李明博大統領の行動を国内経済の不安要因から読み解く --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

李明博大統領の唐突ともいえる竹島上陸はオリンピックの女子バレーや男子サッカーの日韓スポーツ対決に別のバイアスをかけてしまいました。正直、至極残念な行為だと思います。

今年暮れの韓国大統領選に於いて李明博大統領が不利である点は明白になりつつあり、特に大統領の実兄のトラブルは計画されていた発表だとしても同国の独特の文化社会をみたような気がします。それを受けてか、あるいは大統領のイメージ刷新を狙った単独行動だったかは別としても一国の大統領が取る行為としては稚拙だったと思います。


ですが、もしももう一点、私が考える大統領の行動のバックグラウンドは韓国経済の潜在的不振からくる国民のフラストレーションの発散を狙ったのだろうか、という点であります。

ご承知の通り、韓国といえばサムスンが日本の家電を圧倒的に凌駕し、現代自動車も世界5大メーカー入りを目指して激しい販売攻勢に出ています。日経新聞によれば韓国株式指標における両社のウェイトは23%にもなり、極端な話、両社の株価が上がれば他が多少下がっても持ちこたえられるという事になります。事実、サムスンは素晴らしい内容の四半期決算を発表しており、結果として全体の株価指標も健全に見えます。

ですが、新聞でも指摘していますが、韓国の国内で抱える最大の問題が建築業と不動産業であります。私は今、韓国不動産市場を研究しておりますが、どうも、日本と15年遅れのほぼ同じシナリオを描いている気がするのです。

基本的には韓国不動産はキャッチアップの時代が長く続きました。これは世帯数に対して住宅戸数が不足していたため、政府主導でニュータウンやマンションなどを作り続けたわけです。結果として2000年頃にそれが100%、つまり、バランスがとれたのですが、それ以降も建設を進めました。現在110%を越えてきたと思います。私はこの数字そのものは悪くないと思うのですが、問題はペースが速すぎたこと、そして、日本よりはるかにひどい少子化の中で明らかに不良開発物件を抱えた不動産業、建設業が増大してしまったということです。

結果として例えば日本の信用金庫にあたる貯蓄銀行の貸し出しはいつの間にか建設業の不動産融資で汚染され、経営が悪化してています。住宅価格はソウルで昨年11月頃からマイナスに転落、全国ベースでもここに来てマイナスに下落してきています。また、そのチャートはきれいな下落線を取っており、今後、このトレンドを反転するのは容易ではないと見ています。

アメリカ当局者は日本型のバブル崩壊はないといい続けましたが結局同じ道を歩んでいます。韓国もまったく同じことを言っているのですが、残念ながらその方向に向かうはずです。政策当局者は日本のバブル崩壊に至る間違いを政策面から研究し、結果として自分達は日本と違うといっているのですが、私は何度も指摘している通り、不動産バブル崩壊は家計が中心であり家計が住宅ローンで痛むことで消費活動全般に冷え込み心理的連鎖を起こすものなのです。

日本ではサムスンの脅威というイメージが強いと思いますが、私は韓国国内においては建設業、不動産業、銀行というオールドエコノミーの歪に対する不満があちらこちらで出てきていると思います。また、アメリカとのFTAも李明博大統領が強行した際、国内の強い不満を押し切った形となり、たまっているものがあるような気がいたします。

個人的には韓国経済を注視していますが、下振れリスクを勘案したほうが良い気がしています。その中で国内問題を外交に振ったともとれる今回の判断は中立的にみても失策ではないかと思っています。

今日はこのぐらいにしましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年8月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。