“ガラスの天井”は“評価の不透明さ”:識学・乾 一文氏と語る女性活躍のリアル

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「なぜ女性は昇進しにくいのか?」──そう問われたとき、多くの人が“ガラスの天井”や“無意識のバイアス”を思い浮かべるかもしれません。しかし、本当に立ちはだかっている壁は“性別”なのでしょうか。

今回は、女性比率の高い職場で20年以上にわたりマネジメントを経験し、現在は識学のコンサルタントとして多くの企業を支援している乾一文さんに、「女性活躍」の現実と課題、そしてその解決策についてお話を伺いました。

乾 一文(いぬい かずふみ)
株式会社識学 シニアコンサルタント。サンケイリビング新聞社にて女性向けのフリーペーパーの制作などの業務を22年経験。女性がメインとなる職場で約20名の部隊をマネジメントしてきた。後に中小企業診断士を取得し、現職にて組織コンサルティングを担当。

玉村 嘉隆(聞き手)
Webマーケティング支援会社にてCTOを担当。現在独立してフリーランスのWebマーケティングコンサルタントとして活動中。

1. “ジェンダーギャップ”の正体はどこにある?

玉村:日本では女性管理職比率が依然として低く、“ガラスの天井”が語られます。原因は無意識のジェンダー・バイアスだといわれますが、現場感覚としてどう見ていますか?

乾:バイアスはあって当然。ただし “女性だから” だけじゃなく、“学歴” “年齢” など属性一般に貼られるレッテルが障壁になり得ます。

男女ともに非正規や昇進停止を経験する人はいます。結局は“評価基準が曖昧”なのがいちばんの問題です。透明な評価軸=ガラスの天井を可視化するモノサシがないから、バイアスが温存されるんですよね。

乾さんが強調したのは「客観性のある評価基準」がないことでした。

2. 瀬戸弁理士ツイートにみる “中小企業の切実さ”

2023年に拡散した、弁理士 瀬戸麻希さんのX投稿——

「批判覚悟ですが、寿退社や産休・育休で抜けられると困るので、若い女性は正社員で雇っていません」

この“炎上ツイート”をどう読んだか尋ねると、乾さんの感想はあっさりしたものでした。

乾:確かに仕事を覚えて来るまでの間は、会社としては投資の期間ですよね。その投資を回収できないうちに休業、退職される人ばかりだと組織は成り立たないですね。

でも、例えばこの例であれば弁理士の事務所であれば育休中にも事務処理みたいなことを自宅でもできるという可能性はあるでしょう。当然もともとの仕事とは違うので、「この条件で、この仕事をやっていただくことはできませんか?」というオファーなどはできると思います。

玉村:仕事が異なるなら、同じ給与を求めるべきではない。育児前に100の仕事ができていたのが、以降は60になるなら給与も60になるというのは公正な考え方ですね。同一労働同一賃金という、同じ仕事をしているなら、同じ賃金を払うべきだという原則に照らしてみても正しいと考えます。またキャリアの断絶も起こらないので、会社としても働く側としても検討しやすいでしょうね。

乾:企業側としては、ルールを明文化して採用時から提示できるようにすれば、この採用難の現在において、優秀な労働力の確保にもつながるでしょうし、取り組むべきだと思います。

意外にこう考えると、すべてとはいわないにしても、多くの職場では解決可能なシンプルな問題なのかもしれませんね。

3. ポジティブアクションは「基準×公開」がカギ

議論は採用・昇進での「ポジティブ(アファーマティブ)アクション」へ。

玉村:女性の管理職登用を増やすためのポジティブアクションについてお伺いしようと思います。あくまで、“事実+結果”で処遇を決めるという考え方であれば、ポジティブアクションは間違いなのではないか?といえそうですが、いかがでしょうか?

乾:識学は “事実+結果”で評価せよが大前提。だから同じ成果で女性を優遇するのはアンフェアに映ります。ただし〈法律・方針で女性比率○%〉が決まっているなら、それを公開ルールとして運用すればいい。“一定水準クリアした候補の中で多様性を確保する”——障害者雇用と同じ発想です。

ポイントは——

  1. 最低ライン(成果・コンピテンシー)を男女共通で明確にする
  2. 選定ロジックをに開示する

基準が明示されていないから、不満が生まれるといえそうです。

4. 男性育休 “出世に響く” 問題をどう解く?

男性育休への“見えない圧力”についても話題になりました。

玉村:男性が育休をとると、裏では評価を下げられて昇進に響くということも言われていますが、これについてはどう思いますか?

乾:休むとパフォーマンスは下がる。だから評価が下がるのは合理的。休みたいけど給料は維持したいというのは虫がいい話なのでは。

重要なのは“戻ってからどう取り返すかの道筋”をルール化しておくこと。評価基準が明確なら、人は安心して選択できます。夫、妻ともに産休をとることの不利益が明確になっていれば「どちらが産休をとるか?」を冷静に判断することができるようになるでしょう。

これまたシンプルな解決策だと感じました。現在産休をとることを積極的に推進しています。しかし、制度として休むことの不利益と、復帰してからのパフォーマンスの回復による処遇の復帰を明文化することのほうが企業側にとってもメリットがあるので、この解決策が周知されるとこの問題は解決に向かう可能性が高そうです。

5. 乾さんからのメッセージ

乾:『女性活躍』を特別扱いすると話が複雑になります。まずは会社が本当に欲しい成果・役割を言語化し、そこに到達する道を男女問わず複線化する。子育ても介護も“キャリアの迂回路”を設けておけば、人材が枯渇する時代でも組織は強くなるはずです。

まとめ

  • 無意識のバイアスが残るのは 評価軸が不透明 だから
  • 瀬戸さんのツイートが示したのは 小さな組織の代替要員コスト
  • 解決策は 在宅・時短でも成果を測れる仕組み 休職⇔復職の明示的ルール
  • ポジティブアクションは 「一定水準+公開性」 があって初めて正当化
  • 育休を“キャリア断絶”にしないには 復帰後の挽回ステップ を制度に組み込む

“性別などの属性ではなく成果で判断する”その当たり前を社員全員で実行できる組織は、単に建前だけの男女平等ではない強い組織だといえそうです。