日本の国際政治学者の方々によれば、8月の欧州首脳の訪問によって「欧州統一メッセージがトランプに突き刺さった」ということだった。

ところがロイター報道によれば、トランプ政権は、バルト諸国に対する軍事支援を打ち切る方針を、8月下旬に欧州側に伝えていたという。

トランプ政権が行っているウクライナ向けの武器支援も、その費用は欧州諸国が負担している。つまりアメリカは、欧州人に武器を売って儲けているだけだ。トランプ大統領は、日本の国際政治学者の解説を、全く聞いていないようだ。

ilyasov/iStock
9月に入ってロシアの領空侵犯が繰り返しニュースとなっている。日本においてのみならず、欧州などでも、「ウクライナ応援団」系の方々が、NATOは報復せよ!と盛り上がっている。
9月9日にポーランド、14日にルーマニアで、ロシアのドローンが領空侵犯したとのことだった。ただ、ロシア政府は、そのような遠方まで飛行させられないと述べ、自国のドローンであることを否定した。ロシアに好意的な立場を取る人々は、ウクライナ政府が仕組んだ偽旗作戦だったと解説している。
Scott Ritter ON Russian Drones in Poland
This is a false flag operation by the designed, in an act of desperation, to get NATO to intervene.
Desperation by Ukraine, designed to create provocations that will lure Europe into, their losing conflict with Russia. pic.twitter.com/GxQGuiHYod
— Ignorance, the root and stem of all evil (@ivan_8848) September 12, 2025
「ウクライナ応援団」系の方々は、NATOの報復を唱えるが、東欧の小国が報復することは奨励しないのが普通のようだ。つまり、アメリカよ、ロシアを攻撃してくれ、というわけである。
もともとドローンがどこから来たのか、どの国の政府の所有物であったのかを識別することは、極めて難しい。ポーランドに飛来したドローンは撃墜されたが、残骸があっても識別は難しい。いずれにせよ、断定するには、根拠が必要である。
しかし欧州諸国の多数がロシアだと言っている以上、多数決でロシアのドローンであることが決まっている、といった主張をする方もいる。
本件、改めて調べたらNHKは、ポーランドに飛来したドローンが露のものとする断定を一貫して避けている。露の行為が意図的だったかについては一部で議論があるものの、飛来したものが露ドローンであったことを疑問視する声はほぼ無い。NHKは何を根拠にそのような姿勢をとるのか説明が必要では? https://t.co/ELfTVPO4hg pic.twitter.com/tAGPSN6RvW
— Michito Tsuruoka / 鶴岡路人 (@MichitoTsuruoka) September 13, 2025
19日にエストニア領空をロシアのMIG-31が12分間侵犯したというニュースも、同じ方面の方々を盛り上げた。
ロシアによる領空侵犯、今度はMiG-31・3機がエストニア領空に入り、首都タリンに向かったとPolitico報道。12分間。伊のF-35がスクランブルして領空外に。ドローンとは深刻度が違う。https://t.co/LcwfyGIh8n
— Michito Tsuruoka / 鶴岡路人 (@MichitoTsuruoka) September 19, 2025
ただ鶴岡教授のポストの文面に関わらず、不思議なことに、実際の「Politico」誌の記事には、ロシア機がエストニアの首都タリンに向かったという文章はない。

(ちなみに「タリンに向かっていた」と報じたのは、ウクライナ応援団プロパガンダ系ニュースサイトのVisegrad24である。)
BREAKING:
Three Russian MiG-31 fighters flew into Estonian airspace and headed toward the capital, Tallinn, according to Politico.
The jets circled for about 12 minutes before NATO scrambled Italian F-35s to repel them.
— Visegrád 24 (@visegrad24) September 19, 2025
ポストの文章と、参照先のニュース記事の内容が合致しないことは、国際政治学者の方々のSNSでは、よく見られる現象である。
Finncial Timesの元記事を読みさえすれば、Candace… https://t.co/Pe88DhkzgJ
— 篠田英朗 Hideaki SHINODA (@ShinodaHideaki) August 12, 2025

