イスラエル軍が13日、イランの3か所の核関連施設の空爆を開始し、ナタンズ、イスファハン、フォルドウのウラン濃縮施設や各地の軍関連施設を破壊した。イランのIRNA通信によれば、イラン軍参謀総長モハメド・バゲリ少将、イスラム革命防衛隊(IRGC)総司令官ホセイン・サラミ少将をはじめとする軍人指導者がイスラエル軍の攻撃で暗殺された。また、核開発に関与していた核物理学者たちも殺害された。そして23日、イスラエル軍はイランの首都テヘランにある「エヴィン刑務所」を空爆した、というニュースが入ってきた。同刑務所は1979年のイラン革命以降、反体制活動家が収容されている刑務所として知られてきた。

アラグチ外相「イラン国民は自分たちの運命を決めようとする者に対して最後の一滴の血まで抵抗する」と主張、IRNA通信、2025年6月29日
「核関連施設や弾道ミサイル製造工場や軍事基地を空爆するのは理解できるが、なぜ『エヴァン刑務所』を空爆したのか」という疑問が沸いた。ひょっとしたら、同刑務所に収容されている反体制派活動家を解放する目的があったのではないか。すなわち、イスラエルのイラン攻撃は核関連施設や軍事拠点の破壊だけではなく、ハメネイ師を中心とした現イラン体制の転覆を狙っていたのではないか、といった憶測だ。
イランでは2022年9月、22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさん(MahsaAmini)がイスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去した。このことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がった。それに対し、治安部隊が動員され、強権でデモ参加者を鎮圧した。その結果、国内外から激しい批判の声が高まっていった。アミ二さんの死は「女性、生命、自由」というスローガンを掲げて全国に広がった大規模な抗議行動の引き金となった。
同抗議デモに参加した一人のジャーナリスト、サイデ・ファティ(SaeedehFathi)さんは2022年10月16日、警察当局によって逮捕され、「エヴィン刑務所」に拘束された。2か月後釈放され、ウィーンで現在、フリー・ジャーナリストして活躍している。ファティ女史はエヴィン刑務所での体験談をオーストリアの日刊紙「スタンダード」(6月28日付)に寄稿した。
「エヴィン刑務所」がイスラエル軍の空爆で破壊されたというニュースを聞いた時、同刑務所で収容されていた日々が蘇ってきたという。同刑務所にはペルシャ語と英語で「エヴィン拘置所」(Evin House of Detention)と書かれた看板が掛かっている。イラン国民は誰でも知っている名称であり、同時に恐れている場所という。
ファティさんは「エヴィンは普通の拘置所ではなく、イラン共和国の抑圧装置の典型的な場所だ。そこでは反体制派の活動家、ジャーナリスト、デモ参加者が収容されている」という。同女史が収容された日の夜、8人の囚人が亡くなったという。
ファティさんの知り合いによると、イスラエル軍の空爆で鉄の門は壊れ、建物も破壊されたという。イランのメディアによると、イスラエル軍の空爆で16人が殺害されたが、囚人の中には死者はなく、負傷者だけだったという。エヴィンの囚人は別の刑務所に移されたという。ちなみに、国連人権理事会はイスラエル軍の刑務所空爆を国際法違反として批判している。
ファティさんは最後に、「刑務所を釈放されて以来、まだ拘留されている人々のことをいつも思い出してきた。刑務所の鉄の戸が開き、罪のない彼らが釈放される日が到来することを願ってきた。イスラエル軍の空爆ではなく、私たちの手で圧制の壁を壊さなければならないのだ」と書いていた。
IRNAによると、テヘランで28日、イスラエルの攻撃で殺害された精鋭軍事組織「革命防衛隊」や軍の幹部、核科学者ら約60人の葬儀が行われた。葬儀にはペゼシュキアン大統領やアラグチ外相らも参列した。イラン当局はイスラエル軍との戦闘を「勝利した」と豪語し、国民に結束を呼び掛けている。
イランの海外亡命者は「イラン当局は今後、国民への弾圧をこれまで以上に強めていくことが予想される。彼らは反体制派活動家をイスラエルと米国のスパイとして逮捕し、処刑している」と指摘している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






