生ビール、空を飛ぶ:中野区から切り開く都市型ドローン物流の未来

都市の空が、物流の舞台となる日が近づいています。

2025年7月7日、東京都中野区において「ドローンによる都市物流の実証実験」が実施されました。未来予想図として語られてきた“空飛ぶ配送”を、現実のものとする第一歩です。

今回は、生ビールをドローンで運ぶという、前例のない挑戦を実施。冷えた状態のまま配送することに成功し、様々な課題を洗い出しながらも、実験は一定の成果を収めました。

写真1:ビールを運ぶドローン

実験の様子は下記動画(YouTube)でご覧いただけます:

また、本実験は多くのメディアでも取り上げられました。

[NHK]

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20250707/1000119342.html

[朝日新聞]

ドローンで生ビール、安全に運べる? 東京・中野で中央大が公開実験:朝日新聞
 人や建物が密集した都市部の住宅地で、ドローンが生ビールを安全に運べるかを検証するため、中央大学の研究室が7日、東京都中野区内で公開の実験を行った。ドローンによる食料品の配送ビジネスにつなげるねらいが…

[日本経済新聞]

冷えたビールをドローン配送 中央大学が実験、東京・中野の神田川で - 日本経済新聞
キンキンに冷えたビールをドローンでお届け――。中央大学河川・水文研究室は7日、東京都中野区の神田川で河川空間を使ったドローン配送の実証実験をした。新たなビジネスやにぎわいの創出につながるかといった可能性を検証した。ミラテクドローン(東京・品川)が操縦を担った。ビールのジョッキ4杯を搭載したドローンが区の広場を離陸。神田...

またアーカイブはないがTBS「The Time,」でも取り上げていただきました。
私はこの実証実験の責任者でありましたが、残念ながら参議院選挙の最中ということで一部メディアは、議員である私に取材がしがたいということでした。

しかしながら取り上げていただき、大変感謝いたします。

都市部におけるドローン活用の現状

2022年12月5日、ドローンや無人航空機に関する改正航空法が施行され、「レベル4(有人地帯での目視外飛行)」が法的に可能となりました。一方で、都市部でドローンを飛行させるには、第三者の土地所有者の同意や社会的理解が必要で、依然として高いハードルがあります。

特に都市部では、電波障害やビル風、通報リスクなど様々な要素が絡み、実証実験を行うには綿密な準備と調整が求められます。

中野区での先行的取り組み

私たちはこれまで、中野サンプラザでの建物点検にドローンを活用する実証実験を実施してきました。その成果は、全国の高層ビル点検へのドローン活用へと広がっています。詳細は以下をご覧ください:

ドローンの方が人より安全か?中野サンプラザの建物診断で実証実験!

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3月17日、中野サンプラザを対象にドローンを活用した建物診断の実証実験を行いました。私は本実験において企画・調整をさせていただきました。ありがたいことに、この模様はNHKでも取り扱っていただきました。 ドローンで高層ビルの外壁を点検 ...

ドローン、レベル4飛行突!!:中野区での飛行実験実施の様子

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アゴラ掲載の『「ドローン、大都市圏突!!」中野区において準備中』で予告させていただいた実証実験が1月17日に実施された。 その様子をメディアで取り上げていただいた。 東京都中野区など、「有線ドローン」飛行実験 日経新聞 ...

なぜ「生ビール」なのか?

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の試算では、ドローンによる物流ビジネスは「自動飛行」「複数機体の同時管理」などの技術的条件をクリアし、1人で5台を同時飛行することで採算が取れるとされています。

しかし、高価な物品(宝石、臓器など)はリスクが高く、実用性に乏しい。そこで私たちは、再生産可能かつ日常的に需要が高い「フードデリバリー」、特に賞味期限が極端に短い「生ビール」に着目しました。

実証実験の概要

2025年7月7日(月)

実験1:民地を目的地とした配送ルート

  • 出発:公園
  • 経路:河川 → 橋梁 → 管理道路 → マンション屋上
  • 特徴:民地着陸による「完全なドア・ツー・ドア配送」を想定

実験2:交通量の多い橋梁を通過

  • 出発:公園
  • 経路:河川 → 複数の橋梁 → 広場
  • 特徴:通行量が多い都市部での安全対策を検証

図1 実証実験サイト

安全対策と法令順守

  • 飛行計画、監視員配置による安全管理
  • 航空法、道路交通法に基づく事前協議(中野警察署と協議済)
  • 第三者とドローンの30m距離を確保(補助者配置による運用)

ビールはジョッキに注ぎ、専用の保冷容器に収納したうえでドローンに搭載しました。

写真2:ジョッキと保冷容器

河川空間の活用と未来の可能性

都市部でのドローン飛行ルートとして注目されているのが「河川上空」です。国土交通省も2022年度より全国18箇所で河川上空を活用した実証実験を実施。私たちも「TOKYOドローンウェイ研究会」を発足し、中央大学・東京都・中野区・国際航業と連携して参画しました。

安全が確認されれば、今後は高層ビル群や交通密集地でも空路の構築が可能となり、ラストワンマイルの配送効率の飛躍的な向上、環境負荷の軽減、そして災害時の迅速な物資供給にも大きな期待が寄せられます。

社会実装に向けた課題と展望

本実験では、以下のような実際の課題も明らかになりました。

  • 公園離着陸地点に鳥類が多く、離陸に支障が出た
  • 都市部の橋梁通過には人と車両の確認・誘導が必要
  • ビールの泡すら“落下物”とされ、蓋なし輸送は不可
  • 帰宅ラッシュの時間帯と重なり、通過に時間を要した

技術面では、自動飛行・複数機体管理などの進展が必要です。同時に、操縦士(パイロット)の育成や社会的理解の醸成も不可欠です。地道に実証を重ねながら、都市部におけるドローン物流の可能性を一歩ずつ広げていきます。

今回の実証実験は、ドローンのフライトにおいては株式会社ミラテクドローン、場所の提供、プロジェクト支援においては東京都、中野区、金剛産業株式会社、中野新橋商店街振興組合、流域ぷらっとフォーム、中野区白門会のご協力を得て実施されました。ここに記して、深く感謝申し上げます。

また、本実験は「水辺で乾杯」プロジェクトとの連携のもと、水辺とまちの新たな関係性を体現する取り組みでもありました。ドローンが届ける「乾杯の一杯」が、未来のまちづくりを象徴する瞬間となったのです。

写真3 水辺で乾杯2025 ドローンと共に