基軸通貨ドルの代替は進むか?:世界中にケンカを吹っ掛けるトランプ大統領

かつてハワイで「日本円で買い物ができます」という小さな案内看板を見かけたことがあります。当時、外国に行って日本円で支払えるなんてすごい、と思った人も多かったと思います。最近、ハワイに行っていないのでそのような看板があるのかわかりませんが、以前ほどはないと推察します。理由は円安傾向にあったからです。商店主からすれば円が将来高くなると思えば円建て取引に妙味が出てきます。

その昔、ブラジルとかアルゼンチンに行ったときは狂乱物価の真っただ中でしたので商品に値段が入っていませんでした。レストランに行ってもメニューに値段がありません。「今の価格は?」と聞かないとだめで、酷いときには午前と午後で値段が変わるという事態に陥っていました。そういう時は米ドル払いを求められます。なぜなら通貨価値が安定していたからです。同様に昔のソ連に行っていた時も街中のスーパーにはモノがなくてもドルショップに行けばふんだんに商品が並んでいました。正にドルの威力を見せつけられたとも言えます。

自国通貨が他国で使えるのは国力そのものと言えます。では昨今囁かれるアメリカの国力低下は何をもたらすのでしょうか?日経の記事に「欧州連合(EU)がユーロをドルに代わる国際通貨にすべく、債券市場の強化に乗り出す。国ごとではなくEUが発行体となる『欧州債』を増やし、投資家の支持を得る考えだ」とあります。

トランプ氏は世界中にケンカを吹っ掛けています。ではそのケンカ、トランプ氏が完勝できるでしょうか?私ははなはだ疑問視しています。氏は自分の負けを絶対に認めないので「参りました、降参です」とは口が裂けても言いません。が、世界では反トランプ派とトランプ懐柔派、トランプ服従派がおり、各国内の政治的立場により様々です。カナダは相当の反トランプ派になりつつあり、欧州はバイデン時代から反アメリカ派は強かったと思います。歴史的にアメリカ嫌いの国々はトランプ氏の様々な発言ではらわたが煮えくり返っているとみています。

トランプ大統領 ホワイトハウスxより

赤沢大臣が臨んだ7回目の訪米交渉も厳しかったようで毎週通うのではなく、ワシントンに延長滞在に変更しようとするも7月4日が独立記念日で日程的にはタイトで更なる交渉の物理的余地が少なく、あきらめて帰国されます。交渉の隔たりは自動車関税にあるとされます。詳細は全くわかりませんが、日本側は相当タフな交渉を継続しています。私が思うに赤沢氏は反トランプではないけれど懐柔に近いスタンスではないかと思います。少なくともひと昔前は日本はアメリカに服従型でしたのでその熱意には脱帽です。(但し、トランプ氏はこれ以上の交渉を望んでいない様に見受けられます。)

では基軸通貨ドルの代替は進むのか、というお題に対してじわじわと進む確率はかつてなく高まっています。では欧州のようにユーロを国際通貨にしようとする明白な動きや中国が元の国際化を目指すなど通貨の国際化花盛りになっていていますがそれが高じるとどうなるのでしょうか?

ずばり通貨の多極化が起きる可能性を見ています。世界で4極ぐらいの通貨ベースができてもおかしくないでしょう。そしてその4極をつなぐ役割の一端を担うのが金と仮想通貨という見立てを想像しています。仮想通貨は安定通貨としての価値には程遠いのですが、ごく短期の価値交換手段としての機能は既に兼ね備えており、仮に世界に複数の通貨極ができた場合、相互のやり取りを仮想通貨で行うことは可能だとみています。

その場合、仮想通貨をある程度交換準備手段として「備蓄」しておく必要がでてくるでしょう。金や仮想通貨は政府保証通貨ではないため、国境がなく、だれもが世界共通の相場に基づいて価値認識できるというメリットがあります。一方、ドルや元、ユーロにしても政治的背景が強く、それは一夜にして政変による不安定感が生まれるのです。これをマネーの世界は嫌うわけです。

ではその中で円はどうあるべきか、です。夢物語を言うなら東南アジアで円が基軸になれる野望を持てればよいと思っています。1980年代に円の国際化が真剣に検討されたことがあります。71年のニクソンショック、73年の石油ショックが契機で83年にレーガン大統領の発声で「日米円ドル委員会」が発足、円の国際化が真剣に取りざたされています。ところがこれはバブル崩壊と共に水泡に帰しています。円の国際化という議論があったこと自体、今の方には驚きの事実なのかもしれません。

では円の国際化はもはや無理なのか、といえば非常に困難と言わざるを得ないです。テクニック論としてある程度の金利水準を提示する必要があります。高金利には2つの意味があり、1つは高度成長期などに経済が沸騰し続けるために金利を高めに誘導し冷やし玉を入れること、もう1つは国家が衰退期で高金利にしないと通貨の魅力を維持できないケースです。80年代前半の日本はもちろん前者でした。ではこれから日本が4-5%の金利水準を提示できるほどの経済成長ができるかといえば想像力をどれだけ掻き立てても無理ですが、金利が2%程度までなら必死の努力で達成しうるし、アジアの基軸通貨としての最低条件は満たすとみています。

ドル基軸絶対主義が壊れつつあるとみる理由はアメリカ国内の分断、世界の警官から降りていること、国際貢献や国際社会での存在感の希薄化、アメリカへの信認の低下などいろいろあります。パウエル氏の高金利政策は上述の景気が良すぎるというよりドル防衛の意義が強くなっているとみています。よってFRBハト派の声が大きくなればドルの価値は遺棄されやすいと考えています。

欧州が突如、国際通貨ユーロを唱えたわけではなく、それなりの理由、背景、歴史が存在すると考えるとこの「通貨国際化物語」はとてつもなく面白い経済小説になると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。