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急死されると周りは、てんやわんやに
相続手続きというのは、税理士や弁護士でなければ、多くの人は一生のうちに数回しか経験しません。
特に家族が急死した場合、悲しみに暮れる中で、さまざまな手続きに追われることになります。
その中でも特に頭を悩ませるのが「故人の財産の把握」です。
「どこの銀行に口座を持っていたのか」
遺族がそのすべてを把握しているとは限りません。
そんな遺族の相続手続きでの負担を軽減してくれるのが、2025年4月から始まった「預貯金口座付番制度」というものです。
今回は、この制度が被相続人の急死した時の命綱になるという話をしようと思います。
預貯金口座付番制度とは?
預貯金口座付番制度は、正式名称を「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(口座管理法)といいます。この制度は、預貯金者が任意で金融機関にマイナンバーを届け出ることにより、自身の預貯金口座にマイナンバーを付番できる制度です。
この制度のもっとも大きな特徴は、一度に複数の金融機関へマイナンバーを届け出ることができる点です。
今までは各金融機関ごとに手続きが必要でしたが、この制度によって手続きの負担が大きく軽減されます。

急死した被相続人の口座を探す従来の方法
被相続人が生前に家族に話していなかった口座があれば、「多分この銀行に預金はあるはずだ」と当たりをつけて問い合わせをするという次のようなアナログで手間のかかる手続きが必要でした。
1. 自宅を隅々まで探して通帳やキャッシュカードを見つける
2. 預金明細や公共料金の引き落とし口座から銀行を推測する
3. 思いつく限りの銀行に相続人が照会する
4. 各銀行で戸籍謄本や印鑑証明書などを提出して残高証明書を発行してもらう
そこまでやっても、本当にこれで全ての預金を見つけられたのかという疑念が消えることはなく、実際に、相続財産の一部が把握できず、資産が眠ったままになるケースもあったでしょう。
預貯金口座付番制度で被相続人の預金口座の把握が容易に
被相続人が急死した場合だけでなく、生前にマイナンバーと口座を紐付けておくことで、被相続人の預金口座の把握で、次のようなメリットがあります。
1. 口座の所在が一度に確認できる
相続人が任意の金融機関窓口で「相続時照会」を申し込むだけで、預金保険機構を通じて被相続人名義のマイナンバー付番済み口座がすべて特定されます。
つまり、どの金融機関に口座があるか不明でも、一度の手続きで全ての口座の所在を把握できるのです。
これにより、多分ここに口座があるはずと銀行を一軒一軒回る必要がなくなり、相続人の時間的・精神的負担が大きく軽減されます。
特に被相続人が複数の金融機関に口座を持っていた場合、このメリットは大きいと言えるでしょう。
2. 口座の把握漏れを防止できる
被相続人がどの銀行に口座を持っているか把握していない場合、相続人が知らない口座が存在する可能性があります。
預貯金口座付番制度を利用すれば、マイナンバーと紐付けられた口座はすべて把握できるため、資産の取りこぼしを防ぐことができます。
これは特に、被相続人との関係性が遠かったり、被相続人が生前に金融資産について話さなかったりしたケースで威力を発揮します。
3. 迅速な資金確保が可能に
被相続人の急死後、葬儀費用や当面の生活費など、すぐにまとまった資金が必要になることがあります。
口座の所在が速やかに特定できれば、相続手続きを迅速に進め、必要な資金を確保しやすくなります。
相続時照会は、被相続人が亡くなってから10年間利用可能なので、時間が経過してから相続手続きを行う場合にも役立ちます。
生命保険契約照会制度との併用で相続をさらに円滑に
相続手続きを円滑に進めるためには、預貯金口座付番制度と併せて「生命保険契約照会制度」の活用も検討します。
この制度は、被相続人が加入していた生命保険契約を一括して照会できる仕組みです。
この制度は、一般社団法人生命保険協会の会員である生命保険会社に対して、親族等が保険契約者または被保険者となっている生命保険契約の有無を確認するものです。
家族の生命保険契約を一括照会!どこの会社に加入しているか調べられます|政府広報オンライン
急死時の相続をスムーズにするために
最近は、預金にしろ、証券にしろ、取引はネットで完結してしまうため、以前よりも、被相続人の残した預金や有価証券を発見する手がかりが少なくなったと言えます。
その点からすると、預貯金口座付番制度は、被相続人の預金の存在を把握するのにとても有用な制度だといえます。
国に預金口座を把握されることに嫌悪感を覚える人もいるとは思いますが、いくら隠したって、税務署は預金の存在を把握しますよ。
そんなことをいつまでも心配しているくらいなら、さっさとマイナンバーを積極的に活用してメリットを享受したほうが良いでしょう。
マジで、急死されたら、どこに財産があるのか把握するのは大変なんですから。
万一、せっかく家族のために残したお金が、家族の手に届くことなく眠ったままで家族が困窮したということになれば、それこそ浮かばれないでしょうよ。

編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年6月17日エントリー)より転載させていただきました。






