ビジネスパーソンの多くが抱える悩みの一つに「思うように仕事のスピードが上がらない」というものがあります。努力しているのに成果が出ない、仕事が遅いと感じる—そんな状況に心当たりはありませんか?
実は、その原因は「自分のやり方へのこだわりすぎ」にあるかもしれません。今回は、成果を最速で出すためのアプローチについて考えてみましょう。

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こだわりすぎが成果を阻む理由
多くの人は自ら創意工夫し、努力して身につけた仕事のやり方に強いこだわりを持っています。それ自体は素晴らしいことですが、問題は「やり方」と「結果」の優先順位が逆転してしまうことにあります。
仕事は私たちの充足感や達成感を得るために存在しているのではありません。最速で成果を出すための手段を選ぶことが肝心です。その手段はいつも自分で編み出さなければいけないわけではないのです。
米国コーネル大学の組織行動学部門が2019年に発表した研究によれば、職場で成功している人の78%は、自分の方法にこだわるよりも「結果を出すこと」に焦点を置いているという調査結果があります。つまり、成功者は手段よりも目的を重視しているのです。
成功者のやり方をコピーする効果
私自身も、かつては自分のやり方にこだわりすぎる一人でした。頑張っても成果が出ず、仕事のスピードも上がらない状況が続いたとき、仕事が早いことで社内で有名だった先輩のマネを徹底的にすることにしました。
その先輩のやり方は意外にもシンプルなものでした:
- テンプレートの活用: 頻度の高い提案書を事前に作成しておく
- パレートの法則の実践: 売上が大きい上位2割の顧客に集中
- 意思決定者への直接アプローチ: 決裁権を握る人に事前に根回し
あまり深くは考えずに、ただひたすらマネることに注力しました。それこそ歩く速度まで。その結果、私は仕事が早いという評判がたち、大きなプロジェクトにも同期を差し置いて抜擢されるようになりました。
この「モデリング」と呼ばれるアプローチは、心理学的にも効果が実証されています。認知心理学者のアルバート・バンデューラ博士の社会的学習理論によれば、人間は他者の行動を観察し模倣することで効率的に学習します。特に成功している人の行動パターンを観察し再現することは、独自の試行錯誤よりも短時間で成果につながることが多いのです。
「虚心坦懐」の姿勢が生む成果
私の知人は、バブル崩壊後の超氷河期に3か月の契約社員として大手コンサルティング会社に入社しました。彼は先輩コンサルタントの「トップ層へ直接アプローチする手法」を徹底的に真似ることで、わずか1か月で20社以上の有名企業の役員と面会することに成功しました。
その結果がシニアマネジャーへの昇進と数倍の報酬アップにつながりました。彼の成功の鍵は「虚心坦懐」の姿勢にありました。先入観を持たず、ありのままを素直に受け入れる姿勢が、周囲のプロフェッショナルから学ぶ機会を最大化したのです。
INSEADの研究によれば、「謙虚さ」と「柔軟性」は、リーダーシップの重要な要素であり、学習速度と直接関連しているとされています。自分の経験や知識に固執せず、新しい方法や視点を取り入れる柔軟性が、急速に変化するビジネス環境での適応力を高めるのです。
コピー術の限界と注意点
この方法にも限界があることを認識しておく必要があります。業界や組織文化が大きく異なる場合、そのまま真似ることが適切でないケースもあります。クリエイティブな発想が求められる職種では、過度な模倣が独自性を損なう可能性もあるでしょう。
さらに、単なる表面的な行動の模倣だけでは不十分です。なぜその行動が効果的なのか、背景にある思考法や価値観も含めて理解することが重要です。「型」を学んだ後には「破」る段階、つまり自分なりのアレンジを加える過程が必要になるでしょう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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