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消費税は特に低所得者層と自営業者から忌み嫌われている
税金の支払いを好きな人はいません。
ただ、現役世代の会社員などは、社会保障給付について、自分たちばかりが重い負担を強いられる社会保険料よりもまだみんなで負担をする消費税の方がまだマシだとの理解をするものの、高額の社会保険料負担をしていない低所得者層や自営業者は、消費税を親の仇のように嫌っています。
その消費税批判でよく言われるのが、消費税は低所得者ほど所得に占める負担割合が高い「逆進性」があるということ。
それが、食料品などへの軽減税率適用の根拠にもなっています。
多くの経済学者は、高所得者は、バカ高い所得税や固定資産税も負担しているし、一生涯を考えると、所得の低い時も所得の高い時もあるのだから、トータルでは、逆進性という問題はほとんど存在しないだろうとは、いっているようですが、そんなことを言っても、低所得者の耳には届かないでしょう。
消費税逆進性対策 ― なぜ軽減税率ではなく給付付き税額控除なのか|森信 茂樹
仮に、消費税に逆進性はあるということを認めたとして、本気で消費税の逆進性を解消したいのであれば、軽減税率などやめて、給付付き税額控除にしたほうがよいはず。
そこで、今回は、給付付き税額控除ってなんだ?という話をしてみようと思います。
給付付き税額控除とは
給付付き税額控除(refundable tax credit)は、「所得税」から一定額を控除し、控除しきれない残額を現金給付として支払うという二段構えの仕組みです。
所得税からの控除だけだと、満額の控除を受けられる高所得者層と比べて、そもそも所得税をあまり支払っていない低所得者層は、その控除の恩恵を満額受けられないことがある。なので、控除しきれない分は、現金で給付しますよということです。
その控除額は、全員一律の金額とするか、一定の所得水準以下とするか、あるいは税額に一定率を掛けた金額としたうえで上限金額を設定するかなどが考えられます。
この控除額を一律にしたり、一定の所得水準以下の層には手厚くするすることで、相対的に高所得者層よりも低所得者層への支援が大きくなり、所得税を通じて消費税で生じる逆進性を緩和することができるという仕組みです。
消費税の逆進性緩和と相性が良い理由
軽減税率と比べて給付付き税額控除の方が逆進性緩和に優れるのは次のような理由です。
軽減税率
【対象者・税収への影響】
軽減税率は、高所得者層を含めて全世帯に適用されます。さらに、高所得者層ほど高額の食料品を購入するため、逆進性を埋めるための効果は小さいと言えます。
本来、軽減の必要性の低い高所得者層についても低所得者層以上の金額の恩恵をもたらすため、税収減の金額も大きいことになります。
その上、消費税率の変更は柔軟に行うのは難しいといえます。
【事務コスト】
事業者にとっては、販売する側では、レジで8%と10%を区別する必要があり、「みりんは酒だから10%、みりん風調味料なら食品だから8%」等といった、どうでも良いような判断が強いられます。
購入する側でも、スーパーやコンビニでの購入について、食料品を抜き出して8%で処理をするなどの無駄な経理処理の負担が生じます。
さらに、テイクアウトならば8%だが、イートインならば10%という違いから、その判断を避けるために、コンビニはイートインを排除するなど、消費者の生活にも無意味な影響を与える弊害も生んでいます。
給付付き税額控除
【対象者・税収への影響】
給付付き税額控除の対象者は、柔軟に設定が可能です。給付の対象者を一定の所得水準以下とすることで、本当に困っている人にピンポイントでの支援が可能であり、逆進性の緩和の効果も大きいです。
全世帯を対象にするよりも税収減の金額は小さい上、対象者の設定も柔軟に変更ができるため、インフレなど経済環境の変化にも対応がしやすいと言えます。
【事務コスト】
確定申告、年末調整の手続きを通じて、税額の控除を行い、控除しきれない分については、自治体にて給付を行うことになります。
忌まわしき「定額減税」と異なり、年に一度まとめて控除を計算するのであれば、事業者の事務負担はそこまでは増えませんが、複数の事業者にて勤務する者の集計など自治体の事務負担は定額減税の時と同様に大きいとは思われます。
だったら全額給付でいいんじゃないの?
