最低賃金は上がれども…:最低時給1500円は妥当か?

2025年度の最低時給が1118円に向けて最終調整が進んでいると報じれらています。この話、ご興味ある方にとっては「あれ?そんなに高くなったっけ?」であります。2023年に初めて1000円を超えたのですが、昨年24年は1055円。そして今年は63円高の1118円で決着を目指していますが、大揉め状態であります。

この決定には消費者側と経営者側が調整を進めるわけですが、本稿を書く8月3日時点で6回協議をしていますが、決まらず、次回は8月4日に予定されています。仮に63円高で決まれば上げ率は5.97%であります。

以前、石破氏が2020年代までの最低時給を1500円に引き上げると表明したことに対して高橋洋一氏がぼろくそに言い、そんなのは無理と断言しておりました。氏の論拠は毎年7-8%もの最低時給引き上げを継続できるわけがないというものです。詳しくは忘れましたが、最低時給の上昇とは経済発展、特に国内経済指標であるGDPがそれに近い上昇を伴わなければ企業の利益が圧縮され、経済が成り立たないというものだったと思います。

石破首相 首相官邸HPより

理論上はそれが正しいのですが、多数の従業員を抱える企業経営者は従業員の賃金が6%上がったら従業員を減らそうと算段をします。高橋氏の論拠にはそこが抜けていた記憶があります。

一応、石破氏の「2020年代に1500円」が本当に達成できるかを計算します。仮に2025年が1118円で決着したとします。上げ率5.97%を年6.0%と単純化して計算します。これが毎年継続されるとどうなるか、です。

2026年 1185円、 27年 1256円、 28年 1331円、29年 1411円、 30年 1496円…

石破氏の2020年代に1500円は達成できないのですが、2030年にほぼ1500円に到達するのです。

ではお前は最低時給1500円は妥当だと思うか、と聞かれるとYESと言わざるを得ません。それは日本がガラパゴスで完全自給自足経済が成り立たない限り、世界の影響は受けるのです。例えば外国人労働者がコンビニや飲食、農業の分野など幅広い業種で下支えしています。ところが彼らは時給が安い日本を敬遠し始めており、ベトナムの人は減ってきています。となると今後、日本が受け入れれられるのはカンボジア、ラオス、ミャンマー、更に西のバングラディシュといった国の人に変わっていくとみています。何が悪いかといえば日本は低賃金の人しか雇えない足腰が弱い経済の上に成り立ってしまうということです。

またグローバル経済という言葉がまだ使えるなら日本よりより高い時給の国で生産されたものは一般論として日本よりも高い金額になりやすいのです。たとえばポルシェやBMWが高いのは性能よりも製造コストの問題がはるかに大きいのですが、それをステータスとして喜んで買う人がいるだけの話です。

時給が上がると国内経済が潤いやすいことは事実です。消費増⇒企業収益増⇒法人税や個人所得税など増⇒財務省ハッピー というシナリオです。

日本の消費は既に成熟していないか、という議論ですが、60歳代から上の方の消費=モノを買うというスタイルからコト消費に変わっていることがキーワードです。推し活で新幹線に乗り、その地に宿泊し、ローカルフードも消費するといった一連の流れでは手元にモノは何も残らず、体験だけが残るのです。

では企業側の立場で見るとどうでしょうか?2000年代初頭、カナダ、アメリカで急激な最低時給引き上げが連鎖反応的に起きました。カナダの場合、州ごとに最低時給は決まるのですが、州と州のギャップを埋めるように各州で激しい上昇が生じ、私ども経営者としては商品価格の値上げと共にスタッフを絞り込む両面作戦を展開せざるをえませんでした。その結果、職がない人が増えた一方、仕事をしないで暮らす人も増えたのが事実です。アルバイト的なつなぎだけで生活する人、特に親からの不動産などの遺産がある場合、働くことを辞めるのです。いかついガタイの入れ墨のお兄さんがかわいい子犬を日中散歩させていたりすると違和感満載です。大学を卒業したけれど…という一流大学卒、職業ナシなんて普通になってしまったのです。

現代のAIの進化は究極の効率化ですし、AIに隠れてあまり話題になりませんが、ヒューマノイド型ロボットが加速度的普及をするまであと数年程度だと思います。また割と安いのが特徴でどんな機能を持たせるか次第ですが、中国製なら一体100万円を切る水準からあり大衆自動車並みの金額と言ってよいでしょう。つまりロボットが職を奪うのは目に見えており、その時、労働者は何処に追い込まれるかという心配の方が先になると思います。

うまく仕事をゲットした人は1500円でも2000円でも時給をもらえるでしょう。しかし、それは勝者でしかないとも言えるのです。先日、マンホールの点検作業をしていた人4人が硫化水素で亡くなりましたが、あれも将来、ドローンとロボットを組み合わせれば犠牲者が出ない時代が来るとも言えます。

時給1500円は経済の側面からすればよさげですが、失業者を招きやすい状況がより強まるのです。日本は少子高齢化だから労働者は引く手あまただろう、と思われますが、こんなシナリオ、数年で大逆転も大いにあり得る時代に突入していることだけは認識した方がよさそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月4日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。