ウクライナ停戦交渉が当事国間ではまだ始まってはいないが、停戦後のロシアとウクライナ両国の紛争境界線に派遣する国際平和部隊の派遣問題について欧州諸国を中心に30カ国以上の軍部関係者が11日、パリに結集して第一回目の会合を始める。

スターマー首相インスタグラムより
ウクライナへの欧州軍の派遣はマクロン大統領がいち早く提案してきたが、これまで具体化することはなかった。それがトランプ米政権が発足し、米国がウクライナ停戦問題をウクライナや欧州抜きで始めようとしていることに危機感を持ったフランスのマクロン大統領や英国のスターマー首相らが主導となって国際平和軍の創設に向けて本格的な準備に乗り出してきたわけだ。
国際平和軍の派遣のためには、ロシア軍とウクライナ軍の戦争が一時停戦することが前提となるから、具体化するまでにはまだ紆余曲折がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は停戦の第1段階として空と海での戦闘中止を提案しているが、ロシアはウクライナの停戦案について全く関心を示していない、といった状況だ。
国際平和軍創設について、フランスと英国は積極的だが、トランプ米政権は懐疑的であり、ロシアは反対だ。欧州の盟主ドイツは2月23日の総選挙後、まだ新政権が発足していないこともあって、態度保留といったところだ。ちなみに、ショルツ独首相は2月中旬の時点で、ウクライナにドイツ軍を派遣する議論について「極めて不適切だ。完全に時期尚早だ」との見解を示している。
パリからの情報によると、30カ国以上が今回の最初の会合に軍部関係者を派遣するが、ほとんどが北大西洋条約機構(NATO)加盟国だ。NATO加盟32か国のうち、ほぼ全ての国の参謀総長または代表者が会議に出席する予定だ。ウクライナは、安全保障・防衛会議のメンバーでもある国防当局者が代表として参加する。
ただし、クロアチアとモンテネグロは招待に応じず、アメリカは会議には参加しない。フランスの軍関係者によると、アメリカは招待されなかったという。これは、欧州諸国が停戦後のウクライナ安全保障において主導的役割を果たせることを示すためだという。国際平和部隊は、停戦が成立した後にロシアが再びウクライナを攻撃するのを防ぐ役割を担う。しかし、アメリカ政府はこの構想に慎重な姿勢を示しており、ロシアは強く反対している。
ロシアのラブロフ外相は、「ウクライナに欧州の平和部隊が展開されれば、それはNATOの存在と見なされる」と警告した。そして「我々はこうした措置に断固として反対する。これはNATO部隊がロシアとの戦争に正式に関与することを意味する」と述べた。
なお、パリの会合にはアジアやオセアニアの国々もオンラインで会議に参加する予定という。公式の参加国リストは公表されていないので不確かな面もある。例えば、オーストラリアのアルバニージー首相は、ウクライナへの平和部隊派遣の可能性を排除していないが、「現時点では時期尚早」との見解を示している。
フランスの軍関係者によると、国際平和部隊は重火器を備え、ロシアによる攻撃が発生した場合、数時間から数日以内にウクライナの防衛支援に動員できるようにする計画だ。フランスのルコルニュ国防相は、ウクライナ停戦後の危機に備えて欧州に兵器庫を設置する案を提案している。なお、11日の会議初日、フランスとイギリスの草案が各国代表に提示される。その後、各国の軍隊がどのように貢献できるか具体的に議論される見込みだ。
以上、AP、AFP、DPAの記事を参考にまとめた。
フランスと英国はウクライナ停戦後の安全保障体制作りに動き出してきたが、欧州諸国が主導となって米国抜きでウクライナに持続的な停戦を確立できるかは不確かだ。ただ、欧州側の最初の具体的な対応として、「欧州の独自の核抑止」論と共にその行方が注視される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。