まずは、年末調整や確定申告をした所得税から控除をして、控除しきれない分は給付というのであれば、最初から全額給付すれば良いじゃない。
定額減税の時に給与計算を担当した人なら誰もが思うことでしょう。
ですが、やはり、全員に給付をするには、その分自治体の事務コストが増える。なので、その手前で事業者ができるだけ事務負担を負ってくれということでしょう。
なんでも事業者に負担を押し付ける姿勢は腹が立ちますが、それで軽減税率への無駄な経理処理が減るのであれば、それもありじゃないかな。と税理士の私は思うのです。
それに、控除・給付をするにしても、貯蓄に回るという問題を解消するために、期間限定のマイナポイントで支給をすることで、マイナカードの登録を促すなどの検討をしてみるのもよいのではないでしょうか。
いくら控除・給付をすればよいのか
では、軽減税率をやめた場合、どれくらいの控除・給付を行えばよいのか。推論に強いと言われるAI(ChatGPTo3)に試算をしてもらった結果は次のとおりです。

妥当性
逆進性の緩和
下位2デシルは実質減税、中位層は現状維持付近、上位は増税――という “ゆるやかな進歩課税” に近いプロファイル。
財政効率
軽減税率維持コスト(▲1.0兆円)と比べて、逆進性の是正効果あたりの費用が半分以下。
実務可否
年間給付 1〜4 回であれば行政コストは児童手当レベル。マイナンバー口座連携で自動振込を想定。
世帯年収220万円以下には60,000円、300万円以下には40,000円、380万円以下には20,000円、460万円以下には10,000円の給付をし、軽減税率をやめることで、下位20%は負担超を上回る実質プラス。中位層は「ほぼ相殺~軽い増税」。上位層は純増税が実現するということです。
ほら、「追加消費税のマイナス」は、現在の軽減税率の恩恵ということですよ。明らかに低所得者層よりも高所得者層の方が恩恵を受けているじゃないですか。
その軽減税率をやめることの負担増は、高所得者層のほうが大きく、給付金支給によって低所得者層はその負担増どころか、給付金によって手取りは増えることにもなるわけです。
これを低所得者層が批判する理由はないと思うのですが、なぜか給付金は評判が悪く、消費税減税をやたらと求めるのがちょっと理解ができないです。
消費税は日本中に張り巡らされた巨大な”集金装置”であり、加えた変更の影響は、その装置全体に及んでしまいます。
一方で、給付付き税額控除は、所得税での調整ないし給付であるため、本当に困っている者に対してピンポイントでの支援を行うことが可能です。
本気で逆進性を緩和したいというのであれば、どちらが合理的なのかは明らかです。
2040年度には、今よりも社会保障費は50兆円も増えるとの試算があります。
その負担をすべて社会保険料でまかなうためには、給料の50%を労使合わせて負担しないといけないと言われています。
それを避けるため、消費税でまかなうためには、税率を26%に上げる必要があるとされています。
これはすでに確定した未来なんです。いくら嫌だといっても、今後、消費税の税率は引き上げざるを得ないのです。
消費税の税率アップのたびに、低所得者層への逆進性が問題になるのであれば、できるだけに早い段階で、軽減税率を廃止し、逆進性緩和のための給付付き税額控除導入の道筋をつけたほうが良いのではないでしょうか。
まあ、給付額をその年の所得だけで把握すると「引退したお金持ち」を優遇することになってしまうので、資産をどう把握するのかという超えなければいけない壁も多そうですけどね。
だからこそ、早い段階で、給付付き税額控除導入の道筋はつけておく必要があるのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年6月26日エントリー)より転載させていただきました。






