選挙大敗後に支持率爆上げ?この国の世論調査はどうなっているのか

39%。読売新聞が8/24に発表した石破内閣の支持率である。7月から17ポイントの上昇。いや、ちょっと待てよ。7月の参院選で歴史的大敗を喫したばかりの政権が、なぜ1ヶ月で「人気回復」できるのか。

私は多少の統計をかじった人間だが、これは異常だ。標本誤差は普通±3%程度。17ポイントなんて変動、同じ日本国民に聞いているなら起こりえない。

朝、コンビニで新聞を買いながら、レジの店員さんに聞いてみた。「石破さん、支持します?」。苦笑いで「ノーコメントで」。そりゃそうだ。

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世論調査の闇、深すぎる

各社の世論調査を見ていて、いつも腹が立つことがある。「有効回答1,247」とか書いてあるが、じゃあ何人に電話したんだ? 回答率は? 年齢構成は?

何も書いていない。

ある調査会社の知人(飲み友達だが)に聞いたことがある。「回答率って実際どれくらい?」「……言えない」「そんなにヤバいの?」「2%とか3%とか、そんなレベル」。

は? 100人に電話して2人しか答えてない? その2人が「国民の声」? 冗談だろう。

しかも最近は固定電話がない家が増えている。うちもない。つまり私のような40代以下の意見は、そもそも調査に反映されにくい構造になっている。携帯にもかけるというが、知らない番号からの電話に出る人がどれだけいる? 私は絶対出ない。

投票は無記名、なのに党内は記名って…

ここで憲法の話をしたい。第15条4項。

「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」

当たり前だ。誰に投票したか分からないから、本音で投票できる。上司や近所の目を気にせず、自分の意思を示せる。民主主義の基本中の基本。

なのに、だ。

自民党の総裁選前倒し云々の話。党内投票は「記名式」にするという。誰が誰に投票したか、バッチリ分かる方式。しかも記名捺印まで求めるとか。

アホか。

これじゃ派閥のボスに逆らえないじゃないか。「お前、俺に逆らったな」って後で締め上げられる。公認外されたり、カネ止められたり。そりゃ本音なんて言えない。

国民には「秘密投票で審判を」と言いながら、身内では「お前の投票、全部見てるぞ」。ダブスタにもほどがある。

専門家として言いたいこと

私は以前、マーケティングを教えていたことがある。生徒には必ず言っていた。

「データを見る時は、必ず『どうやって集めたか』を確認しろ」

世論調査の多くは、この基本すら満たしていない。調査方法の詳細を公開しない。補正方法も不明。これじゃ占いと変わらない。いや、占いの方がまだ正直かもしれない。「当たるも八卦」って最初から言ってるから。

さらに腹立たしいのは、メディアがこの数字を無批判に垂れ流すこと。「支持率回復!」「石破政権に追い風!」。

違うだろ。

まず「この調査の信頼性はどうなのか」から始めろよ。回答率2%の調査結果を「国民の声」として報道する神経が分からない。

あと、電話調査に頼りすぎるのもどうか。ネット調査は偏るというが、電話調査だって十分偏ってる。むしろ複数の方法を組み合わせて、その差異も含めて報道すべきじゃないか。

選挙で負けたのに支持率上昇。この矛盾、実は矛盾じゃないのかもしれない。そもそも世論調査と選挙結果を同列に語ること自体が間違いなのかも。

片や回答率2%の電話調査。片や投票率50%超の国政選挙。どっちが「民意」か、考えるまでもない。

次の選挙まで、まだ時間はある。それまでにこの国の民主主義が少しでもマシになることを……期待はしてないが、諦めもしない。諦めたら、そこで試合終了だから。

(筆者は作家兼調査オタク。石破総理とは一度も会ったことがないが……)

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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