スマートメーターは社会を変えるのか? 27万戸に取り付けて見えたもの

アゴラ編集部

【編集部注】アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRコラムを紹介する。

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ヌリテレコム株式会社 代表取締役 鈴木真幸

はじめに

東日本大震災以降、エネルギー関連の記事が毎日掲載されている。多くの議論かが行われており、スマートメーターも例外ではない。


よくスマートメーターをキーワードにして、AMI、HEMS(Home Energy Management System:家庭内エネルギー管理システム)、BEMS(Building Energy Management System:ビルエネルギー管理システム)といったエネルギー管理システムが取りざたされている。実際は、行政も民間もまだまだ混沌とした状況の中で、エネルギー管理のあるべき姿を模索しているのではないだろうか。

本稿では、国内の議論はさて置き、海外でどのようにスマートメーターが活用され、メリットを生み出しているかを紹介したい。こうした事例が、国内での議論の参考になれば幸いである。

(なお本稿の中ではAMIとスマートメーターという言葉が多用されている。スマートメーターは双方向通信機能と電力情報を持つデジタル電力計であり、AMI(Advanced Metering Infrastructure) は、スマートメーターが接続される通信網を含む電力消費データなどの情報取得や、電源制御等を行う基盤インフラにということを意味している。)

会社紹介

NURI Telecom Co.,Ltd.は、1992年に韓国ソウルで起業したべンチャーで、15 年以上AMIソリューションを開発し続けている会社である。現在は、韓国、日本、米国、南アフリカ共和国に法人を持ち、グローバルにAMIソリューションの展開を行っている。

実績として、韓国電力向けの高圧ユーザー向けのAMIシステムは 2003 年に実装完了し以降稼動続けている。2009年にはスウェーデンのイエテボリ電力の低圧需要家(一般家庭)27 万世帯に無線メッシュ通信を利用したスマートメーターと管理システムを実装した。こちらも現在稼働中である。

NURI Telecom のサービス

NURI Telecom は電力スマートメーターのみならず、ガスのスマートメーター、水道のスマートメーター向けのAMIソリューションをグローバル市場に展開している。具体的には、メーターに内蔵する通信機、データを中継するリピーター、データを集約するDCU、クラウド上でデータを管理するサーバーソフトウェアの製品を提供している。

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現在、欧州、韓国、アジア、アフリカなど15 カ国にAMIソリューションを展開しており、特にスウェーデンのイエテボリ電力のAMIプロジェクトは、無線メッシュネットワークを活用したシステムとして広く認知していただき、NURI Telecomの代表的な事例となった。

スウェーデンのスマートメーター実装の経緯

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●従来の検針業務

スマートメーターを実装する前のスウェーデンの検針は、少ないところであると年1 回の検針を行い、その使用料金を4分割して四半期ごとに支払うという運用だった。宅内のメーターが住宅の地下室やアパートの電力室に設置され、検針員が宅内のメーターを毎月読むことは難しかったことも理由である。

しかし、この方法では需要家が毎月どれくらいの電力を使用しているか判らないし、 毎回同じの電気金額なので、アパートの賃貸料金に電力使用料金が含まれることもまれではなかった。この状態では、当然需要家のエネルギーへの関心が低く、”省エネ”という感覚は少なかったと思われる。

●法令による迅速な展開
2007 年、スウェーデン政府は電力の自動検針と電力料金の毎月請求を、2009 年までに実施する ことという法令を作り、3 年に満たない期間で国内のメーター約 550 万個をスマートメーターに置き換えた。国の動きと電力会社の動きがとても迅速だったと感心する。

特にイエテボリ電力では、初期において水道メーターも無線を使用したメーターを実装して、電力と水道のいわゆる共同検針の仕組みを作った。水道の検針データを有償提供することで、電力会社の収益としている。普通に考えると当たり前と思えることであるが、日本も含めてなかなかできている国は少ない。

●プロジェクトの方針決定
イエテボリ電力で、スマートメーターのプロジェクトを進めるに当たり検討したことは、「コストを抑えたシステムを作ること」、「高付加価値のサービスを提供しROI(投資収益率)を良くすること」が挙げられた。

結果としてこれらを達成するために「最新のシステムを導入し、高付加価値サービスを提供する」という 方針を作りプロジェクトを進めた。具体的には、メーター、ネットワーク、上位のシステムにおいて、最新のテクノロジーを採用することと、将来にわたって長く利用可能なインフラになりえる技術を採用することであった。

●通信技術の選択
AMIの重要なポイントである通信技術の選択においてはPLC(Power Line Comunication)、GPRS(General Packet Radio Service)、無線通信について十分に吟味された。

