資の割合がそれほど大きくないという事になります。
6. 企業の固定資本減耗の特徴
今回は、企業の固定資本減耗について人口1人あたりのドル換算値と、対GDP比をご紹介しました。
日本企業は投資(総固定資本形成)が相対的に多いので、固定資本減耗も同様に多いという事が確認できました。
投資をすれば必ずその減価償却費が発生し、企業経営の負担が増えます。
投資によって、その負担以上の付加価値が増えなければ企業経営は苦しくなりますね。
日本の場合は投資が多い割に付加価値が増えていないため、負担も大きい状況が続いているという事になります。
高付加価値化(高機能・高単価)ではなく、より安く大量に生産するための投資が多いのかもしれません。
数量が増えても、価格が安くなれば、付加価値(数量x価格)は増えません。
物価が下がり、名目GDPが増えず、実質GDPは成長してきた経緯とも符合するのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。