アステラス社員、上訴せず懲役3年6月が確定:公安庁への情報提供はなぜ漏れた?

中国でスパイ罪に問われていたアステラス製薬の60代の日本人男性社員が、懲役3年6月の実刑判決を受け、上訴せずに刑が確定しました。

男性は中国国内の政治や経済に関する情報を日本の公安調査庁に提供し、その見返りとして報酬を受け取っていたとされ、中国当局はこの行為を「スパイ活動」と認定しました。公安調査庁は法務省の外局で、日本国内外の治安や情報収集を担当する組織ですが、中国側はこれを「スパイ組織」と見なしていると考えられます。

取り調べの際、中国当局は罪を認めれば量刑が軽くなる制度があることを説明し、男性はこれに応じて自白しました。中国では2018年に司法取引制度が導入されましたが、この制度を邦人が利用したのは今回が初めての例とされています。

2014年に中国が反スパイ法を施行して以降、少なくとも17人の日本人が拘束され、そのうち9人が公安庁への情報提供を理由に実刑判決を受けたとされています。今回の男性もその1人であり、公安庁との関係がスパイ認定の決定的な要素になったとみられますが、中国の国家機密の範囲が非常に広く定義されており、その内容が明確に示されていない場合も多くあります。そのため、本人にそのつもりがなくても、知らず知らずのうちにスパイ行為とみなされるような情報収集や発言をしていた可能性があります。

一方、日本政府や在中国日本大使館は、中国の不透明な司法手続きに対して懸念を示し、拘束中の邦人の早期釈放と手続きの透明性の向上を引き続き中国側に求めています。こうした一連の動きは、日本企業の対中ビジネスにも影を落としており、現地出張の自粛や情報管理の徹底など、慎重な対応を取る企業が増えています。

中国との関係については、「郷に入っては郷に従え」とする経済界の声がある一方で、日本国内では「中国に対して政治的な対処が甘いのではないか」との批判も強まっています。

背景には、習近平政権が国家安全を最優先とし、スパイ摘発を強化する姿勢があり、今後もこの問題が日中関係に与える影響は無視できない状況となっています。

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