どうして“静かな退職”って流行ってるの?と思った時に読む話

最近、メディアで「静かな退職」なる言葉を目にする機会が増えました。要するに、在籍は続けるけれども出世や昇給目指してあくせく働くのではなく、最低限のことしかやろうとしない働きかたを選択する人たちのことですね。

参照:正社員の4割以上が「静かな退職」、今後も「静かな退職」を続けたい人が7割 日本人材ニュース

正社員の4割以上が「静かな退職」、今後も「静かな退職」を続けたい人が7割 - 日本人材ニュースONLINE
正社員の4割以上が「静かな退職」ーーこんな結果が人材サービス会社マイナビの調査で明らかになった。世代を問わず「

参照:「静かな退職者」は47%の人事担当者が「いる」と回答、最低限しかやりたくない MONOist

「静かな退職者」は47%の人事担当者が「いる」と回答、最低限しかやりたくない
日本人事経営研究室が「中小企業が抱える人事課題に関する意識調査」の結果を発表した。退職はしないものの、仕事への熱意を失った「静かな退職者」について、人事担当者の47.0%が会社の中に「いる」と回答した。

なぜ彼らは頑張ることを諦めてしまうんでしょうか。そして、なぜ今、そうした働き方、生き方がクローズアップされているんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。

転職では問題が解決しないわけ

筆者は静かな退職浸透の理由は大きく分けて2点あると考えています。

まずはなんといっても日本企業の人事制度の問題でしょう。

これまで何度か言及してきましたが、日本企業で一般的な年功序列制度においては、多くの人の出世競争は実質的に40歳前後、ポストでいうと課長職あたりで終了します。

もちろんそこからさらに課長→部長→本部長みたいに上がっていく人もいますがごく一部で、大半の人は課長かヒラでキャリアの白黒がついてしまうわけです。

するとそこからは事実上「キャリアの消化試合」となります。まあ頑張れば多少は賞与に色付けてもらえる会社もありますが、大半の人は大なり小なり以下のようなスタンスになりますね。

  • チャレンジしてももう昇給も出世もないので新しいことはやらない
  • 転職やスキルアップにも関心がない
  • といってなにもしないわけでもなく、怒られない程度に最低限のことはやる

筆者は“省エネモード”とか“消化試合モード”と呼んでいますが、これが「静かな退職」の本質でしょう。

フォローしておくと、かつてのように定年が55歳で、しかも年々売り上げも組織も右肩上がりで大きくなっていた時代だったらそれでも問題なかったんでしょう。

大卒者ならほぼもれなく課長以上に出世出来たからまだまだ40代以上でもギラギラしていた人が多かったし、省エネモードに突入してしまっても、せいぜい55歳定年までの10年ちょっとで済みますから。

90年代以前にも消化試合モードの人はいるにはいましたけど、ニュースになるほどの規模ではありませんでしたね。

でも、21世紀の現在、日本企業を巡る環境はがらりと変わってしまいました。実質的な定年は65歳に延び、政府は70歳への引き上げも視野に入れ始めています。

にもかかわらずどの業種でも組織のフラット化、効率化がすすめられポストは慢性的に不足、多くの人間が早々に消化試合モードに突入することを余儀なくなれます。

環境の変化に人事制度が対応できていない結果、望まずとも静かな退職を選択せざるをえない人達が増えてしまったということでしょう。

ただ、一つ疑問が残ります。なぜ、彼らは転職という選択肢をとらないんでしょうか。

「ゼネラリストとして育成されてしまったため、転職したくても出来ない」という人もいるんでしょうが、筆者はそこには別の事情があると見ています。

それが2つめの理由で、一言でいうと「社会保険料の過重な負担」です。

筆者は10年以上前から一貫して「サラリーマンの社会保険料ぼったくられすぎ問題」を唱えているので実感としてよくわかるんですが、この5年ほどで急激にサラリーマンのこの問題への認知が高まりましたね。

10年前には「労使折半なんて嘘だから。全部サラリーマン本人の負担だから」といってもほとんどの人は「??」みたいなリアクションでしたけど、今は「会社負担分も合わせれば我々の実質的な社会保険料負担は30%だ」と言っている人は普通にいますから。

そうそう、つい先日衆院で可決された年金改革法案(例のサラリーマンの積み立てている厚生年金保険料を流用して基礎年金全体の底上げをするやつ)に対し、激怒したサラリーマンが(連合の支援を受ける身でありながら法案支持にまわった)立憲民主党に抗議の電話をかけまくっているとのこと。

参照:「電話が鳴りっぱなし」年金法案で立民に非難の嵐 「厚生年金の流用」イメージ払拭に躍起 産経新聞

「電話が鳴りっぱなし」年金法案で立民に非難の嵐 「厚生年金の流用」イメージ払拭に躍起
年金制度改革法案を巡って自民、公明両党と修正合意した立憲民主党が非難の嵐にさらされている。立民は厚生年金を活用して基礎年金(国民年金)の底上げを要求し、与党は…

たぶん議員も年金官僚もビックリしているんじゃないでしょうか。これまで負担をおしつけ放題だった「物言わぬサラリーマン」が急に怒りの声を上げ始めたわけで。

従来は気付かなかった負担が可視化されることで、

→今までは前向きに働いていた層にも「今の仕事は割に合わない」と感じる割合が拡大する

→「どうせこれ以上頑張ったって天引きされる金額が増えるだけだろう。だったら最低限のことだけやってやり過ごそう」と考える層が拡大する

というのが、静かな退職のトレンドが加速している理由だというのが筆者の見立てです。

そう考えると、転職が最初から選択肢に入っていないことも説明がつきますね。転職したって日本で正社員として働く以上、天引きから逃げられるわけではないですから。

要するに「日本という国でマトモに働くことがバカらしくなった人達が増えている」というのが、静かな退職問題の本質だと言えるでしょう。

以降、

・一方、若手の間で広がる静かな退職とは
・オススメは「静かな退職」よりも「静かなプロフェッショナル化」

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Q:「中途入社ですが入社後に上司と交渉は可能ですか?」
→A:「まずは交渉可能かどうかの確認を。次の転職は慎重を期すべき」

Q:「技能職から総務人事への異動について」
→A:「具体的な役割をイメージしてもらうといいかもしれません」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年6月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。