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朝の通勤電車で見かけるあの人の顔。会議で必ず反対意見を言う同僚。SNSで目に入る特定の投稿。私たちの日常は、大なり小なり「キライ」という感情と隣り合わせです。
「あの人に会いたくないなぁ」「なんであんな言い方をするんだろう」——こんな思いが頭をよぎるとき、私たちは罪悪感を覚えることがあります。「人を嫌うなんて、心が狭いのかもしれない」と、自分を責めてしまうこともあるでしょう。しかし、「キライ」という感情は、誰もが持つ自然な心の動きなのです。

「これで毎日がラクになる! キライな人がいなくなる」(堀もとこ著) あさ出版
[本書の評価]★★★★(80点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
脳科学が明かす「キライ」のメカニズム
人間の脳には「扁桃体」という小さなアーモンド形の部位があります。この扁桃体は、危険を察知し、瞬時に「闘争か逃走か」を判断する役割を担っています。
誰かと出会ったとき、扁桃体は0.1秒以内に「この人は安全か危険か」を判断します。相手の表情、声のトーン、身振り手振り——これらすべてを瞬時に分析し、過去の経験と照らし合わせて評価するのです。
たとえば、高圧的な態度を取る上司に対して不快感を覚えるのは、扁桃体が「この人は自分にとって脅威だ」と判断しているからです。これは太古の昔から人類が生き延びるために必要だった、本能的な防御反応なのです。
現代社会では命の危険にさらされることは少なくなりましたが、この判断システムは今も私たちの中で働き続けています。そして、この古代から受け継いだシステムが、現代の複雑な人間関係の中で「キライ」という感情を生み出しているのです。
「キライ」を生む5つの要因
日常生活で「キライ」という感情が生まれる場面は実に多様です。
最も一般的なのは価値観の相違でしょう。時間にルーズな人と几帳面な人が一緒に仕事をすれば、必然的に摩擦が生まれます。また、コミュニケーションスタイルの不一致も大きな要因です。直接的な物言いを好む人と、婉曲的な表現を大切にする人では、お互いに「なぜそんな言い方をするのか」と不快に感じることがあります。
過去のトラウマも無視できません。威圧的な父親に育てられた人は、同じような雰囲気を持つ人を本能的に避けようとします。これは意識的な判断ではなく、脳が自動的に「危険」と判断してしまうのです。
さらに、嫉妬や劣等感という複雑な感情も「キライ」の原因となります。自分にないものを持っている人、自分より優れていると感じる人に対して、素直に認められない気持ちが「キライ」という形で表れることがあります。そして意外に多いのが、生理的な反応です。声の大きさ、話し方の癖、においなど、五感に関わる不快感は理屈を超えて「キライ」という感情を生み出します。
感情の背後にある「投影」という心理
「キライ」という感情は、時として自分自身を映す鏡になります。
心理学では「投影」という現象があります。自分の中にある認めたくない部分を、他者の中に見出して嫌悪感を抱くというものです。
たとえば、自信満々な人が苦手だと感じる場合、それは自分の自信のなさへの不安の表れかもしれません。ルーズな人にイライラするなら、自分の完璧主義的な傾向が関係している可能性があります。感情的な人を嫌う人は、もしかすると自分の感情表現を抑圧しているのかもしれません。
このような気づきは、自己成長のチャンスでもあります。「なぜこの人のこの部分が気に触るのか」を掘り下げることで、自分の価値観や課題が見えてくるのです。
興味深いことに、ピカソの作品を「革新的」と評価する人もいれば「理解不能」と感じる人もいるように、同じ対象でも人によって反応は180度異なります。これは、私たちの脳がそれぞれ異なる経験や価値観というフィルターを通して世界を見ているからです。
「キライ」という感情は、あなたの脳が「これは自分にとって重要な何かに関わっている」と教えてくれているシグナルなのかもしれません。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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