「がんばれ」では解決しない「やる気」の正体

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「何を始めても長続きしない」
「すぐ飽きてしまう」
「自分には根気がないのかもしれない」

そんなふうに感じて、落ち込んでいませんか? せっかく立てた新年の目標も、気がつけば忘れてしまい、自己嫌悪に陥る──そんな経験は、多くの人がしているはずです。

でも、ちょっと待ってください。それは本当にあなたの「甘え」なのでしょうか?

精神科医が教える! 心がスッと軽くなる93の処方箋」(樺沢紫苑 著)PHP研究所

ドーパミンが作り出す「3カ月の魔法」

新しいプロジェクトを始めたとき、習い事を始めたとき、ダイエットを決意したとき。あの時感じた高揚感を覚えていますか?

この「やってやるぞ!」という気持ちの正体は、ドーパミンという脳内物質です。目標を設定すると分泌されるこの物質が、私たちに行動を起こすエネルギーを与えてくれます。

しかし、ドーパミンには賞味期限があります。それが約3カ月。つまり、どんなに強い決意で始めたことでも、3カ月を過ぎると自然とモチベーションが下がるようにできているのです。

これは進化の過程で身についた仕組みだと考えられています。狩猟採集時代、同じ場所に3カ月以上とどまることは、資源の枯渇を意味しました。だから人間は、定期的に新しいことに興味を持つよう進化したのかもしれません。

では、3カ月を超えて継続するにはどうすればいいのでしょうか。

キーワードは「小さな成功体験」です。

例えば、英語学習なら「今日は新しい単語を5個覚えた」、運動なら「階段を上っても息切れしなくなった」、仕事なら「会議での発言が1回増えた」。どんなに些細なことでも構いません。

重要なのは、その変化を「記録」すること。手帳でもアプリでも、形は問いません。自分の成長を可視化することで、脳は「成果が出ている」と認識し、新たなドーパミンを分泌します。これが次の3カ月への原動力となるのです。

こんな症状を「甘え」だと思っていませんか? 違います。これは、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質のバランスが崩れているサイン。いわば「心の風邪」のようなものです。

風邪をひいたとき、「根性で治せ」と言う人はいません。休養を取り、必要なら薬を飲み、体を労わります。心の不調も同じです。休息が必要なときは休み、ストレスの原因から距離を置き、必要なら専門家の助けを借りる。それは甘えではなく、適切な対処法なのです。

自分との新しい付き合い方

特に注意したいのが季節の変わり目です。気温の変化、日照時間の変化、生活リズムの変化。これらは知らず知らずのうちに、私たちの心身にストレスを与えています。

「春なのに気分が晴れない」
「秋になると憂鬱になる」

これらは決して珍しいことではありません。季節性の気分の変化は多くの人が経験するもの。大切なのは、そんな自分を否定せず、受け入れることです。

私たちは、つい「もっとがんばらなければ」と自分を追い込みがちです。でも、脳科学が教えてくれるのは、人間には限界があるということ。そして、その限界は「弱さ」ではなく「仕組み」だということです。

3カ月で一度立ち止まり、小さな成果を確認する。疲れたら休む。調子が悪いときは無理をしない。これは逃げではなく、長く続けるための戦略です。

あなたの「続かない」は、甘えでも怠惰でもありません。それは、脳からの「ちょっと休もう」というメッセージかもしれません。そのメッセージに耳を傾けることから、本当の継続力は生まれるのです。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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