PLCの評価としては、初期投資コストは低いものの、運用コストが高くなるという判断がされた。また新規サービスの提供という観点でも不十分だった。

GSMの評価としては、迅速なサービス提供ができるというメリットはあったが、初期投資も運用コストもコスト高になってしまうという結論に至った。そしてZigBee http://www.zigbee.org/Home.aspxの無線メッシュネットワークの検討では、初期コストも運用コストもイエテボリ電力の想定範囲におさまり、新規サービス提供も柔軟に行えた。長期的な視点においても有効であるという判断をした。

●スマートメーターの展開
スマートメーターを各住宅に実装する作業は、2007年にパイロットプロジェクトをスタートし、2008 年2月にイエテボリ電力が全世帯に向けて展開した。期限である2009年7月まで、90名の電気技師か15ヶ月間、1日10000mの地域を担当し、AIMIRのコンセントレーターやリピーターに加え、 265000個のスマートメーターを導入した。地形を考慮したメーターの設置場所決定や、チューニングなど多くの課題があったかものの、スケジュール通りに作業が完了した。

●イエテボリ電力のプロジェクトの結果と教訓
本プロジェクトの結果として以下のようなメリットが生まれた。

    ・使用量に応じた顧客ごとの正確な請求書の発行が可能

    ・業務の効率化、検針員の作業コスト、車両やガソリン代、メンテナンスコストの大幅な削減によるキャッシュフローの改善

    ・新規サービスの企画や既存サービスの見直しを実現

    ・冷水、ガス、地域暖房など温水の自動検針、街路灯の制御など新規オプションサービスの開発
    ・電力使用量のモニタリングと需要予測の実現

    ・メーターからの正確なデータを使用して、最適な電力計画作成と管理を実施

    ・双方向通信システムによる、スマートグリッド基盤を構築

本プロジェクトの進め方と結果をシステム開発の視点から見ると、本来行うべき検討を正しく進めていることがわかる。手順としては以下のステップであった。

    1.AMI を実装する明確な方針を固めた
    2.業務に基づくシステム要件を作った
    3.通信技術の選定とコストシミュレーションを行った
    4.使用するメーターを特定して、製品選定を行った
    5.スマートメーターの実装展開とシステム実装を行った
    6.実装後評価を行い、サービス拡大のプロジェクトを継続した

このように、要件を明確にし、技術・メーターを選択し、結果的に将来のサービス機能の拡大になっているのである。

反面、国内のスマートメーターの議論を見ていると、どうしても、ハードウェアとしてのスマートメーターの評価が前面に立っているように見える。電力会社から見れば、スマートメーターは運用に必要十分な機能があれば良い。一方でシステムの実装の側面からは、スマートメーターは、電力会社の仕様にとらわれずに、機能に応じて柔軟に選択可能なハードウェアであるべきだと思うだろう。

この点がいつまでもずれているように思える。今後AMIを進化させていく開発するベンダー側は、上位のコンセプトを固め、スマートメーターを、目的を達成するためのデバイスと位置づけて選定し、新しいエネルギーシステム+αのシステムやサービスを作るべきであろう。

PCやタブレットがさまざまな機能を持ち、用途に合わせて作られているように、スマートメーターもユニークな機能を持つもの複数あってもよいのではないだろうか。

AMI実装後の未来の可能性

スウェーデンのイエテボリ電力のプロジェクトにおいては、目的としていた顧客ごとのエネルギー消費量の正確な把握はもちろん、顧客のエネルギー消費に対しての意識向上を図ることがでてきた。

全世帯への導入後、約10%以上の需要家が、毎日電力使用料をWebで確認しているということが判った。これは、スマートメーター導入前にはできなかったことで、需要家のエネルギー意識の向上の表れである。市民のエネルギー意識が変化し、時間と共にこうした意識が日常の行動と一体化することで、省エネ意識だけではなく、エネルギーの有効利用が人々の行動として確立するであろう。

現在では、暖房用の温水検針もこのAMIの通信網を活用して収集し、有償のサービスとして展開 を開始している。これも、エネルギー全般の多種多様な機能を AMI というインフラの上で実装していくという方針が前提となっていたからこそ実現できているのだ。

事例のイエテボリ電力のサービス提供意欲は非常に高く、今後提供したいサービスモデルのアイデアが溢れ出しているようである。具体的な実装を進めていくNURI Telecomは、こうした期待に答えるため日々議論を重ね、具体的なシステムを開発し続けている。

私達が当たり前に利用している情報サービスは、インターネットが有機的につながり、デファクトの技術が確立し、その技術がオープンになることで製品やサービスを自由に作ることができた結果だと思う。

東京電力が国際標準規格の IP 通信をスマートメーターの仕様として採用し世界仕様に改めるとの話もあり、ガラパゴス仕様が少しずつオープンになるのではないかという期待が高まっている。AMIも同様の展開ができたらどんなに良い、数多くのサービスが生まれるか、本当に楽しみである。