米側90%利益分配の謎
謎が残る。22日トランプ大統領によるSNSで発表された日米関税交渉合意は、25%関税が自動車関税含め15%となる等、日本側にも概ね好意的に受け止められ、発表されると日経株価も急上昇した。様々な項目があるが、筆者にも少なくとも日本に著しい不利益を齎すものではなく、石破首相・赤沢大臣コンビの成果と思われた。
SNSの文面には下記記述もあった。
「私の指示のもと、日本は米国に5500億ドルを投資し、その利益の90%を米国が受け取ることになります。この取引は数十万の雇用を創出します――このようなことはこれまでにありませんでした。」
筆者は、これを見て、これは流石に「米国人賃金含めて90%の付加価値を米国が受け取る」と言う意味であろうと取った。トランプ氏が米国有権者に向けていつもの大きなラッパ(誇張された真実)を吹いたものと。であれば、トランプ氏の指示に沿った投資である点は日本側に不利ではあるが、投資に対する分配比率としてはそれ程無理難題なものとは言い切れないだろう。
しかし、その後23日に発表されたホワイトハウスの公式文書の記述は、より明確に下記のような表現となっている。
「トランプ大統領の指示により、これらの資金は、次のような米国の戦略的産業基盤の活性化に向けられます。」(略)
「米国はこの投資による利益の90%を保持し、米国の労働者、納税者、地域社会が圧倒的な利益を享受できるようにします。」
これは、文字通りの当期最終利益若しくは税引き前利益の90%を米国側が得るとも読み取れる。ビジネスや同盟関係の常識から言えばそのような取り決めは有り得ないのだが、その可能性は捨て切れず、公式文書によって一層高まったと言える。
退陣か?起爆か?
そもそも、なぜこの様などちらとも取れる文章となっているのか? 察するに、トランプ氏としては他の取り決め事項を守る事に加え、表立っては多くを語れない中国包囲網の形成への協力を実行させるための遠隔爆破装置として日米合意の中に仕込んだと見れば、パズルが解けたような気がする。
これを除けば、日本は様々な譲歩を強いられたとは言え、交渉は成功だったと言える。よく考えればこれも不思議な事だ。話し方も、外見も、何から何までとてもトランプ氏から好まれると思われない石破首相、日米交渉に関して首相が参院選街頭演説で「なめるな!」と発言し、中国に領海領空侵犯されてもヘラヘラと遺憾砲を撃つだけの石破政権に対して、トランプ氏が日経株価を跳ね上げる程の好条件で折り合う事は意外過ぎた。
さて、参院選で自公共に惨敗した石破首相は、憲政の常道から言えば退陣必須のはずだが、日米合意を花道ともせずに居座りを続けている。戦後80年談話を残し、絵空事に過ぎない小沢一郎氏の「日米中正(二等辺)三角形論」をも遥かに超えて日中同盟、中国を盟主としたアジア版NATOの父となって歴史に名を刻みたいかのような風情も覗える。
だが、石破首相がその道を進めば、トランプ氏の仕込んだ80兆円投資、米国側90%利益分配のスキームが確定し、日本経済諸共吹き飛ぶ事になるのではないか。
先の参院選で示された民意を踏まえ、筆者は石破路線の逆を行く新政権の至急の登場を望む。

続投の意向を示した石破首相NHKより






