日経の「日曜日に考える」でアメリカ経済の将来についてお二人の研究者の意見ががそれぞれの専門知識をもとに掲載されています。双方ともポイントを良く突いているのですが、結論は日銀副総裁の西村清彦氏はアメリカの日本化を想定し、シカゴ大学のオースタングールズビー氏は短期的には苦しいが、中長期的には楽観視としています。
まず、アメリカの今回の経済低迷の原因について西村氏が(日本と同様の)不動産バブルを上げたのに対し、グールズビー教授は日本化という長期の低迷は日本の銀行システムによるところが大きく、アメリカはそれを乗り越えたとしています。
この点に関しては不動産バブルの崩壊をどう捉えるかということになりますが、私は不動産バブルの崩壊は個人、法人、国家全てのレベルにおける資産収縮であり、銀行システムはそれに深く関与していたものそれがバブル崩壊から立ち直る、立ち直らないの問題ではないはずです。
バブルの崩壊は急激な経済の逆回転を生むわけで一度それに「蹂躙」されたならば簡単に立ち直るはずはありません。よって、アメリカも既に住宅価格のピークをつけた2006年夏ごろから6年も立っているのに今になって再び差し押さえ物件が増える状況にあるのです。今後は地域によって多少のバラツキが出てくると思いますが長期低迷は覚悟しなくてはいけません。
お二人とも掲げているのがアメリカの高齢化。アメリカは日本より出生率ははるかに高く、高齢化の進捗はゆっくりともいわれています。ただ、これは統計のマジックともいえるのですが、高齢化した社会を人口ピラミッドでみる場合、全体のパイを決める出生率や移民などを含めた人口増加率がキーとなりますからアメリカのように健全な人口増加国家はあたかも高齢化がゆっくり進んでいるように見えます。しかし、それはあくまでも相対比率の問題であり、絶対数でみれば世界の先進国は戦後のブーマーという共通の時代を経ていますので大差なく高齢者は増えるはずです。
となれば日本と同様、絶対数の増える高齢化社会に対して社会保障の問題は避けて通れない状況が生じます。同じことはここ、カナダでも急速に進んでおり、日本が3歩ぐらいリードしているというだけの話です。カナダでもアメリカでも戸建からコンドミニアムライフが増えている一つの理由が高齢化であります。コンドですと庭の面倒、セキュリティ、固定資産税、家のメンテ、集合住宅ならそばに人がいる「逆説的な安心感」など社会のニーズにマッチしているのであります。
最後に経済について見るとグールズビー教授が中国との収斂という興味深いことを指摘しています。アメリカは
製造業の生産性が向上したにもかかわらず、賃金はさほど上がらなかったのに対し、中国は賃金上昇が続き、中国の圧倒的有利な立場からその差は縮んできたと指摘しています。これはその通りでしょう。ただ、中国との差が収斂しても他の東南アジアに製造業がシフトしていけばアメリカが再び引き離されることになり、アメリカの製造業の位置づけが中国のような世界の工場化にはなることはありません。よって、アメリカの製造業は高い技術や高付加価値の製品に特化したり、自動車産業のような必要不可欠で必ず需要があるものを内政化するなどして凌ぐことになるのではないかと思います。
個人的にはアメリカも日本化していくと思います。日本化とは成熟した先進国が陥る共通の問題でありたまたま日本が世界で最も早くそれを経験してしまっただけの話だと思っています。よって、避けては通れませんが、なるべく影響を少なくするような対策は取れるはずです。そのためにもアメリカは日本化しつつあることを素直に認め、社会保障の充実化を進めるべきだと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。