もっとも指摘する側のほうが、社会的に抹殺されかねないので、簡単には指摘できない。
東野篤子さんがリポストされました誰が誰を誹謗中傷したのか小学生のいじめを彷彿とさせる奇妙なリポストですね誰かへのサインかな? pic.twitter.com/TxTCR5zhpg
— メケメケ (@zH7OmVUx8o87634) August 13, 2025
19日のエストニア領空侵犯騒ぎについては、エストニア政府が発表した内容から、ロシア機はタリンに向かっていたのではなく、フィンランド湾からバルト海に向かうルートを飛行していたと見られる。

これについてロシア政府は、国際空域だったと主張している。「領空」は、領土と領海の上空を指す。領海は、海岸から12海里=約22.2キロの距離までだ。エストニア政府発表の雑駁な地図で見ると、ロシア機の飛行ルートは、領空侵犯ではないように見える。
ただし、実は、エストニアはこの海域に2,355といわれる数の小島を領有している。そのほとんどが極小かつ無人島だが、それぞれから個別的な領土・領海と領空の設定はなされる(ただし「岩」は除外される)。したがってエストニアの領空の設定・識別は、非常に複雑である。雑駁な地図からだけでは、わからない。
エストニア側は「12分間」領空侵犯があったと主張している。最高速度がマッハ2.83とされるMIG-31は、12分あると600キロを飛行することができる。エストニア政府発表の地図で示されているロシア機の飛行ルートとされる線では、せいぜい200キロ程度しかない。
もちろん非常に低速で飛行することは、技術的には可能ではあるだろう。戦闘機ではあるが、偵察あるいは挑発が目的であったら、意図的に超低速で飛行することも、ありうるかもしれない。だが仮にそうだったとしたら、ロシア側は、非常に危険な速度で、領空侵犯をしてきたことになる。
そもそも上述の事情で、海岸線に近い空域を飛行するのでなければ、島嶼部によって設定され直した領空を飛行して、領空侵犯だったということになるはずだ。しかしそれは海岸と平行には設定されていないので(エストニアは海岸部も相当に入り組んでいる)、12分間連続して領空侵犯できるかは、疑問だ。
状況がつかみにくいところがある。
私は、ロシアは領空侵犯していないと言いたいわけではない。意図的ではなかったと言いたいわけでもない。ただ、この種のことは、即座に素人がお茶の間で事実関係を断定することは難しい、とは考えている。学者は、どちらかというと慎重な物言いになるのが普通かとも思っている。
だが正しいことを言うことよりも、ロシア非難の内容の発言をするか、しないか、が、まずは一番重要なことだ、という風潮が、今の日本では、あまりに根深い。学者界隈でも、あらゆる機会を使ってロシアを非難する、それが一番大切なことだ、という考え方が、常識になってしまっている。
【悲報】筑波大学人文系教授の東野篤子先生、【ノルドストリームを爆破したのはロシアだと思っております】などと、断言なされてしまっていた模様 https://t.co/VWW6UCKPmg pic.twitter.com/H6bVM9vOfp
— 猫戦車 (@neconomesu) August 21, 2025
この記事、色々書いてあるけど、参院選の話は「山本一郎氏がそう言った」だけが根拠。大丈夫なのかね。一橋大学教授の論考の根拠が、山本一郎氏一人にかかっている。まあ私の意見はそもそも「親露派」扱いだけどな。
参院選から考えるロシアの影響工作と情報空間 https://t.co/yiAKENjgpU
— 篠田英朗 Hideaki SHINODA (@ShinodaHideaki) September 18, 2025
もしこれに合致しなければ、「虚栄と独善」にやられて「闇落ち」した「親露派」の「老害」、と揶揄されたりする。

暮らしにくい時代だ。
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