日本の人口は、2010年から減少期に入った。これが日本経済の衰退の最大の原因だと思われているが、著者も指摘するようにこれは誤りだ。過去100年で日本の人口は2.3倍になったが、GDPは35倍になったので、一人当たりGDPは15倍になった。この成長の最大の原因は、高度成長期までは資本蓄積だったが、1980年代以降は生産性の上昇だ。
人手不足を心配する声が財界には強いが、他方で「AIに仕事が奪われる」という説もある。歴史的な経験によれば、絶対的な人手不足がながく続いたことはない。労働供給が不足すると賃金が上がり、労働者が機械に代替されるからだ。同じ理由で、機械に職が奪われてなくなるということもありえない。すべて賃金と機械の価格で調節されるからだ。
労働人口が減っても、それ以上に労働生産性が上がれば成長率はプラスになる。この生産性とは技術進歩だけではなく、労働人口の流動化や働き方の効率化などのイノベーションだ。だから人口減少を過剰に恐れる必要はないが、最大の問題は財政危機、特に社会保障の破綻だ。日本の政府債務は世界最悪であり、人口減少は二つのリスクを高める。
第一は、金利上昇やハイパーインフレで経済が崩壊することだ。政府は通貨を印刷できるので、文字通りの債務不履行は起こらないが、現在の膨大な政府債務(社会保障の隠れ債務を入れると2000兆円以上)を増税や歳出削減で正常化することは不可能なので、「インフレ税」で帳消しにするのが歴史的にも唯一の解だ。
第二は、かりに財政破綻が起こらないとしても、現役世代から老人への巨額の所得移転が行なわれることだ。今の60歳以上とゼロ歳児の(社会保障を含む)生涯所得は、約1億円の差がある。「財政的な幼児虐待」といわれる所以だ。
「成長すれば財政も健全化する」と称して行なわれたアベノミクスは、財政赤字を拡大するだけに終わった。財政破綻を避けるには政治の強い指導力が必要だが、それだけでは縮小均衡に陥る。人口減少で経済が収縮するのを防ぐためにも、生産性の向上が必要だ。「反成長」で成長をあきらめると、絶対的な貧困化と格差の拡大が起こる。
本書は経済学の標準的な見解だが、ほとんどの政治家にはこの程度の危機感も共有されていない。憲法や安保をめぐる無意味な「政治ごっこ」はもうやめ、人口減少時代にふさわしい制度設計を行なうことが、政治の最大の仕事である。