若者世代に気を使いすぎる必要はない

黒坂岳央です。

昨今、メディアの記事やSNSの動画で「若者におじさん認定されるSNS作法」といったテーマをよく見かける。たとえば「LINEで長文は嫌われる」「。 は怒っている印象を与えるので控えたほうがよい」といったものだ。

こうした情報を目にするたび、違和感を覚える。まるで「若者に不快感を与える人=時代遅れの老害だから、無条件に新しい文化へ迎合せよ」、といった“同調圧力”が透けて見えるからだ。

筆者は時代の主役は若者と考えているし、実際に優秀な若者も多く、柔軟で創造性に富んだ彼らの価値観に学ぶべき点は確かに多い。しかし、だからといって何でもかんでも思考停止で若者文化に従うことが、本当に「多様性のある社会」と言えるのだろうか。

むしろ、それは多様性とは逆方向の、単一の価値観を絶対視する排他性ではないか?と感じてしまうのだ。

※本稿はオピニオン記事であるため、ピンポイントですべての主張を裏付ける大規模統計データなどは持ち合わせていない(統計によらない個人の意見がオピニオン記事なので)。一方的に批判を展開するのではなく、あくまで最近の論調への疑問に一石を投じる目的で書かれた。

eli_asenova/iStock

マルハラは本当に正しいのか?

「マルハラ(句点ハラスメント)」という言葉が話題になったのは、2024年後半から2025年初頭にかけてだった。Google Trendsでもこの時期に検索数がピークを迎えており、一部の人々がこの言葉に過敏に反応したことがうかがえる。

実際、筆者の周囲でも、ある日を境に句読点をまったく使わなくなった中高年が何人かいた。プライベートのチャットはともかく、ビジネスメールからも「。」が消えたのを見て、正直なところ違和感があった。おそらく、若者文化への配慮として行動を変えたのだろう。

だが、その姿はどこか滑稽にも映る。なぜなら、若者世代自身が文脈を使い分けているからだ。

自分がYouTubeのコメント欄や、法人の仕事を通じてやり取りする高校生・大学生・新社会人の中には、プライベートでは砕けた文体を使っていても、ビジネス上の連絡ではしっかりとした丁寧な文章を使いこなす人が多い。

「句点=怒っている」という認識も、あくまでSNSやカジュアルなやり取りの文脈において限定した話か、職場の上司に反発する文脈において文化の差異を武器化した特殊な事例と見ることができるだろう。

。がついていると怒っている?

筆者はフルリモートで働いており、テレビ局や出版社と面識のない相手とメールやチャットでやり取りすることが日常だ。だからこそ、テキストのみで誤解を生まない文章力や一定の配慮は必要だと感じる。

一方で、例えば子どもの登校班のLINEグループや保護者同士のやり取りなど、リアルな関係性が前提にあるやり取りでは、「マルをつけるかどうか」で相手の感情を推測するような場面はない。顔を合わせて会話したことのある相手であれば、たとえ「。」がついていても「怒ってる」とは思わない。そこにはリアルでのコミュニケーション実績や信頼関係があるからだ。

これに対し、ネット上での人間関係が中心の若者世代にとっては、テキストの細部から感情を読み取らざるを得ない場面もあるだろう。その感覚に理解を示す必要はある。だが、それは「句読点が悪」だということとはまったく別の問題だ。

年寄り扱いを怖がるほど年寄り

「年寄り扱いされたくない」という恐れから、無理に若者言葉を真似たり、新しいトレンドに飛びついたりする中高年もいる。しかし、トレンドに乗ることが目的化した時点で、それは本質から逸れてしまう。

むしろ、自分の判断や合理性を持たずに「とにかく若者に合わせる」こと自体が、老いへの恐怖心が全面に出ている“年寄りの発想”なのではないかと思う。

どれだけ若作りをしても、中高年は絶対に若者になれないし、もといなろうともしなくていい。必要なのは「その価値観は誰にとって、どの場面で、どんな意味を持つのか?」という文脈を読み取る力だろう。

若者文化は“間違っている”とは限らないし、そこから多くの学ぶべき点もある。だが、それを唯一絶対の正解として押し付ける最近のメディアの論調には違和感を覚えるのだ。

多様性が時代にトレンドというなら、様々な文化を許容しあうという考え方もあって良いはずだ。本当の多様性とは、「若者もいれば中高年もいて、それぞれが異なる文化を持っている」という状態のことだ。

プライベートではスタンプだけで返す人もいれば、仕事ではきちんと句読点をつけて丁寧な文を書く人もいる。それでいいはずだ。「若者文化以外は年寄り臭くて全部ダメ」というのは、排他的で多様性と逆向するように思えるのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。