
岡山県・玉野市の宇野駅に来ています。かつては寝台特急・瀬戸をはじめとする優等列車がこの駅まで来て、連絡船で高松まで渡っていましたが、今はその役割を瀬戸大橋に譲り、各駅停車ばかり来る静かな駅です。

そんな駅にやってきたのは、瀬戸内海の各島や沿岸地域で開催される芸術祭「瀬戸内トリエンナーレ」を訪ねるため。3年に1度開催されていて、今年は開催年にあたります。
春会期は4月18日から5月25日まで、
夏会期は8月1日から8月31日まで、
秋会期は10月3日から11月9日までが開催期間です。
3年前は香川県・多度津町の粟島を訪ね、

開催期間外ではありましたが、小豆島でも芸術品群を訪ねたことがありました。


今回は宇野駅前にある宇野港から船に乗り、これまで訪ねたことがない新たな地に向かうことにしました。

というわけでやってきたのは「豊島」。「とよしま」とか「としま」と読んでしまいそうになりますが、「てしま」と読みます。岡山県・宇野港からのアクセスが便利ですが、ここは香川県土庄町。小豆島の西半分と同じ自治体に属しています。

豊島には「家浦(いえうら)港」と「唐櫃(からと)港」の2つの港があって、両地区に集落があります。その間をバスが結んでいるのですが、瀬戸内トリエンナーレ期間中はそのバスが頻繁に運転してくれるので便利です。時刻表のうちグレーになっているのが臨時増発のバス。大増発ですね。

両港を結ぶバスに乗って途中の「清水前」で下車します。ここは集落のほか、芸術作品も点在する場所。

ここには日本遺産「唐櫃岡の清水共同用水場」があります。石をひな壇上に積み上げて山からの湧水を上の貯水槽から下の大きな水槽に流し入れています。豊島の石は加工しやすく火に強いことから桂離宮や後楽園などの石灯籠に用いられてきました。石の産出地らしくここでも湧水の貯水槽が石で作られています。

青木野枝/空の粒子
その脇にひとつ、水の波紋のような広がりを見せる芸術作品がありました。

このようなかつて民家だった廃屋の中にも芸術作品は展示されています。

本が溶け、水中で水紋となる様子を描く作品。急須は地元の人の好意で集められたもので、地元の人がアーチストと一体となって地域を盛り上げようとしている姿が窺えます。


清水岡のバス停から歩いて唐櫃港方面に降りていきます。ここは地名の通り丘になっていて、海の向こうの小豆島も眺めることができる絶景スポットです。スカッとした晴れを期待していたんですが、薄曇り。わたしは晴れ男のなので天気を信じていたんですが残念です。

道路が下っていき、海に落ちていくようなこのポイントは豊島の絶景スポットとして知られています。内外の観光客がひっきりなしに道路の中央に出て写真を撮っています。警備員には手に負えないようで、香川県警が来て取り締まっていました。マナーを守って撮影しましょう。


この道路の脇にある道を登っていくと棚田があります。「唐櫃・豊島の棚田」と呼ばれ、豊島美術館を経営する福武財団が町などと協働して一時衰退していた棚田での稲作を再興させこの姿に甦らせました。

豊島美術館は外だけを眺めて唐櫃港に向かって山を下りていきます。芸術祭の開催期間中だからかもしれませんが、島を訪ねる観光客の半数近くが欧米人。レンタサイクルで坂を上り下りする外国人の姿が多く見られます。道路に書かれている案内も英語表記で、ここは欧米なのか?!と錯覚に陥ります。


人が入れ替わる隙を狙って撮影。
丘から降りてきた道が海にぶつかるT字路も絶景スポットとして世界中に知られています。インスタやTIKTOKの動画を上げようと撮影を試みる人たちで混雑していました。

唐櫃港地区にも芸術作品は点在しています。港のすぐ近くにある複数のバスケットゴールがある「勝者はいない」。いろんな国から人たちがシュートにトライしていて、決まると「ナイスシュート!」と声を掛け合っていました。芸術作品から国際交流が生まれます。

港を過ぎて島の北東端にあるのは「心臓音のアーカイブ」。ここでは世界中で録音された来場者たちの心臓の音を聞くことができます。
心臓音なんてみんな同じでは?と思っていたのですが、実は千差万別。真っ暗な部屋で心臓音のリズムを聞けば母の胎内にいるかのような感覚にもなります。パソコンでデータを探れば知っている人の心臓音も見つかるかもしれません。この建物でも1570円の登録料を支払えば心臓音を録音し、登録することができます。旅の記録に自らが生きた証をここで残すのもいいかもしれません。

家浦港近くの作品、針工房。アート作品の販売もあります。

バスで家浦港まで戻り針工房を訪ねます。かつて針の製造工場だった場所に宇和島で放置されていた船の木型を置き、異質なものの融合と調和を演出します。
瀬戸内の海の絶景の中、芸術作品も楽しめる島、豊島。芸術祭はこの周辺の島でも行われているので複数の島をはしごしながら楽しむのもいいかもしれません。
実は私もこの後直島に行く予定だったのですが、少し想定よりも早く家浦港に戻ることができ、違う島に行く船に乗ることができることになりました。そこはまだ一度も行ったことがなく訪ねてみたいと思っていた場所。予定を変更してそちらの島に行くことにしました。次回はその島で体験したことを書きたいと思います。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。






